「医者になることを決めた」

 使っている英作文の問題集に「ジムはプロのテニスプレーヤーになることを決めた」という問題があり、模範解答には、Jim decided to be a professional tennis player.とあります。文法的には全く問題のない文章で、ほとんどの人は素通りしていく英文でしょう。しかし私には違和感があります。「decide=決心する、決意する」と安易に考えていると見落としてしまいます。分かりやすくするために、次の英文で考えてみましょう。

    I have decided to be a doctor.  私は医者になる決心をしました。

文法的には何の問題もありません。誤りもありません。ただしこのようなことが言える人は限られているということを見落としてはなりません。この文を発することのできる人は、少なくとも大学の医学部を卒業して、医師国家試験にも合格した上で、医療以外の職業にも興味関心があり、どちらの道に進むべきか迷っていた。いろいろ考えた上で、「医者になることを決めた」というイメージです。決してまだ医学部にも合格していない高校生が、上のような英文を言うことは、医者になることは簡単なことだと決めてかかっているようで、きわめて傲慢な感じがします。いとも簡単に医者になれるようなニュアンスが出てしまうのです。もちろん「~しようと試みる(try to)」と考えて、I have decided to try to be a doctor.なら、誰にでも開かれている選択肢ですからこの問題はクリアできるでしょう。あるいはI am determined to be a doctor.(私は医者になる決心をしています)も、それをやってみようと強く決意して、誰にもそれを止めさせない覚悟だという意味になり問題はありません。ここで大切なことはdecide「決心する」とは全く異なり、単純に「決定する」という意味なのです。そういうことを考えて、最初の英文を考えてみたとき、この英文を発することができる人はそう多くはいないことが気になるところです。

 以上のことから、I’ve decided to go to the moon.(私は月に行くことを決心した)も普通はあり得ないことがお分かりでしょう。もう少し科学技術が進歩して、誰でも月に行くことが可能な時代にでもなれば、誰にでも開かれた選択肢として、decideが使えるのでしょうが。♥♥♥

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