赤沼敏夫「ユニバーサル・デック」

 もうずいぶん昔(20年以上前)のことになります。カード・マジックに憑りつかれていた私は、珍しいトリック・デックが出たと聞けば、すぐアメリカから直接取り寄せていました。当時はまだカード決済など夢の時代ですから、郵便局で外国為替を組んでは送金していた、懐かしい頃です。そんなときにトリックス赤沼敏夫(あかぬまとしお)さんの「ユニバーサル・デック」という、従来の概念を打ち破る、革命的なトリック・デックが登場したんです。たしか当時8000円ほどしたんじゃないかな。値段通りに、画期的な作品でした。ずいぶんと長い手順を覚えるのに苦労したのを覚えています。

 トリック・デックの多くは、レギュラー・デックでは不可能な現象を可能にする」という、すぐれた特徴を持っている反面、ひとつの現象しか演じられなかったり、手順が組めたとしても、同種の効果の繰り返しになりやすい、という大きな欠点がありました。この「ユニバーサル・デック」は、これらの欠点の全てを克服して、現象の豊富さ・強烈な不思議さ・実用性を追求して考案された、画期的なトリック・デックでした。なんと、このたった1組のデックを使うだけで、ほんのわずかのテクニックを使って、予言』『貫通』『飛行』『移動』『リバース』『同化』という、カードマジックの中の醍醐味である主だった現象が、流れるような一連のルーティンとして演じられるのでした。しかも最後には、目の覚めるような強烈なクライマックスが待ち受けているのです。デックは、バイスクル・ポーカーサイズをベースに、1枚1枚シルク・スクリーン印刷で製作した特別製です。既成のトリックカードや、レギュラーカードの組み合わせでは絶対に実現不可能な、まさに、カードマジックファン待望の傑作と言って良いでしょう。当時のぼせて練習したものです。では、以下にそのルーティンをご紹介します。

第1段(予言)
 演者は、1枚の紙片に、予言として1枚のカードの名前を書き、折りたたんでテーブルに置いておきます。次に1組のデックを取り出して、表向きに広げて何ら怪しいところのないことを示した後、裏向きに広げ直して、その中から観客に1枚のカードを自由に選んでもらいます。そして、テーブル上の予言の紙片を広げてみると…なんと、観客の選んだカードと、予言に書かれたカードが、ピタリと一致しているのです。予言の的中です!!

第2段(貫通)
 第1段で選ばれたカード(説明の都合上「ハートの10」とします)を、デックの中ほどに入れて、上から軽くたたきます。すると、なんと「ハートの10」が下半分を貫通して、テーブルの上にポトリと落ちてきます。貫通現象です!!

第3段(飛行)
 残ったデックの中から、カードをもう1枚選んでもらい、裏向きのままテーブルの上に置きます。先ほどの「ハートの10」をデックに戻し、魔法のジェスチャーをかけてから、デックを表向きに広げてみると、なんと「ハートの10」が消えてしまい、テーブルの裏向きのカードがいつの間にか「ハートの10」に変化しているのです。飛行現象です!!

第4段(移動)
 デックを表向きにし、「ハートの10」を表向きのままデックの下に入れます。そして演者が、デックをリフルすると…不思議なことに、一番下に入れた「ハートの10」が、デックの中程に移動して現われます。移動現象です!!

第5段(リバース)
 デックを2組に分け、片方のパケットを裏向きにして、その中に「ハートの10」を裏向きに入れ、テーブルにリボン・スプレッドします。すると、いつの間にか、裏向きに入れたハートの10が表向きになっています。リバース現象です!!

第6段(クライマックス、同化)
 2組のパケットのうち、片方に魔法のジェスチャーをかけ、表向きに広げてみると、なんと、おどろくべきことに、すべてのカードが「ハートの10」に変化しているではありませんか!!続けて、残ったもう片方のパケットも表向きに広げます。すると…なんと、これもすべて「ハートの10」に変化しているのです!!最後に、52枚すべてのカードを1枚ずつ完全に広げて見せ、「ハートの10」以外のカードがまったく残っていないことを示して終わります。同化現象のクライマックスでした。もちろん、『ラフ&スムース』『ワックス』『ディバイデッド・カード』等は一切使っていません。また、演技終了後、すぐにリセットできるので、次に演じるときに準備が一切いらないのです。カード・マジシャンにとっては必携品でしょうね。赤沼敏夫さんというのは、当時勤めていたテンヨーから独立して(加藤英夫さんもその一人です。加藤さんはカードマジックの集大成を完成されましたね。最近もご案内をいただきました)トリックスを始めた、まさにこの世界では、日本を代表する天才肌のクリエーターです。♠♣♥♦

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