私は、ピアニスト西村由紀江(にしむらゆきえ)さんが可愛らしい大学生の時から応援している大ファンです。最近、彼女は『神戸新聞』の夕刊に、隔週で「随想」というタイトルのエッセイを寄せています。現在第4回までが掲載されました(9月5日、9月20日、10月5日、10月23日)。大ファンの私は、毎回神戸新聞に電話して送ってもらっています。以下は、10月23日付けの最新の第4回目の「随想」です。いい文章ですね。
曲はどんなときに生まれるか?答えは「天からメロディーが降ってくる」。決してカッコつけているのではない。正確に言うと、心の動き=嬉しい、悲しい、悔しいなどの感情と共に音が聞こえてくる。まるでBGMが流れるかのように頭の中に聞こえてくるメロディーを、素早く五線譜に書き留める。これがなかなか難しい。 外出中に思い浮かんだメロディーを帰宅してから書こうと思った瞬間、メロディーはスーツといなくなってしまう。そして二度と現れてくれない。「すぐに書かなかったから、もう教えないよ」と意地悪されているかのよう。だから外出時はもちろん、家でも寝室や脱衣所など、あらゆる場所に五線譜があり、いつでも書けるようにしている。 メロディーは天から降ってくるが、曲としてできあがるまでにはとても時間がかかる。作る途中で何度も修正を繰り返すのだ。一つの音を変えると全体のバランスが崩れるので前後の音も変えたくなり、ああでもない、こうでもないと七転八倒したあげく、元のメロディーに戻ることも。 実は、このエッセーでも同じような思いをしている。楽しくあっという間に「ほぼ仕上がる」のだが、いざ提出となると少し文章を直したくなる。一つ直すとあっちもこっちも気になり、そのうち指定された文字数も思考能力もオーバー、頭の中がまとまらなくなっ てしまう。 そんなときは、思いきって距離を置くことにしている。一晩寝かせて翌日に新たな気持ちで向かうと、何を伝えたいかが見えてくる。こうして細かい修正を繰り返しながら、なんとか締め切りに間に合わせる。やれやれ、往生際の悪い性分は治りそうにない。 (にしむら・ゆきえ=作曲家・ピアニスト)



