dean

 精神科医の和田秀樹(わだひでき)さんが、『産経新聞』に我が国の大学教育改革の課題を取り上げた文章で、こんなことを書いておられました。私はこのディーン(Dean)の部分が気になりました。

たとえば、教授選考にしても、アメリカではディーンというスカウト係が研究費を集められ、学生の人気を得そうな人を呼んでくる。

 結論から言うと、この記述はやや不正確です。特に「ディーンというスカウト係」という説明は、アメリカの大学制度を単純化しすぎています。ディーン自身がスポーツのスカウトマンのように直接街中を駆け回って人を探すわけでなく、システムや権限の面で「スカウトの総責任者」として動くのです。

 dean(ディーン)とは、日本語では通常「学部長」あるいは「大学院研究科長」にあたる役職です。日本の大学の学部長と大きく違うのは、「お金(予算)」と「人事」に関する権限が圧倒的に強い点です。役割は次のようなものです。

●学部・大学院の運営責任者・・・予算管理、戦略立案、研究方針、学生支援などを統括。「(例)今後5年間で我がビジネススクールを全米トップ10に入れるにはどうすべきか?」といった学部のブランディングや戦略を立てます。

●教員の採用・昇進への関与・・・採用委員会が候補者を選び、Deanが承認する仕組みが一般的です。誰を新しく採用するか?どの教授を終身雇用(テニュア)にするか?について最終的な決定権を担っています。

●予算と資金調達・・・大口寄付者との交渉や研究環境整備のための資金集め。アメリカの大学経営において、外部からの研究資金を獲得できる教員は極めて貴重な存在です。ディーン(Dean)は自分の学部の財政を潤し、評価を上げるために、他大学から「資金獲得能力の高いスター教授」を多額の給与や研究環境を提示して、文字通り引き抜いてきます。

●教育・研究方針の策定

●外部との関係構築・・・学部の向上や学生募集のための広報活動。

などです。

 アメリカでは、大学教授の採用は一般に次のように進みます。

(1)学科(Department)が募集を行う。

(2)Search Committee(教授選考委員会) が候補者を探し、面接を行う。

(3)学科の教授会が推薦する。

(4)Dean が予算や人事の観点から承認・交渉する。

(5)大学上層部(ProvostやPresidentなど)が最終決済する場合もある。

つまり、候補者を探す「スカウト係」は通常 Search Committee であり、Dean ではありません。

 「研究費を集められ、学生の人気を得そうな人を呼んでくる」は、少し意味を補う必要があります。Dean は

・外部資金(研究費や寄付)を獲得できそうな研究者

・優秀な学生を集められる著名な研究者

・教育力が高く学生から人気を得そうな教員

を採用したいと考えることがあります。Deanが強い大学では、「この分野を強化したいからこういう人物を採りたい」と学科に指示することはあります。そのため、Dean が有力研究者を積極的に勧誘(recruit)することはあります。しかし、「Dean=スカウト係」という表現は正確ではありません。戦略的な人事方針を立てるのです。「どの分野の、どれくらいの大物を、いくらの予算(年俸)で引っ張ってくるのか?」の最終決定権と予算・交渉権を握っているのがDeanです。そのため、実質的なスカウトの総責任者と言えます。

 例えば、冒頭の文章は次のように書くと実態に近くなります。

「たとえば教授選考にしても、アメリカでは学部長(Dean)が採用方針や予算に大きな権限を持ち、研究費を獲得できる研究者や学生を惹きつけられる研究者の採用を積極的に後押しする。」

あるいは

「教授の候補者は、主に選考委員会(Search Committee)が探すが、Dean も有力な研究者の勧誘や採用の最終段階で重要な役割を果たす。」

 したがって、冒頭の記述は、Dean が採用に重要な役割を果たすという点では一理ありますが、「Dean=スカウト係」という理解は正確ではないと言えます。実際の「スカウト」に最も近い役割を担うのは、通常は学科のSearch Committeeです。Deanは学部のトップとして、予算・人事・戦略を統括する管理職なのです。♥♥♥

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