monitor

 日本語で用いられている「モニター」(=依頼を受けて商品の質・内容などについて意見や感想を述べる人)という意味は、英語のmonitorでは普通ではありません。では、一部の英和辞典にあるように、monitor「一般人から選ばれて放送の批評・感想を広告するモニター」のような語義が普通なのでしょうか?故・D.ボリンジャー博士は、ラジオ・テレビの調査会社に確認を取ってくださいました(ボリンジャー博士は、理論だけでなく、このように生の言語資料・事実を大切にされる偉大な先生でした。記述の正確さを期するために、現場へ頻繁に足を運んで専門家に尋ねて下さったり、集められた言語資料を惜しみなく提供していただきました)。その結果によれば、そのような意味は知らないとのことでした。サンホセのテレビ局にも問い合わせてくださったのですが、可能ではあるとのことでした。スタンフォード大学図書館職員によれば、1977年版政府刊行物のDictionary of Occupational Titlesに、次のような記述が見つかりました。

Broadcast checker : [Person assigned to] check contract violations with advertisers and program producers in violation of FCC regulations and to detect audio and video irregularities. The person also uses a stop watch to check the timing of commercials, public service items, and news.

 しかし、これは一般の人の使う用語ではないとのことでした。イギリスでもR.イルソン博士によれば、使われていない、との報告を受けました。まず普通に使われる用法ではないとしてよいと思われます。また日本語の「商品を使用して意見を述べる人」の意味も一般的ではありません。test userproduct tester[reviewer]などと言うといいでしょう。放送に関してなら、test viewer(テレビのモニター)、test listener(ラジオのモニター)と言います。

 monitorは、普通、動詞で使うと「監視する、観察する」という意味です。名詞なら「画面、ディスプレイ」の意味もあります。

 私が和製英語の判定に関して最も信頼を置いているのが、亀田尚己・青柳由紀江・J.M.クリスチャンセン『和製英語事典』(丸善、2014年、3990円)です。著者らは大学の講義のレポート課題として毎年、受講生に様々な場面で登場してくる和製英語の収集を課してきました。学生が集めてきた「和製英語」を参考にしながら、特に近年造語されてきた和製英語の紹介に重点をおきつつ、巷にあふれる和製英語を600項目セレクトし(「500項目(単語編)+140項目(表現編)」)、1頁に2項目を取り上げ、「背景解説と正しい表現(ショートストーリー)」「そのまま使ったらネイティブにどう伝わる?」「ネイティブによるワンポイント解説」という内容構成で、興味深く解説する事典です。この事典の大きな特徴として、見出し語の右肩に○、△、×と、通じる/通じない標識」を付記している点を挙げることができます。△は「通じる場合もある」という意味で、私はこれが気に入りました。学問的に正確を期していて、今までありそうでなかった事典です。monitorに関しては、○△とありました。

●<背景解説と正しい表現> モニターとは「監視・観察する」こと、「監視・点検する人、装置」、また、消費者・視聴者など商品や放送番組などについて「意見・感想を報告する人」、コンピュータの「出力表示装置」などを意味します。英語ではそれぞれmonitorを使います。ただし「商品や放送番組」のモニターは、ただ監視しているというより、実際に使ったり番組を見たり聞いたりする人なので、「商品」ならa test user、「放送」はテレビならa test viewer、ラジオならa test listener といいます。

●<そのまま使ったらネイティブにどう伝わる?>  「モニター」というと、通常は「監視装置」などと思われます。最近はコンピュータの普及により、「モニター」をディスプレイ装置と考える人も多いでしょう。なお「商品や放送番組」のモニターの意味では、分かりにくいでしょう。(p.234)

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