お金を貯めるには?

 遠きをはかる者は富み 近きをはかる者は貧す  それ遠きをはかる者は 百年のために杉苗を植う  まして眷蒔きて秋みのるものにおいてや 故に富有なり  近きをはかるものは 春植えて秋みのるものをも なお遠しとして植えず  ただ眼前の利に迷うて 蒔かずして取り 植えずして刈り取ることのみ眼につく  故に貧窮す       (二宮尊徳)

 ある金持ちのところへ、一人の男がやってきました。「どうしたらお金持ちになれるか教えてほしい」というのです。お金持ちはその男を井戸端に連れていき、底のないバケツに水を入れますが、台所へ運べといいます。言われた通りに一日中取り組みましたが、当然のことながら、台所へは一滴の水も運ぶことができませんでした。夕方になって、お金持ちのところへ行き、今日のありさまを報告すると、お金持ちは、「明日また来なさい」といいます。男は、お金持ちになる秘訣を教えてくれと言っているのに、何を考えて、こんなつまらないことをやらせるのだろうかと思いながらも、明日はきっと秘訣を教えてくれるにちがいないと、気持ちを整理しました。翌日、また井戸端へ連れてこられました。「昨日と同じように作業をしなさい」という。男は人をバカにするのもいい加減にしてくれ、と頭に血がのぼって、金持ちにくってかかろうと思いましたが、よくよく見ると昨日と違っていたのは、つるべには底がありませんが、バケツには底があるので、男は一生懸命になって水を汲みました。底のないつるべでもホクホクと水滴がついてきます。一日中取り組んだ結果、バケツに半分ぐらいの水が溜まりました。ここで男は、お金持ちが教えようとしていることがよく分かりました。お金持ちになるのに楽チンでうまい方法はないのです。いくらお金は入っても、それ以上に使えばお金は溜まらないのです。ところがわずかなお金でも大切に貯めていけば、やがて、少しずつでもお金は残るのです。

 ある著名な菓子店舗の社長が商売を始めた頃、毎日、お金が入ってくるのが嬉しくて、大きな金庫を用意して、お札一枚一枚にアイロンをかけて、金庫にしまいこむ時には、「どうぞおあし様、わずか一夜の宿ではありますが、ごゆっくりお休み下さいませ。また、明日は忙しい旅にお出かけいただきます」と言ったといいます。すると大切にされたお金は嬉しくなって、友だちをどんどん連れてきたといいます。お金を溜めるコツは、お金を大切にすることにあるのは間違いのない事実のようです。今の世の中、拝金主義者が増えてきて、一億総マネーゲームに力が入っている感がありますが、お金というものは苦労して手に入れたものでなければ本物とは言えないようです。昔から言うように、泡銭(あぶくぜに)身につかずです。苦労しないで入手したお金は、簡単に手元を離れていってしまいます。お金は手元に引き上せる力と同じぐらいに、手元にとどめる力が必要と言えるでしょう。

 今日はみなさんに、チョットいいお金の貯め方に関する情報をお知らせしたいと思います。みなさんは「本多静六」(ほんだせいろく、東京大学名誉教授)という人をご存じでしょうか?私は若い頃に、故・渡部昇一先生のエッセイを読んでいて、そこによく登場したのが故・本多静六博士でした。博士は、「日比谷公園」、「明治神宮の森」など数々の公園を設計した功績から、「国立公園の父」とも呼ばれた日本初の林学博士です。幼少時に父親を亡くし貧乏であったがために、自分の郷里出身の大蔵省の官吏のもとに書生として入りました。そのご主人が、ある時こう言ったんです。「今度、政府は山林学校をつくる。これは授業料がただだ。入って勉強してみてはどうだ?」と。それに本多先生は飛びつきます。別に木に関心があったわけではなく、ただで入れるということで入ったのでした。学校の定員は50人でしたが、本多先生はビリの50番目で入りました。そこを受ける人たちは中学だとか師範学校から進学しているんです。本多先生は書生でそういう勉強を一切やっていません。ただ一つ、先生は独学で漢文をたくさん暗記していましたので、作文の点数だけは良かったんです。当時は、漢字をたくさん使った作文が評価される時代でした。そこで「こいつは数学は全然できないけど、入れてやれ」ということになりました。本多先生が数学でたった一つだけできたのは、「ピタゴラスの定理」でした。先生は受験する時に、数学が全然解けないと困るだろうといって軍人を紹介され、そこへ習いに行っていました。その軍人は、山の学校なら木を測るような問題が出るのではと考え、「ピタゴラスの定理」を教えました。それで一題だけできたんだそうです。ところが本多先生は、一学期に落第してしまいます。支援してくれた人に誠に申し訳ないということで自殺しようと井戸に飛び込んだら、たまたま木のふちに腕がひっかかって助かったのでした。その後、先生は死んだ気になって猛勉強します。幾何の問題が500題あるような問題集を買ってきて、全部解くことを決意します。そうした努力の甲斐あって、全部解いた頃には数学が一番できるようになっていたそうです。その学校は、後に東大の農学部になりましたが、そこを一番の成績で卒業し、ドイツに留学するのです。

 本多先生は、ドイツ留学でのルヨ・ブレンターノ教授の教えから、「勤倹貯蓄」を処世訓とし、奈良県・吉野の土倉庄三郎翁の書生をしながら直接林業を学び、林学の基礎を作りその普及に務め、後に日本で最初の林学博士となりました。投資家としても巨万の富を築きますが(40歳あまりで現在の価値で約100億円もの資産を築き上げたと言われています。最終的には500億)、退官を機に匿名でほぼすべてを教育、公共の関係機関に寄付したことでも知られています。こんな生き方をしてみたいと私が憧れた人物です。また、日々1ページ原稿を書くことを常としたため、370冊を超える著作があります。

▲この本が私の人生を…

 私の尊敬する故・渡部昇一先生が、特に推奨された本が、この本多静六『私の財産告白』でした(現在は実業之日本社文庫で読むことができます)。若い時にこの本を読んだことが、私の大きな転機となりました。ミュンヘン大学の留学を終えて帰国する本多博士に、ブレンターノ博士は、「お前もよく勉強するが、今後、いままでのような貧乏生活を続けていては仕方がない。いかに学者でもまず優に独立生活ができるだけの財産をこしらえなければ駄目だ。そうしなければ常に金のために自由を制せられ、心にもない屈従を強いられることになる。学者の権威も何もあったものでない。帰朝したらその辺のことからぜひしっかり努力してかかることだよ」と戒められたそうです。

 全く財産もなく貧乏な生活から抜け出せなかった本多博士は、貧乏に強いられてやむを得ず生活を切りつめるのではなく、貧乏をこちらから進んでやっつけなければ貧乏は征服できないと考えました。自発的、積極的に勤倹貯蓄を努めて、逆に貧乏を圧倒するのでなければならないと考えたのです。そこで断固決意して実行に移したのが、本多式「四分の一天引き貯金法」でした。苦しい苦しいで普通の生活を続けて、それでもいくらか残ったら……と望みをかけていたくらいでは、金輪際お金の余裕の出てくるはずもありません。貧乏脱出にそんな手ぬるいことでは到底ダメです。いくらでもいい、収入があったとき、容赦なくまずその4分の1を天引きして貯金してしまう。そうして、その余りの4分の3で生活を押し通すのです。あらゆる通常収入は、それが入った時に、天引き4分の1を貯金してしまいます。さらに臨時収入は全部貯金して、通常収入増加の基に繰り込むのです。方程式にすると次のようになります。

  貯金 = 通常収入×(4分の1)+ 臨時収入×(10分の10)

通常収入に4分の1という「手かせと足かせ」をはめて、残りの4分の3で暮らすのは「はじめから4分の3のお金で暮らすのだと思えば、苦しくも何ともない」という腹決めをすることです。頭から使えるお金はこれだけだと考えて、腹を決めて生活をする。実際、天引きしないで倹約して残ったお金を貯めようとしても、お金というのは残らないものなんです。

 例えば、月収が手取りで30万円、ボーナスが年二回合計60万円だとして計算してみましょう。月収の4分の1である7.5万円、年単位では90万円、ボーナス全額60万円を加えた150万円というのが1年間の貯金額となります。これを30歳から定年退職する60歳まで続けると、30年間たとえ無利子だったとしても、もう4,500万円ものお金が貯まっています。まさに「継続は力」でしょ?

 私はこの薄~い本を読むことで、大きな転機を迎えました。私が真似たのは、決まった月給は、3分の1を貯金して、残りの3分の2で生活する。印税・著作収入・講演料・賞与などの臨時収入分は全額銀行貯金に繰り込む、というやり方でした。決して楽な生活ではありませんでしたが、何十年と続けてきました。幼い頃は貧乏で、何の財産もありませんでしたが、人よりチョットだけ英語を勉強し続けた結果、思わぬお金も入るようになり、それを全てこの本多式で貯金してきました。本多先生は、貯まったお金を投資に回して、さらにそれを増やして億万長者に成られましたが(①好景気時は勤倹貯蓄に徹し、不景気時に積極果敢に投資、②2割食い、③10割益半分手放し、の本多式「3原則」に従い)、私は投資は一切していません。定年退職してからは、銀行員の教え子の勧め(脅し?〔笑〕)で退職金を全部運用してもらっていますが、残念ながら利益はあまり上がっていません〔笑〕。むしろ損をしているくらいです。それでも全くの無一文から、松江北高近くの一等地に土地を購入して、書庫とお風呂の充実した自宅を建てることができたのも、趣味のマジックに5,000万円以上のお金を充てて楽しむことができたのも、一流のお店でしか味わうことのできない美味しい料理を食べたり、全国各地にふらーっと気ままに旅をして、その土地の最高級のホテル(旅館)に泊まってくつろぐことができるのも、全てこの「本多式貯蓄法」のおかげだと感謝しています。ぜひ上の本多博士の著書を読まれることをお薦めしています。他にも沢山の著書がありますが、そのエッセンスだけをまとめた本『本多静六 人生を豊かにする言葉』(イーストプレス、2006年)も出ています。

 「知の巨人」であった故・渡部昇一先生が平成12年3月に刊行された『財運はこうしてつかめ』(致知出版)が、この度一部を再編集して新装版として、『財運はこうしてつかめ[新装版] ~貧乏を征伐し財を築く法』(致知出版、2026年1月、1,980円)が復刊されました。以前にも読んだ本ですが、もう一度じっくり読み直して、本多静六博士の世界を味わってみたいと思います。「財産があれば、幸福になれるわけではないが、幸福であるためには、財産がなければならない」と、財産は目的ではなく、自立した人間として毅然として生きるための手段だと、本多博士は説いています。「金を馬鹿にする者は金に馬鹿にされる。財産を無視する者は財産権を認める社会に無視される」。本多先生の処世の見事さは、こうして蓄えた富の使い方を見れば、さらにはっきりするでしょう。蓄えた富のほとんどを、国立公園運動などの公共のために使いました。苦学生のために本多奨学金を創設しました。「人生即努力。努力総幸福」。私はお金の大切さを理解した上で、「お金を追うな、仕事を追え!」の精神でやってきました。♥♥♥

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