「米仕事」と「花仕事」

 尊敬する水戸岡鋭治先生(みとおかえいじ、77歳)の考え方です。会社の毎日の仕事は自分が稼ぐための仕事、つまり「稼ぎ仕事」としてやらなくちゃいけないんですが、もう一つ「務め仕事」っていうものがあります。稼ぎはともかくとして、自分の能力を使って世界の役に立つものを考える仕事があるだろうって。この「稼ぎ仕事」「務め仕事」を、水戸岡先生「米仕事」「花仕事」と呼んでおられます。ややこしいんですが、「パン仕事」というのもあります。たまたまフランスの作家の人たちがよく〝パン仕事〟と言います。作家としての作品作りだけでは食えないから、生活費を稼ぐために別に仕事をする必要があって、それを〝パン仕事〟と呼んでいます。それを聞いて、パンを米に変えて「稼ぎ仕事」のことを「米仕事」と呼んで、そうでないボランティアや、自分が本当にやらなくちゃいけない仕事を「花仕事」と呼んだのです。それで結論として言いたいのが、社会のことをボランティアでやらなくちゃいけない、「花仕事」というものがある、ということです。 「仕事には2種類あります。『米仕事』と『花仕事』です」そう話すのは、クルーズトレイン「ななつ星」をはじめ、長年にわたりJR九州の列車をデザインしてきた鉄道デザイナーの水戸岡鋭治先生。内装に木材を多用した温もりのある「ななつ星」の空間は、多くの人を仰天させました。水戸岡先生は、企業人としての稼ぎ仕事を「米仕事」、公共的・社会的視点で行う金銭的代価を超えた仕事を「花仕事」と名付て、よく使っておられます。

 給料をもらうだけの仕事は、黙ってやっていればできます。しかし、人の役に立って自分が満足でき、「ああ、仕事をやってよかった」「ああ、生きていてよかった」と、人のために生きていることがとても大切です。今の世の中は、自分のためにだけ生きている人を育てている印象です。「米仕事」は経済につながる仕事で、「花仕事」は環境や文化を大切にする仕事であるとも説明しておられます。「日本では経済重視の『米仕事』の人が圧倒的に多いんですが、私はできるだけ文化を持ち込んだ『花仕事』をしていきたいと考えているんです」先生は車両のデザインこそが、自らの「花仕事」だとしておられます。「米仕事は誰でもできる。一方、花仕事は志の高い人しかできない仕事だ。しかし、花仕事に時間を割ける人は高度な米仕事の能力を備え、稼ぐ力を持った人だけである」と断言されました。

    しかし、「花仕事」というのは、どうしても目先の利益が下がってしまいます。例えば、鉄道車両などで、床材をプラスチックにすれば低コストでメンテナンスも容易ですが、木材を使うと、高コストな上にその維持が大変になってきます。それでもあえて水戸岡さんが木材にこだわる理由は、「そこに文化を持ち込みたいからだ」と言われます。たとえ目先の利益が下がろうとも、木材で魅力的なものを作っておけば、それに惹かれた人たちが「本当のファン」になってくれます。そしてそれは、結果的に長続きにつながっていくのです。「経済性と文化性のバランスを保つようにしていくと、皆がそこそこ好むものができ上がってきます。実際にそのバランスを追求することが、最終的に一番いい結果を生む可能性が高いのです」

 「路面電車と都市の未来を考える会」(RACDA)という街づくりの市民グループがあります。何かの略称かイニシャルかと思うと、全然違っていて「ぐるっと回ればみんな楽だと、砂漠のラクダを語呂合わせしただけの単純なものです。岡山の街に何とか路面電車を走らせたい、何とか新しい低床式の電車を入れようという話が盛り上がっていました。岡山出身の水戸岡先生「路面電車をつくる会」のシンポジウムに招かれ、会場の参加者から「もしも国から路面電車を造るお金が出たら、水戸岡さんはデザインをしてくれますか」と意見が出ました。水戸岡先生「お金が出たらボランティアでやりますよ」と言ってしまいました。1年後に本当にお金が出ちゃったので、もう引っ込みがつきません。こうしてボランティアの「花仕事」で完成したのが、画期的な「MOMO」でした(写真下)。以降そのデザインを気に入った両備グループが先生にデザイン顧問を依頼し、次々と水戸岡電車・施設が誕生したのです。

▲岡山の路面電車「MOMO2」

  水戸岡鋭治先生の今までの「花仕事」をまとめた、ご自分の“自伝”と明言される集大成の書籍『水戸岡鋭治 デザイン&イラスト図鑑』(玄光社、3,850円、2023年)が発売されています。業界に革命をもたらした水戸岡先生の約3,000点にも及ぶ半世紀以上にもわたる創造の全軌跡です。

 この話、鉄道車両のデザインに限った話ではないと思います。素敵な考え方じゃないですか。目先の利益を度外視した、文化や感性を大切にする「花仕事」を、私もやっていきたいと思っています。「やってよかった」という、生徒達のためになる教材・資料作りに採算度外視で今までも邁進してきましたし、これからもそうありたいとと思っています。♥♥♥

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