足立美術館~「生の額絵」

 私の癒やしスポットが、安来市にある「足立美術館」です。アメリカの日本庭園専門誌『The Journal of Japanese Gardening(ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング)』より、「足立美術館」の日本庭園が「16年連続日本一」に選ばれたことが、1月15日に発表になりました。私は心が疲れた時には、いつもこの美術館にやってきて、「枯山水庭」や、遠方に見える「亀鶴の滝」を眺めてはボーッとたたずんでいます。私が小さい頃に、故郷の広瀬町の目と鼻の先の「さぎの湯温泉」に、足立全康(あだちぜんこう)さんがオープンした小さな美術館が、「足立美術館」でした。足立さんは小作農家の長男に生まれ、車引き、炭の小売り、貝の卸し、露天商、米の仲買い、よろず屋、タドン屋、繊維の卸商、刀剣製造、自動車販売、不動産業…と、30以上の職種をたどりながら、「人間、命を賭けて物事に取り組めば必ず実現できる」の不動の信念に基づいて大富豪になったのでした。「ワシの人生は、絵と女と庭や」が、足立さんの口癖でした。

 今日も私はやって来て(孤高の画家橋本関雪の特別展を開催中)、庭を眺めておりました。いつ見ても本当に心和む庭園です。「16年連続日本一!」も納得の場所ですね。

 ここでもう一カ所、私が心惹かれるスポットに「生の掛軸」「生の額絵」があります。床の間の壁をくりぬいて、あたかも一幅の山水画が掛かっているかのように見える、また窓枠がそのまま額縁となって大小の木や石がバランスよく配置され、芝生の稜線が美しい「足立美術館」の名物です。足立さんが師と仰ぐ、米子商工会議所の名誉会頭だった故・坂口平兵衛さん(山陰合同銀行・米子信用金庫を創設)と、皆生温泉で一杯やっている時に、「いいですか、これはあくまでもヒント、ヒントだがね、足立さんとこの床の間の壁をぶち抜いたらどうやろうなあ」「はあ、そりゃまた、どういうわけで…?」「壁の向こうは、あんたが手塩にかけたご自慢の立派な庭や。それが玄関に立ったら、パッと床の間の中央に見える。人は一瞬、これはどうなっとるんだろうと、目をパチクリさせるに違いない。どう、ちょっと、面白いように思うんだがね。いちいち絵を取り換えなくても、朝な夕なに自然が勝手に景色を演出してくれる。子規の変化はなおさらのこと、風情があって面白いよ」「なるほど。それは面白いアイデアですねえ。床の間に掛かっているのは絵でもなければ、墨書でもない、生きた風景、つまり生の掛軸というわけですね」足立さんは、早速美術館に帰ると、この前代未聞の発想を職員らに提案しました。しかし全員がこのアイデアには猛反対しました。「床の間に穴を開けるなんて」「とても出来ない相談」冗談もいい加減にしろ、といった口ぶりです。「それじゃ、ワシがひとりでやる」アッと驚くみんなを尻目に、大きなカナヅチでドンドンと壁をぶち抜いてしまいました。大工はまるで腰を抜かさんばかりの顔をして「私はこれまで、趣向を凝らした家や部屋をいくつも見てきたが、床の間をくりぬいた御仁には初めてお目に掛かりました。いやあ、世の中にはとんでもないことを考える人がいるもんだねえ」 こうして「生の掛軸」は、横山大観コレクションと並んで美術館の名物となりました。ガラス越しに向こう側の白砂青松庭が望め、自然の木々や滝、石組みなどが、ちょうど床の間にかかる一幅の山水画のように眺めることができます。これがきっかけとなって「生の額絵」も生まれました。私のお気に入りの場所がこの「生の額絵」です。喫茶室「翆」を出て、順路を進んだところにあります。

 美術館正面玄関入り口にある定礎に、「財団法人 足立美術館」と、堂々とした風格のある書体で揮毫されたのは、この坂口さんでした。❤❤❤

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