たらいの法則

 あの二宮金次郎が、一生をささげた農村の復興事業で、彼が一番苦労したのは荒れ地の開墾などではなく、人々の心を耕すことでした。農民の中には、反発する者や、自己中心的な者がいて、なかなか一つにまとめることが難しかったのでした。ある日、金次郎は、丸い風呂に入りながら村人を諭します。

 「自分の利益ばかり考えている者は、風呂のお湯を、しきりと手前へかき寄せているのと同じだ。一時は自分の方へお湯が寄ってくるが、すぐに脇をすり抜けて向こう側へ流れていってしまう。結局、自分も恵まれることがない。これと反対に、常に相手のためを思い、自分の持っているものを与えようとする人は、お湯を向こう側へ押しやるのと同じだ。そのお湯は向こうへ行くように見えるが、実際には、ぐるっと回って自分の方へ返ってくる。相手も喜び、自分も恵まれることになるのだ。」

 金次郎が一貫して村人に訴え続けたのは、利他の心」でした。「自分さえよければ人はどうでもよい」という自己中心的な心(我利我利の生き方)を捨てて、自分だけでなく相手のことも思いやり一致協力した(自利利他の生き方)から、不可能と思えた農村の復興を成し遂げることができたのでした。

 おまえ、ここに水が入った盥(たらい)があるだろう。両手でその水を自分の方へ左右から送ってごらん。水は初め、自分のところに集まるけれど、すぐに自分のIMG_1523手元から離れていく。反対に、水を左右に送ってみなさい。水はおのずと自分の方へ集まってくるだろう。自分の幸せばかり考えているとな、その人の幸せはどこかへ行ってしまうのだよ。だから人が喜ぶようなことを、無理せず、少しずつ積み重ねていくことがとても大切なんだな。これを「損して得取れ」と言います。
 たらいに大きな水を張る。手前から人差し指一本で水を向こうに押しやる。水の波紋は途中で消えてしまう。それでも、ただひたすら押し続ける。やがて、波紋は大きくなり反対側の壁にぶつかって自分に返ってくる。与えて、与えて、それでも与え続けること。それはすべて自分のためになる…。そんな生き方をしなさい。

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