スパーキー少年

 アメリカのスパーキーという高校生の少年のお話です(生後2日後に叔父から当時の人気漫画『バーニーグーグル』に登場する馬の「スパークプラグ」にちなんで、「スパーキー」という渾名をつけられました)。1922年11月26日にミネソタ州ミネアポリスで生まれました。小学校時代は勉強はよくできたのですが、その後の彼は劣等生で、物理のテストで零点を取ってからは、「学校創立以来最もデキの悪い生徒」とレッテルを貼られてバカにされる始末でした。他の教科もからきしダメで、スポーツもできない、高校時代に一度も女生徒から声をかけられたことのないダメダメ生徒でした。教師からもクラスメートからも相手にされなかったスパーキー少年でしたが、父の影響で幼少期から一つだけ自信を持っていることがありました。それは絵を描くことでした。描いた絵を掲載してくれるように各所に働きかけますが、どこからも断られます。卒業と同時に、あのウォルト・ディズニー・スタジオに入社しようと、作品を送りますが、不採用。学業もダメ、得意のはずの絵もダメ。運にも見放されたスパーキー少年は、勉強のできない、運動神経もからきしダメな自分自身を、漫画に託して描くようになります。絵を描くことで自分を表現し、ストレスを発散していたのでしょうね。この少年時代の経験が、後の作品に反映することになります。その漫画の主人公がチャーリー・ブラウンでした。世界中に熱狂的ファンの多いあの有名な漫画『ピーナッツ』の作者チャールズ・シュルツ(1922-2000年)こそが、このスパーキー少年です。

 『ピーナッツ』には大人は一切出てきません。子供と動物たちだけです(犬のスヌーピ他)。どこにでも住むごく普通の彼らは、クリスマスやハロウィンに熱中し、幼い恋をして、野球をして、はしゃぎ回ります。時々はっとするような鋭い言葉を吐きもします。姿かたちは子供ですが、ここで描かれるのは子供の姿を借りた大人の世界なのです。子どものダメ、できない、困ったという心の悩み・葛藤をどう乗り越えるかを、一貫としたテーマとしていました。そのことは登場人物が頻繁に発する“Good grief.”(やれやれ、困った、お手上げだよ)というセリフにも現れています。シュルツが亡くなった時(2000年2月12日)に、当時のアメリカ・クリントン大統領「鋭い眼力、善良でおおらかな心、いきいきとした筆は、我が国の新聞紙上に生きた最も忘れがたい登場人物たちに、命の息吹を吹き込んでくれた。」と最大級の賛辞を贈りました。1950年から約40年間、助手などを一切雇わず一人で描き続けた彼は、自らの死後に別の漫画家が作品を引き継ぐことも一切拒否してこの世を去りました。『ピーナツ』はテレビアニメ化され、エミー賞ピーポディ賞リューベン賞を受賞しています。1984年には掲載紙が2,000誌に到達してギネスブックに認定され、1986年には漫画家の殿堂入りを果たします。1990年にはフランスの藝術勲章を受章、またイタリア文化大臣から功労賞が贈られました。2000年6月には、アメリカ合衆国議会から民間人に授与する最高の勲章である議会金章が贈られています。

 さてここからが今日の重要なテーマです。得意な絵でさえも周囲から拒否され、逆境の中にあったスパーキー少年がなぜ成功できたのか、という点です。彼は周囲の反応はどうあれ、自分は絵が得意なんだ、絵の才能があるんだ、と自分を信じて描き続けました。多くの人は、他人の評価に流されてしまい失敗や敗北を経験すると、再び立ち上がろうとはしないものです。松下幸之助「成功とは成功するまでやり続けることで、失敗とは成功するまでやり続けないこと」だけでなく、「成功のメカニズム」を明らかにしたあのナポレオン・ヒル博士が(教員成り立ての頃のぼせて読みました)、こんな興味深いことを言っています。肝に銘じたい言葉ですね。♥♥♥

 500人以上にのぼる成功者が口をそろえて私に語ったこと、それは、大きな成功というものは人々が敗北感に屈してしばらく経ったときにやってくるものである、ということだ。敗北とは本当に意地悪なもので、皮肉なペテン師のようなものである。このことをあなたは肝に銘じておくべきだ。そしてこのペテン師は成功の一歩手前で人々を挫折させることを、何よりも喜びとしているのである。

▲新美の巨人たち

【追記】 5月25日(土)テレビ東京系「新美の巨人たち」で、このチャールズ・シュルツが取り上げられました。漫画「ピーナッツ」に登場する世界で一番有名なビーグル犬「スヌーピー」。故郷アメリカ・カリフォルニア州サンタローザを取材して、作者シュルツが愛用したペン先(914)にスヌーピーの愛らしさの秘密を発見!さらに連載開始から70年以上が過ぎた今なお多くの人々に愛される理由は、「ピーナッツ」に登場する個性豊かな子供たちにあったことを取り上げました。関根麻里(せきねまり)さんが、話題の「スヌーピーミュージアム」(東京町田市)を訪れ、スヌーピーの美と魅力に迫る好番組でした。ただ残念なことに、ここで取り上げたシュルツの少年時代の苦悩や大人になってからの苦労は、触れられることはありませんでした。

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