丸それとも三角?

    電車やバスで誰もがお世話になっている「つり革が今日の話題です。つり革」は電車やバス以外で見かけることはまずありません。逆に、画面の中につり革があれば、公共交通機関の中にいることを表現できるほど、強い存在感を持つアイコンとなっていますね。揺れる車内で体を支えられるのも、人波に押し流されそうになるのを耐えられるのも、つり革」があってのことですね。ある意味、利用者に一番近い鉄道部品であり、最近ではハート型やネコ型のつり革など、遊び心を取り入れている鉄道事業者も珍しくありません。

 「つり革」の起源は、1870年頃のイギリスの鉄道馬車(レールの上を走る馬車)にまでさかのぼると言われています。それまでの乗り物は、定員が少なかったり、長距離移動用だったり、あるいは乗り心地が悪かったりと、いずれも座って乗ることを想定したものでした。ところが、馬車鉄道のように、多くの人が乗り合わせる都市部の短距離交通機関が登場したことで、立ち乗り客が体を支えるための設備が初めて必要になったのです。つり革」という名称は当初、革のベルトがつるされていたことに由来します(革が用いられなくなった現在では「つり手」と称する鉄道事業者も多い)。

 日本でも鉄道が開業して、短距離利用が増えてくると、つり革」の設置が一般的になっていきます。大正時代に入ると、革のベルトの先に握る部分(手掛け)がついた、現在の形状に近いものが登場しています。満員電車が常態化している日本の大都市圏では、これがなければ車内の安全は保たれないというくらい重要なものになっています。

 さて、つり革」の手掛けの形状は大きく、丸形三角形に分けることができます。かつては手で持つ部分が丸いつり革が一般的でしたが、近年では三角形のつり革が増えているようですね。両者はいったい何が違うのでしょうか?

▲木次線では丸形が

 手掛けが丸形のつり革は、古くから多くの鉄道車両で使われてきたオーソドックスなタイプです。座席の上に架けられたパイプからベルトを下げて、その先に輪っかを吊り下げているため、手掛けは正面を向いています。これに対して、近年になって採用例が増えているのが、手掛けが三角形でのつり革です。丸形の手掛けをしっかり握ろうとすると人さし指と小指がすぼまって握りにくいんですが、三角形であれば力を入れて握ることができます。丸いつり革は、握った時に人差し指と小指が近づき、握りにくいと感じる人もいます。その点、三角形をしたつり革は親指以外の4本の指を均等に引っ掛けられるので握るのが楽です。また、丸いつり革だと電車が大きく揺れたときにどの方向に動くか予測出来ないのですが、三角だと、握った部分は左右にしか動かないので、体が固定しやすいというメリットがあります。そんな理由から、三角のつり革のほうが使いやすいと感じる人も多いようです。

 しかし、だからと言って三角形のつり革の方が優れているとは一概に言い切れないようです。鉄道総合研究所が行った実験によれば、「つり革」を握っていない乗客がとっさにつかまりやすいのは丸形だという結果が出ています。揺れた時にしかつり革を持たない、という乗客も多いので、一概に三角形のほうが理想的だとも言えません。また他人の手のぬくもりが残るつり革を使うのには抵抗があるので、手掛けを回して使える丸形の方が良いという声も根強い、といいます。

▲東京・京王線

▲JR横浜線

 実際に、三角形のつり革は東京圏で採用例が増えているのに対して、関西圏では引き続き丸形のつり革が使われるという、トレンドの地域差が生じています。これは、鉄道事業者やメーカーの設計思想や乗客の好みの問題もあるでしょうが、最大の要因は、電車の混雑率の違いにあると考えられます。

 朝ラッシュ時に、乗車率150%を超える路線が多数ある東京圏では、「つり革」につかまらず電車に乗ることはまず無理です。乗客はしっかり握れるつり革を好み、鉄道事業者もつり革の設置数自体を増やす傾向にあります。一方、東京圏ほど混雑せず、つり革は必要な時だけつかめれば十分という地域では、大きくて重い割に、とっさにつかみづらい三角形のつり革は好まれないようです。

 海外では、ニューヨーク地下鉄では1960年代後半、つり革の発祥の地であるロンドンの地下鉄でも1980年代後半につり革は姿を消し、手すり(つかまり棒・スタンションポール)が主流になっていったそうです。日本と同様につり革がずらりと並んでいるのは韓国や台湾の一部の路線くらいで、多くの国ではつり革が設置されていても一部だったり、数が少なかったりと、主役は手すりに移行しています。その理由のひとつには、つり革の破損や盗難対策がありますが、もうひとつは混雑率の違いによるニーズの差も大きいと思われます。JR東日本の新型車両は全て三角形のつり革を採用しています。それが他社に波及して現在に至っています。東京圏の鉄道がつり革の位置づけを変える日が来るとしたら、それは混雑問題が一定の解決を見た時のことでしょう。つり革ひとつをとっても、地域ごとの鉄道のあり方の違いが見えてきますね。

▲松江・一畑電車の「しまねっこ号」では丸と三角が混在

 丸形三角型、「どちらがいいのか?」という議論の決着はまだ出ていません。果たして結論が出る日はやって来るのでしょうか?♥♥♥

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