私が初めてこの「蜃気楼(しんきろう)ダイヤ」を知ったのは、西村京太郎先生の推理小説『五能線の女』(2006年)を読んだときでした。この小説は後に、テレビ朝日系でドラマ化されて「五能線の女・秋田~能代~五所川原~弘前連続美女殺人ルート!突然列車が消えた・・・謎の蜃気楼ダイヤトリック」というタイトルで、2006年に放送されました。五能線の「リゾートしらかみ」という列車は、深浦駅で1時間半ほど停車して、周辺スポットをゆっくり観光してもらおうというダイヤになっているこの列車、実はその空白の1時間半の間にも、時刻表にはない運行をしていて、周辺を走り回っているのです!それを「蜃気楼ダイヤ」と呼んでいて、それを知っていた犯人がこのダイヤを利用して殺人を犯していた、というトリックでした。
一度走り去った列車が、折り返して元に戻ってくるならごく当たり前のことですね。しかし、同じ方向から2度も同じ列車が現れるなんて不思議な話だと思いませんか?そんな列車が1999年から2005年まで実在しました。五能線経由の臨時快速「リゾートしらかみ3号」です。現在は、秋田~弘前・青森間を走っています。「リゾートしらかみ3号」はおもに観光シーズンに運転されている全席指定の快速列車で、窓が大きく、運転席の後ろに展望ロビーを備えた
リゾートトレインです。途中の景勝スポットで徐行運転してくれたり、車内で津軽三味線の演奏が行われたりと、観光客向けのおもてなしサービスが行われています。1999年から2005年までの「リゾートしらかみ3号」は、秋田駅を出発して奥羽本線を走り、東能代駅から五能線に入って海沿いを進みます。あきた白神駅、十二湖駅、ウェスパ椿山駅、深浦駅に停車するところまでは現在も同じ。ところが当時、深浦駅に到着した「リゾートしらかみ3号」は、こっそり逆方向に走って岩館駅まで戻り、その後は再び十二湖駅、ウェスパ椿山駅、深浦駅に停車していたのです。ただし、当時の時刻表では、深浦駅に長時間停車するように表示されていて、逆方向へ往復する部分は一切省略されていました。但し書きには、「あきた白神駅、十二湖駅、ウェスパ椿山駅に下車観光後、同じ列車に乗車できます」と書いてあるのみでした。時刻表には表示されない列車が走る不思議さから、「蜃気楼ダイヤ」と呼ばれたのです。
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▲リゾートしらかみの運行図。時刻表には太い線の部分しか表記されていなかった |



