風の音を聞いても悟る人がいる

 松下幸之助さんのベストセラー本『松下幸之助 成功の金言365』の改訂新版が刊行されました。運命を生かす  松下幸之助 成功の金言365』(PHP出版、2018年9月)です。松下幸之助さんの膨大な著作と発言記録から、知恵と勇気に満ち溢れる文章を厳選、抜粋・収録・編集しています。携帯に便利な新書版サイズで、毎日読んでもへこたれないような堅牢な特製ビニールクロス表紙を使用しているので、いつも持ち歩いて読んでいる私にとっては、本当に有り難い新版となっています。その4月30日付けには、次のような言葉が載っていました。

 全く同じ話を聞いても“いい話だった”と感動する人と“つまらない話だった”と思う人がいますね。ということは、話のよしあしは、その内容より、むしろ聞く側の態度によって決まってくる。聞く側に大部分の責任があるともいえるわけです。ピューという風の音にでも悟る人がいるのですから・・・・・。

 この言葉は松下幸之助さんの名言だと思います。かつて松下さんの側近中の側近だった江口克彦さんがこのことを回想しておられました。京都の松下さんの別邸「真々庵」でのこと。そこの茶室「青松茶室」で、二人だけ。釜から、ゆるやかに湯気が立っていました。外は木枯らし。庭の杉木立が木枯らしでヒューヒューと鳴っていました。松下さんが飲んで、次に江口さんが飲んで、それでも二人の間で会話はなく、静寂の、わずかな一瞬が流れていると思ったその次の一瞬、松下さんが一言、話しかけてきました。きみなあ、風の音を聞いても悟る人がおるわなあ」―「はあ・・・」 江口さんは、そのとき、この人が何を言っているのか、理解することができなかったと言います。わからないことを言う人だなあ、なにを言っているんだろうか?なぜ、私に言ったのだろうか?頭の中を2~3日、この言葉が駆け巡っていたそうです。と、3日ほど経ったとき、ふと、この言葉が自分を叱責、あるいは注意を促している言葉だと気が付きます。松下さんの思いはこうかもしれない。

 もう少し、わしの話を、意識をもって聞きなさい。意識をもって聞けば、なにかきみの考えが出てくる、そういうことにもなるだろう。そういう、いわば問題意識をもって聞くという心掛けが大事だ。きみを見ていると、ただわしの話を聞いて、適当に返事をしているだけで、それでは、きみの身につかんし、ためにもならない。問題意識をもっていれば、たとえ、なんでもない杉木立を鳴らす風の音を聞くだけでも、あっ、そうか、そういうことか、と悟ることもできる。そうして悟ったり、新しいことを発見したり、気が付いたりした人たちは、過去にもいっぱいいるだろう。まして、それなりにわしが話しているのだから、その話のなかから、そうか、そういうことか、なるほど、こうも考えられる、というふうでなければならん。

 松下さんは、そういうことを「風の音を聞いても悟る人がいる」と教え下さっていたんだ、ということに、はたと気付いたまだ若かった江口さんは、その一瞬、体が凍る思いがしたことを覚えている、と回想しておられました。

 さて、「聞く側に大部分の責任がある」ということについて、それを例証する有名な出来事があります。松下さんがかつて中小企業の経営者の方々を対象に、ダム経営」について講演をされたときのことです。ダム経営」というのは、川にダムをつくり水を貯めておくように、企業も余裕のある経営をしようという松下さんの持論です。話が終わって、400人ほどいた経営者の一人が手を挙げて質問しました。「おっしゃるとおりなのですが、なかなかそれができないのです。どうすればダムがつくれるのでしょうか?」松下さんは「やはりまず大切なのは、ダム経営をやろうと思うことですな」と答えました。会場からは“なんだ、そんなことか”という失笑が起こりました。ところが、その中にたった一人だけ衝撃を受けた人物がいました。それは、京セラを起業してまだ間もない頃の稲盛和夫(いなもりかずお)さんです。

 そのとき、私はほんとうにガツンと感じたのです。何か簡単な方法を教えてくれというような生半可な考えでは、経営はできない。実現できるかできないかではなく、まず『そうでありたい、自分は経営をこうしよう』という強い願望を持つことが大切なのだ、そのことを松下さんが言っておられるんだ。と、そう感じたとき、非常に感動したんです。

 参加していた400人もの経営者がみな同じ話を聞いています。しかし、そのように受け取った人は稲盛さんただ一人でした。そのように受け止めるだけの力量が稲盛さんにはあったということです。その後、京セラがどれほどの発展を遂げたかは言うまでもありません。さて、私たちは、風の音を聞いても悟ることができるほど、問題意識を持って1日を過ごしているでしょうか?

 学校の授業も全く同様です。聞く側の生徒にそれだけの準備と受け止める力があれば、教師の何気ない一言も、一生を左右するような金言に早変わりするんです。風の音を聞いても悟る人がいる」は、そんなことを改めて考えさせくれる一言でした。私はこの本を持ち歩いて、適当にページを開いては感じ入っている毎日です。❤❤❤

▲広島・江田島にて

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