卒然

「善く兵を用いうる者は、譬えば卒然の如し」 (孫子の兵法 九地篇)

 この言葉は、その後に「卒然とは常山の蛇なり。その首を撃てばすなわち尾至り、その尾を撃てばすなわち首至り、その中を撃てばすなわち首尾ともに至る」と続きます。いくさ上手の戦い方は、例えば「卒然」のようなもので、猪突猛進ではなく、柔軟な蛇となり、しぶとく勝つ。孫子の兵法で一貫している考え方の一つは、臨機応変、変幻自在でつかみどころのない兵形、戦法です。兵法のいわばセオリーを解説しているのですが、その最後には、こだわりを捨てろ、状況に合わせよというのです。私はこの言葉を、西武森 祇晶(もりまさあき)元監督の本から学びました。さんの好きだった言葉で、闘いの信条としておられました。広岡達朗監督の後を受け、常勝軍団の西武を築き上げた功労者です。監督在任の9年間で8度のリーグ優勝6度の日本一に輝いています。

 今回の言葉にある「卒然」とは、蛇のことです。蛇のようにしなやかに、状況に応じて戦える体制が大事である、ということです。巧妙な用兵というものは、常山に住んでいる「卒然」という蛇をコントロールするようなものだというのです。この蛇は首を撃てば尾が出てきてからみつき、尾を撃てば首が助けに出てきて噛みつく、腹を撃てば首と尾の両方が向かってきました。こんな蛇を相手にしたら、たいていの者が戦意を失ってしまいますね。相手は「負けパターン」に入り、こちらは「勝ちパターン」に入る。一つ勝つことはそう難しいことではありません。しかし、勝ち続けようと思ったら、相手に「かなわないな」と思わせることだ、というのがさんの一貫した野球哲学でした。相手を恐れさせる闘いをしなければ「勝ち続ける」ことは難しいのです。優れた指揮官というのは、勝てる状況を作り出すだけでなく、組織が結束するようにまとめ上げ、お互いが自然に協力し合うようにしている、というのが、この一節の趣旨です。その後、さんは西武を辞めた後、横浜の監督として招聘され期待されましたが、成果を残すことはできませんでした(2001年3位、2002年最下位)。

 方向を定めたらビタ一文変えずに猪突猛進する戦い方は脆い、ということも暗に示しています。過去の成功体験に囚われている大企業や、日清・日露戦争に勝利し、自分たちは神がかっていると信じた日本軍などがその典型例と言えるでしょう。♥♥♥

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