sn-は「鼻」?

 尊敬する竹岡博信先生の単語集『LEAP』には、単語sneeze(くしゃみをする)の項に、cough((病気などで)咳をする)と対比をして、さらにsn-で始まる単語は、「鼻」関連の語が多いとしてsniff(くんくん嗅ぐ)、 snore(いびきをかく)を挙げておられます。ここまで書いている単語集は稀有です。ここら辺が私が『LEAP』を高く評価するところなんです。確かに英語のsn-で始まる単語は「鼻」に関係する語が多いのです。鼻を鳴らす音や鼻の動作を連想させます。ただし、「sn-で始まる英単語は鼻を意味する」というほど単純ではなく、sn-という音連続に「鼻・鼻息・鼻から出るもの」と関係する語がかなり集まっている、というのが正確です。例を挙げてみましょう。

◆鼻に関係する代表的な sn-語

単語 意味 鼻との関係
sniff くんくん嗅ぐ、鼻をすする 鼻で匂いを嗅ぐ
sniffle 鼻をすすり上げる 鼻水・鼻づまり
snort 鼻を鳴らす、鼻息を荒くする 鼻から息を強く出す
sneeze くしゃみをする 鼻・気道から空気を出す
snore いびきをかく 鼻・喉を通る呼気による音
snout (動物の)鼻先、口吻 鼻そのもの
snub 鼻が上を向いた、鼻であしらう snub-nosed「獅子鼻の」など
snivel 鼻水を垂らす、めそめそ泣く 鼻水を伴う泣き方
snot 鼻水 直接「鼻」関連
snuffle 鼻を鳴らす、鼻をすする 鼻息・鼻づまり

特に面白いのが、

sniff → sniffle → snivel → snot → snout → snort → sneeze

と、鼻を使う動作・鼻から出るもの・鼻そのものが非常に多いことです。なぜこんなに集まっているのか?これは単なる偶然ではありません。英語を含むゲルマン諸語では、sn- のような音が、鼻から息を出したり、鼻を鳴らしたりする音を連想させる音象徴(sound symbolism)/フォネスティーム(Phonaestheme)として働いてきたと考えられています。たとえば、sniff ―「スッ」と鼻で吸うsnort ―「フン!」と鼻息を出すsnuffle ―「フンフン」と鼻を鳴らすsneeze ―「ハクション」とくしゃみをするという具合です。これは「語源的に全部同じ語から派生した」という意味ではありません。むしろ、鼻に関係する音や動作を表す語を作る際に、sn-という音の組み合わせが好まれたと考えるほうがよいでしょう。ただし、sn-=鼻ではありません。ここは重要です。snake, snow, snail, snap, sneak, snack, snatch など、鼻とは全く関係のない sn- 語もたくさんあります。したがって、

「英語では sn- で始まる語に、鼻・鼻息・鼻を使った動作を表す語が異常に多い」

という説明なら妥当です。英語学習では、これを「音象徴」の一例として覚えておくと面白いです。実際、sn- だけでなく、gl-(光・視覚)、sl-(滑る・ぬるぬる)、fl-(動き・飛ぶ)、dr-(引きずる)、st-(停止・固定)、 -ump(ドスン、丸くて不器用な塊)などにも、似たような「音と意味のゆるい結びつき」が見られます。私はかつて「センター対策本」(自費出版)の中で、このことをまとめて生徒に指導していました。語源(Etymology)とは異なり、音象徴は「人間がその音を聞いた時に直感的に連想する感覚」がそのまま言葉として定着していったものです。英単語を覚える際に、この音のイメージを知っておくと、初めて見る単語でも大まかなニュアンスを推測しやすくなります。❤❤❤

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