ジャイアント馬場さんの生き方

 もうジャイアント馬場さんがお亡くなりになってから何年も経っていますが、天国の馬場さんは、現在のプロレス界を見て、どう思っておられることでしょう。馬場さんが亡くなった頃から、プロレス界の崩壊が急速に加速したように感じています。ゴールデンタイムにプロレスを見て、一喜一憂していた時代を懐かしく思い出します。私は馬場さんの生き方に共鳴するところが多々あるんです。

 昔、馬場さんが雑誌のインタビューに答えてこんな重みのある話をしておられました。「あんたに聞きたいことがあるんだよ。プロレスのルールの中でこれだけは絶馬場対にやっちゃいけないことって何かわかるかい?」 「これはな、たくさん団体はあるけど、そのことを理解しているレスラーは…まあ、1割ぐらいじゃないか」 「それは闘う相手の”虚”を突いてはいけないということ。いいかい、レスラーはな、『殴りなさい』と構えることが大事なんだ。そうすると、相手は殴るわな。で、また殴りなさいと構える。相手が殴る。その”流れ”がプロレスなんだ。この流れを無視した攻撃などは絶対にやってはいけないんだよ。だからこそ、殴られても痛くない体を作ってからリングに上がりなさい、と俺は言うんだ。俺は、ウチの選手を教える時には、まず相手の攻撃を受けることから教えるわけ。やられてから、どうやって攻撃するのかを教える。だけど、他の団体では攻撃することだけ教えている。そうなると、相手の”虚”を突くような試合しかできなくなる。体も鍛えてない、攻撃だけしか勉強していないレスラーの試合でも、あんたたちから見たら同じプロレスになる。そう見られるのは、俺からしたら、やはり、いい気持ちはしない。本当に悔しくてしょうがないんだ。逆に考えれば、そんな選手はかわいそうなんだよ」 馬場さんらしい含蓄のあるお話です。

 馬場さんは本当に優しい思いやりのある人でした。プロ野球巨人軍の投手だったことは有名ですね。1955年(私の生まれた年です)のことです。ある日スパイクを履かずに運動靴のままで練習グランドに現れた馬場さんは、コーチにこっぴどく怒られます。合宿所の下駄箱に置いてあったスパイクに、猫が子供を三匹産んでしまい、「かわいそうで、どかせなかった」そうです。阪神淡路大震災のとき、元子夫人の実家も被害にあいました。馬場さんは若手レスラーを連れ、すぐ現地に駆け付けます。公式には「実家復旧のため」と発表されましたが、実は、がれきの中、ファンクラブの会員宅を一軒一軒探し当て、安否を確かめ、必要な物資を配って回っておられたのです。

 苦労もしておられます。レスラーになって2年目アメリカ修業時代、安いモーテルで、米・ニンジン・じゃがいもばかりの生活。田吾作タイツに高下駄をはきリングに塩をまいてシコを踏んで上がることを命令された。屈辱だが食べるためには仕方がない。全日本プロレス時代も、選手の大量離脱で、団体が立ち行かなくなりかけたことも。世界の馬場さんも、こんな思いで苦闘しておられたんです。

 馬場さんは、実直・誠実を絵に描いたような人でした。この業界では、「猪木」と呼び捨てにすることはあっても、「馬場さん」は”さん”づけです。人望の差でしょう。「プロレスラー猪木」は大好きでも「人間猪木」は大嫌い、という人が多いのは、「世話になった人にもファンにも平気でウソをつく。義理のある人を裏切る。とくにお金がからむと、彼は平気で人を裏切ります」(元テレビ朝日プロデューサー・栗山満男)が原因でしょう。一方の馬場さんは、人を利用したり、だましたりして、自分がのし上がる、こととは無縁の人でした。そのことは、以前『ブルドッグ(懐かしい雑誌です、これがわかる人は?)のインタビューに答えた、次の言葉に象徴されています。馬場さんの人柄がにじみ出たインタビューでした。

 たとえば、オレの場合は、自分でできる約束しかしない。できる約束かどうかを見極めて、できない約束はしないことにしてるね。できない約束なんて約束じゃないと思うな。だから、変な話かもしれないが、人と待ち合わせの約束をしたら、絶対に相手を待たせないとかね。お金に関しても同じで、払えない金額をいくらいってもしょうがない。相手を裏切ることだし、結果的には信用をなくしてしまうからね。

 やっぱりね、人生で一番大事なのは人間関係だろうな。自分で決めたルールではないが、自分から他人をだましたことはない。だますよりだまされた方がいいよ。だますヤツには魅力はないけど、だまされるヤツには魅力がある。オレが思うには、絶対に他人にだまされないヤツって、よっぽど警戒心が強く、猜疑心が強いヤツでね。そんな人間に魅力は感じないね、オレは。これはオレの性格なんだろうね。裏切られたらオレは、その人間を許さない。性格上そんな人間とは二度と付き合いたくないからね。別に潔癖症ではないけど(笑)。さっき言ったように約束したらきちんと守るといったようにね。できない約束ならしない方が楽だとオレは思うしね。  (下線部筆者)

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