水戸岡鋭治さんの哲学

ななつ星 最近話題の九州一周観光豪華寝台列車「ななつ星」(10月15日運行開始)をデザインしたのが、水戸岡鋭治(みとおかえいじ、ドーンデザイン研究所代表取締役、66歳)さんです。30億円以上の巨費を投じて作られた「ななつ星」ですが、高額料金にもかかわらず予約が殺到し、来年の夏まではいっぱいだとか。

 難しいのは、これまで日本では誰もつくったことのない車両を手がけているということ。乗られるお客さんが何を求められるかは頭でイメージするしかない。いわゆる階級のない日本人に最高級のものをどうデザインして提供するのか、それを考え始めると本当に眠れない日々が続いたんです。(水戸岡談)

 水戸岡さんは、10年前に新幹線「つばめ」の仕事をしていた頃に、ゆっくり走ることで見えるものがあることに気づいたと言います。きっかけはディズニーランドだったそうです。ディズニーの乗り物は15キロぐらいで走るので、木や人がはっきり見える。速いと遠くの山しか分からないけれど、遅く走ると地域の特性がよく分かり、人が手を振っているのもよく見える。楽しいし、地域に興味を持ってもらうきっかけになるのでは、と考えたことがあの豪華寝台列車につながったそうです。AERA』6月10日号全面改訂された『日本鉄道旅行地図帳 九州・沖縄』(新潮社『DIME』11月号、『mono』12月16日号インタビューが載っており、興味深く読みました。ウェブゲーテ」のインタビューも参考になります。⇒コチラ

 水戸岡さんは、1988年のアクアエクスプレス」以来、JR九州で走る車両の95%をデザインしておられます。ゆふいんの森」「ソニック」「指宿の玉手箱」「あそぼーい」など、独創的なデザインの観光列車を次々と登場させて、多くの人を魅了しておられるデザイナーです。長崎に行く特急「かもめ」に初めて乗ったときのあの座席シートにはたまげましたし、この夏も、鹿児島駅に到着したばかりの「指宿の玉手箱」の乗車口から、白い煙が噴き出ているのを見たときには、ロマンを感じました。デザイナーとは、自己満足的な作品やアートではなく、多くの人が望むことを一水戸岡鋭治生懸命に取材し、咀嚼して、色、素材、形に置き換え、多くの人に役立つものを作る仕事だと思っています。いつも考えているのはどうすれば、みんなが喜んでくれるか。漫才師がどう客を笑わせるか考えるのと同じだね。昔はデザインは美しさとか使い勝手とか言ってましたけど、26年前に唐池恒二(現JR九州社長)さんに会って考えが変わった。あの人はいつも人を楽しませることを考えている。今のテーマは”笑顔と笑いを生むデザイン”です。」 これからデザインしてみたいものはと聞かれ、頂点のななつ星が鉄道文化のレベルを上げ、裾野を広げてくれる。やりたいのはファミリー寝台車。ハンモックで寝て、3世代でだんらんできて、子供が初めて会う大人とたくさん話せるような。豊かな人生を送っている人は豊かな旅をつくれる。子供がそんな大人と会って、言葉や文化を勉強しようと思える旅をつくりたいね」

  この”水戸岡デザイン”の原点を探るのに格好の著書が、矢継ぎ早に二冊出ました。水戸岡鋭治『あと1%だけ、やってみよう』(集英社インターナショナル)『電車をデザインする仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)です。水戸岡さんの描いたパース画が直に見ることのできる貴重な本です。デザインの原点は「感動」でDSCN2929あるとし、彼の仕事の選択基準は「公共性」だと言います。世の中の役に立たないこと、企業がただ利益をあげるためだけにやっている仕事は決して引き受けない。これを作らないと街が困る、元気にならないという場合には、少々大変でも引き受けるのです。「義を明らかにし、利を計らず」を掲げ、正しい理念で行動し仕事と向き合っていれば、自ずと利益はついてくる、というのが水戸岡さんの信念です。「効率と採算重視」という企業の求めるものとは真逆を追求しておられますね。お金ではなく気持ちを重視する姿勢(「心のソロバン」とおっしゃいます)が、そこには見えます。整理・整頓・清掃・清潔・躾の5Sを基本姿勢に、利用する人の喜びを追求しようとするのが水戸岡流です。いい空間は、いいお客様を生むものなんです。丁寧に扱わなければという気遣いがマナーとなり、様式美が生まれます。頑丈に作られ、機能性ばかりを重視した列車では、そういう気配りは生まれませんから、当然お客様のマナーも低下していきます。ただ豪華なのではなく、旅の質も考えたいですね」 水戸岡さんの信念がこれです。水戸岡さんは列車のデザインを通して、街全体を変えようとしておられるのですね。鉄道が走って、ローカル線という毛細血管が動いて力がつけば、その路線が単体で赤字であったとしても、人は食を取り、宿に泊まり、金は落ち、その地域は活性化するんです」

 デザインは自己表現の道具でも単なるお飾りでもないって。公共空間である鉄道、その事業はまちづくりや環境づくりそのものですから、地域の経済も考え、地域の人と一緒に質の高いものを作り上げていく。僕は職人で、仕上げの”最後のひと振り”をしているだけです。

 僕は、経済と文化のバランスを取るのがデザインの仕事だと思っています。ホームも、駅ビルも、街並みも、デザインしだいでわかりやすくも難しくもなります。地域を、人を、文化を、より質の高い次元へと変える力がデザインにはある。僕はそう信じているんです。鉄道の仕事も、デザインが企業のコンセプトをわかりやすく世の中に伝えるものだと思っています。ただ、デザインはデザイナーの感性で創造するものではありません。多くの人からアイデアをいただき、それを具現化するだけです。JRの列車も与えられたテーマからストーリーを描く、そんな脚本家みたいな仕事だと思っています。

 水戸岡さんは、週末もほぼ休みなく働き、携帯電話も持たず、コンピュータも一切使いません。次世代の子供たちのために「心のソロバン」をはじきながら、全身全霊で「できないことをやる」仕事に取り組んでおられます。水戸岡さんのことばで印象に残ったことばがあります。観光とはそこにある”光を観に来る”ことです」 誰も作ったことのないものを、迷い、悩み抜いて、完成するまで絶えず手を加えたデザインには、私たちを心から感動させる力が宿っています。

カテゴリー: 日々の日記 パーマリンク

コメントを残す