奥田隆一先生

 最近の大学の英語教育で不満に思っていることがあります。資格試験で高得点を取ることばかりが一番の目標になってしまい、肝心の英語の面白さや奥深さを知ることがないがしろにされているという点です。教育実習にやって来る学生で、英々辞典を引いたこともない、という輩も珍しくはありません。

 私が学生時代は、17世紀の英詩を読む1時間の授業で、難しくて2~3行しか進まなかった故小林定義先生の英文学の購読授業。テキストに出てくるすべての単語をOEDで意味を調べてくることが義務づけられていました。先生もご自分で全部ノートに書き写して授業の臨まれるため、腰を痛められました。ラフカディオ・ハーン研究の大家、故銭本健二先生の授業では、文学の面白さを味あわせてもらいました。授業の度に豪快に笑われた姿が印象に残っています。故大上寛親先生の英語教育の授業では、英語の音声の大切さ、教育理論を熱く語られました。先生は1日の授業がすべて終わった17時を過ぎると、よく学生の研究室に下りてこられて、一升瓶を囲み、授業では教えていただけないことをたくさんお話していただきました。先生は米軍の通訳をなさっておられた英語の達人でした。山田政美先生には、英語の精緻な読み、英語文化の全体像、英語を読むことの奥深さ・難しさを教えていただきました。英語教師の心構えを一から叩き込んでいただいた先生でした。安藤貞雄先生には、英語を通じて考えることの大切さを教えていただきました。先生にお借りした洋書を読んでいると、下線だらけのテキストの随所にNo!…とかYes!といった書き込みやが見られ、先生のお考えになっていたことに触れることができ、非常に勉強になったのを覚えています。高校英語教師としてここまで長くやってこれたのは、ひとえにこれらの先生方のお陰と感謝しているところです。

 関西大学外国語学部の奥田隆一(おくだたかいち)先生の近著『英語語法学をめざして』(関西大学出版会、2013年)の「あとがき」に、私が最近感じているこのような危惧が見事にまとめられていましたので、引用させていただきます。

IMG_3207 近年、英語教育でコミュニケーションカの向上が強調されてきて、大学英語教育の分野ではTOEICのスコアを上げる事が英語の力を上げる事のように考えられつつある。読む事に関しても速読などに焦点が当たり、おおざっぱに英文の内容が分かればいいというのが主流である。聞く事に関しても、だいたいの内容が分かればいいことになってきている。アウトプットが重視されて、話す事が苦手な学生が減ってきている。そのため、全般的な英語の力が上がったかのように見える。しかし、最近の学生が書いた英文を読むとそのひどさに驚いてしまうのである。基本的な文法の誤り、スピーチレベルの無視、内容のレベルの低さなどに驚かされる。
 では、なぜこのような状況になったのであろうか。話す事ばかりに重点を置きすぎたために、口語的でインフォーマルな表現ばかりを身につけ、フォーマルな表現との区別がつかない学生が多く生まれてきたからだと思われる。また、話す場合、文法的に間違えていても相手に理解してもらえるのでいつまでたっても文法的に正しい文が書けないのである。さらに、文法を細かく学ぶ事もなく、少し硬い文体で書かれた内容のあるエッセイなどをじっくり精読する事も減ってきていることも原因の一つだ。
 また、英語教育という学問分野が盛んになり、教授方法ばかりがクローズアップされ、かつてのように英語自体に関して分析する事は英語教育でないようになってきている。また、そのような英語教育の専門家からの教育を受けて、文法・語法などの知識が不足している現場の教員が増えつつある。さらに、英語学が専門なのに英語の文法や語法についてきちんと理解していない研究者が増えつつある。コーパスが普及していて、自分で資料を集めたりじっくり分析したりする事が減ってきたためであろう。
 この状況において強調したいのは、現代英語をもう一度きちんと観察して、その文法と語法をとらえ直す必要性である。言語学、英語学、英文学、英語教育の専門家、現場の英語教員などが協力して、日本人にとって必要不可欠な「現 代英語の現状」の理解をして行くことが重要であろう。その時に役に立つのが「英語語法学」という観点だと思われる。この本で提起した「英語語法学」というものが、日本人の英語の理解等語でのコミュニケーションの促進に少しでも役に立てれば幸いである。   (下線は八幡)

 このような思いから、奥田先生は自らホームページ「OKUDAの英語観察の部屋~英語情報と英語表現を観察するサイト」を立ち上げ、実践をご発表になっています。非常に魅力的な英語の勉強の宝庫となっています。⇒コチラです  またブログ「OKUDAの英語観察の部屋」では、先生が日頃の読書で気づかれた英語表現を数多く解説しておられます。⇒コチラです   さらにはフェイスブック「英語語法学をめざそう!」でも数々の貴重な英語観察を公開しておられます。⇒コチラです  私は英語の勉強の原点は、こういうことだと思っています。先生方、ぜひのぞいてみられることをお薦めします。興味をもたれた方は、奥田先生の『英語語法学をめざして』(関西大学出版会、2013年)をお読み下さい。

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