うどん屋をやれ!

松下幸之助

 ある日、松下幸之助さんは知り合いのうどん屋さんを訪れます。その店はお客さんで大繁盛していましたが、松下さんはその経営の裏側にある「循環」に目を向けました。慧眼です。

<繁盛するうどん屋のサイクル>

1.価値の提供: 美味しいうどんを、心を込めて提供する。

2.適正な利益: 1杯売れるごとに、数銭の利益が出る。

3.再投資: その利益で、さらに良い粉を買い、店を清潔に保つ。

4.感謝と循環: 「儲かってありがたい」という感謝の心を持ってまた次の1杯を作る。

松下さんは、この小さなうどん屋で行われていることが、たとえ巨大なダムを作る事業であっても、本質的には全く同じである、と説いたのです。松下さんがここから学んだ「3つの教訓」は次の通りでした。「商売は、世の為、人の為の奉仕であり、利益はその正当な報酬である」

① 利益は「奉仕の報酬」である♥

 松下さんは、利益を「強欲の結果」ではなく、「社会に役立ったことへの通信簿(報酬)」だと考えました。うどんが美味しくなければ客は来ず、利益も出ません。利益が出ているということは、それだけ人を喜ばせた証拠なのです。

② 正しい「適正利益」の追求♥

 「安ければいい」という考えを彼は否定しました。安すぎて利益が出なければ、店は潰れ、客にうどんを提供できなくなる。→それは結果として、社会に対する無責任である。「適正な利益を取り、それを次なるサービスの向上に充てること」こそが、社会に対する責任(公器としての役割)である、と説きました。

③ どんな大きな仕事も「1杯のうどん」から♥

 100万個の商品を売るのも、1杯のうどんを出すのも、目の前の一人を喜ばせるという点では変わりません。松下さんは、会社がたとえ大きくなっても「自分たちはうどん屋と同じである」という謙虚さと手触り感を忘れないように戒めました。

 現代にも通じる「うどん屋の経済学」の構造の考え方を整理すると、以下のような持続可能なビジネスモデルが見えてきます。

ステップ

アクション

精神的背景

1.誠実な商売

良いものを適正価格で売る

相手への敬意

2.利益の確保

健全な経営基盤を作る

社会への責任

3.還元・投資

設備やサービスを磨く

感謝の心

4.信頼の蓄積

「あのお店なら安心」と思われる

徳の積み上げ


 このエピソードは、ビジネスが複雑化した混迷する現代社会においても、「自分たちは誰を喜ばせ、その対価として何をいただいているのか」に立ち返らせてくれる鏡のようなお話です。

 松下幸之助さんは、小学校を4年で中退していますが、世界に冠たる大企業「ナショナル」(現・パナソニック)を一代で作り上げた立志伝中の人物です。この人は経営学など習ったことはないのに、「経営の神様」と呼ばれてきました。この人の口癖が「いつでも屋台のうどん屋になる。それができれば、恐いことはあらへん」というものでした。それは経営幹部にも徹底していて、「君はうどん屋になれるで。わしが鍛えたんやから、とよく言われた」と何人もの役員経験者が回想しています。大のうどん好きだった松下さんの真意は、「うどん屋が立派につとまれば、会社経営もちゃんとできる」ということなのです。うどん屋の経営者はいったい毎日、何を考えて経営しているのでしょうか?見てみましょう。

 まず材料が良くなければ美味しいうどんは作れません。適正な値段の設定も重要です。この材料でこのくらい売れたら、いくらで売ればいいかを逆算して決めたり、あるいは店を出す地域の相場で値段を決めて、赤字にならないように毎日のノルマを決める。もちろん、うどんは天気次第で打ち方が変わるし、温度や湿度の差でつゆや麺の仕込み量も変わる。寒いと客が増えるから多めに作り、暖かいと少なめに作って、客の出入りを見計らいながら中途で追加する。しかも、「味はどうですか?」とお客さんに聞いて反応を見ることも忘れてはならない。釣り銭もちゃんと用意する。評判になって忙しくなったら、2号店を出したり、出前係や下働きの店員を雇い従業員を増やしたりもする。うどん1つ売るのにも、これだけのノウハウを駆使して経営しているのです。

 これらは経営学の教科書では、資金計画、素材研究、仕入れ、価格設定、相場の研究、製造工程の徹底管理、品質管理、生産計画の設定、マーケティング、商圏調査、在庫調整、ABC」分析、生産調整、商品販売、消費者へのアンケート調査、現金の回収と管理、宣伝広告、拡販計画、人材採用、労務管理、などといった言葉で登場します。これらを総称して「マネジメント」と呼んでいるのです「うどん屋ができる」というのは、これらがこなせれば立派な経営者になれる、という松下さん流の最大級の賛辞だったのです。

 しかし、当のうどん屋のご主人は経営理論などを意識せずに、ただひたすら「旨いものを出したい」という一点で仕事をしている人のほうが多いようです。せいぜい、「仕入れ代に困らないように切り盛りしなくちゃ」という「経営感覚」でこの仕事をこなしているのです。♥♥♥

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