自己採点のいい加減さ

 「ミスしたら負け」というのは、スポーツに限りません。私が身を置いている教育の世界でも、「センター試験」時代から「共通テスト」の今日に至るまで、生徒たちの「自己採点」で、大きなミスが目立ちます。返ってきた本番の「成績開示」を見てもそれがよく分かります。そもそもマーク模試の「自己採点」段階からデタラメなんです(試しに「進研共通テスト模試」の学校資料の最後をご覧になってください。自己採点の悲惨な実態が分かります)。数字の○×の確認だけの採点がきちんとできないのは一体どういうことなんでしょうか??某予備校のデータによれば、自己採点と実際の得点が一致しない生徒の割合は、82%もあります。模試会社の公表によれば、85%とも言われています。ですから少々自己採点が間違っていても、「横断歩道、みんなで渡れば怖くない」実態があるので、それでも合格していくのです。でもよ~く合否結果分析を見てみると、自己採点が10点以上間違っている生徒は、まず難関大学には不合格になっています(「二段階選抜」で落とされる場合も)。ひどいのになると数十点も違います。思わず笑ってしまったのは、数年前に浪人して松江北高補習科にやってきた生徒の成績開示が、自己採点と117点(!)も違っていました。でも地方公立大学に合格してきていたんです〔笑〕。模試の成績が悪いことよりも、「自己採点」がデタラメなことの方が問題ですが、もっと問題なのは、それをきちんと理解して、ミスをなくす努力をしている生徒が非常に少ない、という点です。なんとなく済ませてしまっています。担任も「きちんとしなさい!」とは言うけれど、それ以上の手立てを講じようとはしません。模試の自己採点当日の現場で、生徒と向き合って、そのポイントを徹底している学校は少ないと思われます。聞いた話では、家でやって来いという学校もあるくらいです(これが本番時には、うるさいくらいに指導するのは滑稽です)。無関心なんです。私が松江北高に赴任した今から16年前は、模試の各回ごとに全クラス追跡をかけて、対策を講じていたものですが、今はそれもありません。当時は、冬休みに学校独自で実施するセンター模試演習でさえも、その日のうちにマークリーダーで得点と自己採点の照合をしていたぐらいです。こういう基本のキ(私は、「ABC」(たり前のことをカになってゃんとやる)と呼んでいます)がきちんとできていたから、進学成績も好結果が出ていたことを忘れてはなりません。

 私のこれまでの観察では、得点の高い人が必ずしも「自己採点」が正確とは言えません。しかし、「自己採点」が正確な人は概して得点が高いようです。今日は、なぜ「自己採点ミス」が起こるのか?その原因を考えてみたいと思います。私の考える主な原因は次の通りです。いずれも2回点検することで防げる凡ミスばかりです。

(1)【模試当日】 問題を解く際に、自分の解答をきちんと問題用紙に転写していない。問題番号をずらしてしまう。不鮮明でどれにマークしたのかが読めない。消しゴムできちんと消していない。その結果、自己採点当日に自分の答案が再現できなくなる。致命的な「ダブルマーク」や「科目コード」の記入ミスも見られます。細心の注意が求められます。

(2)【自己採点当日】 問題用紙の自分の解答を「自己採点用紙」に転記する際に、うっかり写し間違える。もう1回点検することで防げるミス。

(3)「正解」と「自分の解答」を照合する際に、うっかり○×を間違える。これももう1回点検することで防げるミス。

(4)得点を「小計」、「合計」する際に暗算でやって間違える。必ず電卓を使って、2回計算することで正確に合計できる。自己採点当日、電卓を忘れ手計算でいい加減にやっている生徒も目につく(そもそも電卓を持って来いという指示を出していない学校すらも…)。

(5)解答用紙にマークする際に、決められたようにマークしていないので(形、濃さ、消し忘れ)機械が読み取れない。鉛筆は本番と同じようにH、F、HBを使いたい。

受験ノイローゼのイラスト(男性)

 これらのミスはもう一度見直す(「検算」)ことで全部防ぐことができますね。いかに正確な「自己採点」が重要かは、受験指導を長年やった先生なら、よくよく分かっておられることでしょう。以前に、英語の「センター本試験」の分布で、平均点付近で2点違うとどのくらいの順位が違ってくるのかを、同僚の数学科の正村 修先生に計算してもらったことがあります。それによれば9,504人です。長文問題1問分6点違うと、28,621人です。どうです?馬鹿にならないことが一目瞭然でしょう?たった1問でこれだけ順位が異なってくるのです。模試の判定でも、自己採点がデタラメ状態では、デタラメな志望校判定結果しか返って来ません。ましてやこれが本番となると…?この恐ろしさを生徒にきちんと伝えて、毎回追跡をかけて、限りなく自己採点ミスを0点に近づけていく努力を怠ってはなりません。現場では「忙しい」と称して、こうした努力を行っていない学校が数多くあります。私には本末転倒の「言い訳」としか思えません。生徒の「自己採点」を信じて、二次出願を行う訳ですから(今は私大の入試でも重要です)でも、そこをきちんとしておかないと、ボロボロと取りこぼしが出てくるでしょう。長年進路部長を務め、毎年校内データ追跡をしながら痛感したことです。

 私は模試の自己採点当日は、次のように指示をしながら、段階的に行います。最初に生徒たちにこの手順を徹底しておくだけで、後が楽チンです。


(1)まず自分の問題用紙に1問に1つ○がしてあるかどうかを確認する。

(2)問題用紙の自分の解答を、鉛筆で自己採点用紙の解答欄に転記する。終わったら正しく転記できているかどうかをもう一度確認する。

(3)「正答」と「自分の解答」を見比べて、一致していれば配点を赤ペンで囲む。違っていれば配点に×印。終わったらもう一度点検する。

(4)赤○の配点を電卓に入れて足し算をし、「小計」を計算する。もう一度間違いないかどうか確認する。「小計」を電卓で足して「合計点」を算出する。もう一度確認する。以上終了。


 私はまだ若い頃、島根県立松江南高等学校に13年間勤務させていただき、そこで教師として、一から育ててもらいました。当時は「北高に追いつけ、追い越せ!」を合い言葉にして、方法論こそ違え、全教員がそこを目指して精一杯努力をしていました。そしてそれを実現して、島根県のトップに立ったものです(今ではもう見る影もありませんが…)。今では信じられないでしょうが、「センター試験」の初日、2日目に(私たち若手教員が別室で「自己採点用紙」も手作りしていたのを懐かしく思い出します)、島根大学で試験終了後には(もう真っ暗です)、会場で担任が生徒一人一人から問題用紙を、段ボール箱に回収して持ち帰っていたんです。これには三つの理由がありました: ①初日、家に帰って自ら自己採点をしたりして、2日目に動揺する生徒を出さないため、②学校での「自己採点」当日の問題用紙忘れを避けるため、そしてここが一番重要なんですが、③担任がその夜のうちにクラス全生徒の自己採点をして、翌日学校で生徒の自己採点との照合をして正確を期すため。当時は、ここまで徹底してやっていたんです。真夜中に、その結果を担任同士で電話連絡を取り合ったりしたものです。私には忘れられない想い出があって、ある年に真夜中にクラス全員の自己採点をしていて、英語があまりにも点が低いので、ショックで鼻血を出した〔笑〕こともありましたっけ(実はこの年は英語がとびきり難しく全国平均点が96.4点で、私のクラスの生徒たちはかなり高得点を取っていたにもかかわらず、見かけの点の低さに愕然としたものです。英語の「センター試験」の全国平均点が100点割れを起こしたのはこの年だけです)。すでに「自己採点」の始まる当日には、生徒の点を担任がちゃんと正確に把握しているのですから、生徒がいい加減な「自己採点」をすればすぐ突き返すことができました。ここまで正確を期してやっていたのです。

 教員が「忙しい」と称して、肝心の所で手抜きをしているのがとても気になります。事情の分かっている私などは、「ここできちんとやっておけば、後で楽ができるのに……。結局、後で苦労することになるのになあ……」と感じています。野村克也さんの言う「負けに不思議の負けなし」です。○×式の「自己採点」くらいきちんとできなければうそです。今の松江北高現役でも松江北高補習科でも勝田ケ丘志学館でも、「自己採点」をパーフェクトにやっているのは、クラスにほんの数人だけです。おそらく全国の学校でも似たような実態でしょう。みんながそういう実態だから、少々間違えても合格できる…。こういうことは大学へ行っても、大人になって働き始めてからも重要なことです。やった仕事はもう一度点検してみる。これがミスを減らす最善策です。私の尊敬する経営コンサルタントの中島孝志(なかじまたかし)さんが、最近『ミスがどんどんなくなる技術160』(知的生き方文庫、三笠書房、2021年)を上梓されました。この人の書くものはみんな面白い。♠♠♠

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