鳥の兄弟殺し

 横山秀夫のサスペンス・シリーズの「密室の抜け穴~樹海に捨てられた女の白骨死体」をテレビで見ました。警察という組織の中で渦巻く人間関係の葛藤、そして解決しない事件。小さな会議室を舞台に“様々な思い”が錯綜する刑事ドラマです。県境の山林で白骨死体が見つかりました。班長の村瀬は殺害現場に向かう車の中で、部下の東出に、イヌワシの「兄弟殺し」の話をします。一体何のためにこんな話をされるのか理解に苦しむ東出でしたが、難航する捜査の最終局面においてこの言葉が東出をひどく悩ますことになります。程なくして早野という人物が捜査線上に挙がりました。村瀬の代役という重圧と同僚・石上に対する優位意識から、東出は十分な証拠もないまま早野の身柄確保を強行しようとします。暴力団対策課と連携して早野を張り込みますが、マンションの自室にいるはずの早野の姿は忽然と部屋から消えていました。どうやって張り込みをかいくぐって“密室”だったはずのマンションから逃走したのか?ミスを犯した焦燥感に駈られる東出を追いつめるかのように、「幹部捜査会議」という名目の“責任者探し”が始まります。重苦しい時間ばかりが過ぎていくそんな中、脳梗塞で入院中だったはずの村瀬が現れました。村瀬は東出に「密室に抜け穴を作らせればいい……。」とつぶやくのです。はたしてその発言の真意とは?彼は何のためにイヌワシの話を持ち出したのでしょうか?

 イヌワシの産卵は1月中旬から2月下旬に行われ、1つの巣に平均2個の卵を産みます。そして約45日間の長い抱卵期間の後に2羽のヒナが誕生します。白いフワフワの綿毛に包まれたヒナは、猛禽の子供とは思えないくらいに弱々しい姿です。母ワシから餌をもらうために頭を持ち上げ首を伸ばすのですが、まだフラフラとして安定しません。食事の時以外は母ワシの懐に潜り込んで暖まっています。しかし、日本ではこの2羽のヒナが共に育つことはほとんどあり得ません。生まれて間もないヒナ同士が、首も座らぬうちから争いを始めるのです。2つ目の卵は3日遅れで産み落とされるため、ふ化も3日遅れになるのですが,なんと!先に生まれたヒナは2番目のヒナがふ化するとすぐにつつき始めるのです。小さいヒナが頭を持ち上げると、大きいヒナの攻撃が開始されます。日毎にその闘争は激しくなって、小さいヒナは頭を上げることさえできなくなっていきます。親はすぐそばで様子を見ているのですが、止めようとはしません。餌を運んできても、体の大きい1番目のヒナが全て横取りしてしまいます。小さいヒナは飢えのために生まれて数日で死んでしまいます。親からほとんど餌をもらえないまま衰弱し、98%の確率でふ化後10日以内に死んでしまうのです。さらに親は、死んだヒナをしばしば食べてしまいます。こうして、長男(長女?)1羽だけがやがて巣立っていきます。つつかれる2番目のヒナは本当にかわいそうで仕方がありません。私たち人間には非常に残酷なシーンに映りますが、イヌワシにとっては厳しい環境の中で生き抜くための自然の摂理なのでしょう。ヒナ同士の闘争もなく2羽が生き延びたとしても、やがて2羽のヒナが成長し食欲おう盛になった時には、餌が不足してしまいます。大きく強くなったヒナ同士の争いには危険が伴います。お互いが傷つき共倒れの危険さえあるのです。。生き残った1羽のヒナは、獲物を独り占めして成長していくのですが、食欲がおう盛になるにつれて餌が不足します。巣の上に獲物が全く無くなってしまうという事態が時々起こります。ヒナが生後1ヶ月くらい経つと、ヒナを巣に残して母ワシも狩りに出かけるようになり、親ワシ2羽で懸命に獲物を探すのですが、そうたやすく獲物にありつくことはできません。数日以上獲物が捕れないことも少なからずあるのです。ヒナは空腹に耐えながら親の帰りをじっと待っています。母ワシが時々様子を見に巣へ帰って来ますが獲物はありません。飢えているのはヒナだけではなく、母ワシもヒナ以上に飢えているのかもしれません。巣の上に獲物の残がいがないかどうか探しています。こうした餌不足の危機はヒナが巣立つまでの間に何度か訪れます。2羽のヒナを育てることなどとてもできるものではないのです。

 このイヌワシの行動には,以下の2つの理由が考えられます。
① 2番目のヒナは,あくまでも1番目のヒナに何かあったときのための『代役』(スペア)。
② イヌワシは,約40k㎡~100k㎡の縄張りを必要とするため,あまり多く巣立つと餌が不足する。

 食物連鎖の頂点に立つイヌワシならではの行動で、我々大人には「かわいそうだけど仕方がない」と納得できますが、これを聞いた幼い子どもたちの思いは複雑なようです。たいてい、長男・長女はほっとした表情をし、2番目・3番目の子どもは不安げな表情をして聞いています。きっと自分と重ね合わせて見ているのでしょう。一見「いじめ」に見えるこの行動。人間の「いじめ」とは根本的な所で大きな違いがありますよね。

 日本のイヌワシは非常に厳しい生息状況に置かれています。繁殖成功率は年々低下し、1羽のヒナも育てられないペアも数多くいます。イヌワシの繁殖状況は、その地域の自然環境の豊かさを反映しているとも言えます。イヌワシの危機的な状況は、人間にとっても大切な自然環境の危機でもあるのです。

 村瀬は部下の東出と石上に、イヌワシのヒナを重ねていたのではないか、生き残った方を自分の後継者として指名しようとしているのではないか、と疑心暗鬼になる東出でした。「イヌワシの兄弟殺し」を伏線に張りながら、人間模様をリアルに描いた好番組でした。♥♥♥

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