「石の上にも3年」

     就職活動という厳しい戦いの中で内定を勝ち取り、将来への期待に胸を膨らませて入社したにもかかわらず、新入社員の3人に1人は3年以内に離職しているのが現状です。なぜ若者たちは、そんなに早く仕事に見切りをつけて離職してしまうのでしょうか?業種別に見ると、サービス業に属する企業の離職率が高くなっており、特に「宿泊業・飲食サービス業」「生活関連サービス業・娯楽業」「教育・学習支援業」に関しては40%以上と非常に高い離職率となっています。離職する理由としては次のようなものが考えられます。

①給料に不満がある

 「もっと給料が良いと思っていた」「辛い思いをして働いた割には、給料があまり良くない」という若者の声は多いです。給料面での比較は同世代でのネタにあがりやすく、就業状態はさておき、給料が負けていると働く意欲を失う若者が多い傾向にあります。

②仕事上のストレスが大きい

 何事にも締め切りがある中で、プレッシャーを感じたり、納期が遅れると怒られたりすることがストレスの原因となるでしょう。また、大学ではトップクラスだった新入社員も、会社に入るとその道のスペシャリストには勝てないことも多々あるので、それがストレスと感じてしまう人も多くいます。また残業が多いと疲労感にもつながります。 

③会社の将来性・安定性に期待が持てない

 就職活動時に、企業の情報を十分に集めることなく就職先を決めている新入社員も中にはいます。仕事に就く以上、社会状況がどうであれ、その職業が一体どんなものなのか、きちんと考えておく必要があるでしょう。実際に働いてみるまでは、現場の雰囲気や経営方針など詳しい部分を理解することはできないでしょう。新入社員が、特定部署でしばらく働いただけで、会社の将来性に不安を覚えているようです。

④労働時間が長い

 入社して実際に配属されるまでは、労働時間の長さに気づくことができません。新入社員の中には、思っていたより労働時間が長く、自分のプライベートな時間が減ってしまうことを不満に感じている人が多いのが現状です。労働時間が長くなることに、モチベーションが下がってしまうのかもしれません。

⑤求められるノルマ・成果が厳しい

 入社して間もない頃は、求められるノルマが厳しいと、ストレスを感じてしまう新入社員もいるかもしれません。気持ちが折れてしまうと、仕事のやる気が低下してしまいます。

⑥仕事が面白くない

 最近の若者には、仕事に面白さを求める人が多く、面白くなかった場合に、そのことを理由に早期離職をしてしまう人も少なくありません。

⑦職場の人間関係が上手くいっていない

 若者に限らず、人間関係が上手くいっていない職場環境で仕事を継続するのは困難です。何かあった時に相談できる上司がいなければ、若手社員は孤立してしまうので、精神的に参ってしまう可能性があります。

⑧キャリアアップするため

 キャリアが長いのにまだ平社員という人が多いと、新入社員は自分をそういった先輩に重ね、昇進の希望を持てず、自分のキャリア・ビジョンを見つめ直す人も多いです。仕事に見切りをつけてキャリアアップを目指してポジティブな離職をする若者は増えています。

⑨会社の経営者や経営理念・社風があわない

 会社の経営者や経営理念・社風が自分の性格に合う、合わないは必ずあります。かりに合わなくても、合わせてやってみようという強い気持ちがなければ、そのまま退職してしまいます。

⑩相談できる上司・同僚がいない

 人間関係とも重なりますが、相談できる上司や同僚がいないと、辛い日々を送ることになります。特に入社したばかりの時は、できないことの方が多く、上司への相談はかかせません。コミュニケーションがとれず、孤立してしまうと会社に居場所がなくなり、出勤することがどんどん辛くなっていきます。

 これに関して、私は二つのことを感じています。「何が自分に合っているのか分からない」「自分に本当に合う仕事を探している」というフリーターも多く見られます。さらには、働く意欲すら全くない「NEET」族もいます。昔から「石の上にも3年」と言いますね。最近では仕事の厳しさに3ヶ月も耐えかねる人も増えているようです。それぐらいの辛抱ができないようでは、何事も報われることはないでしょう。たったの三ヶ月で仕事の全貌が分かってたまるかと思います。多くはただ単に辛抱ができないということだけなのでしょう。もしそうならば、いくら転職してみたところで、仕事は身につかず、結局は無為な人生を送ってしまうことにもなりかねません。仕事のシビアさを乗り越えた先に、初めて面白みは見つかるものです。その証拠に年季の入った職人さんの顔はみな美しく魅力的に見えます。自分の仕事一筋に、淡々と何十年も打ち込んできたからでしょう。一つの技を磨くのは並大抵の努力でなし得ることではありません。そこをぐっと辛抱してただひたすらに一つのことに邁進していると、悟りのようなものが顔に表れて自然といい顔になってくるのでしょう。あらゆる職業の人で、一つのことを長くじっくりやってきた人はすべからくいい顔をしておられます。一つの仕事、一つの職業を長く続けることの素晴らしい面を強調しておきたいと思います。

 もう一つの点です。「難しくともいずれ面白くなるのが仕事、楽しくてもいずれ飽きるのが遊び(趣味)」という、スイスの哲学者カール・ヒルティの考え方をお話しておきたいと思います。本当の「仕事」というのは、真面目に夢中になってやれば、そこからの疲労は意外と早く回復するもので、永続的な喜びが生じます。それに対して、「遊び」というものは以外に早く飽きと疲労が来て、またやりたいという気持になるまでに時間がかかるものです。一所懸命にやった途端に面白くなるのが「仕事」で、やっているうちに飽きてくるのが「遊び」なのだと言っています。まさにこれが判別式だと思います。面白いかどうかで仕事を選ぶ最近の若者の判別式はさておくとして、「好きなことを仕事にしている」というと、あたかもただ好きなことをして金をもらっていると思われがちですが、それが仕事になった時点で、遊びにはないシビアさが生まれているのです。そこら辺をきちんと理解しておかないと、最初は楽しくてもシビアな面にぶち当たると「この仕事は自分にあっていない」などと言って、また次を求めるということの繰り返しになってしまいかねません。

 例えば、私は若い頃、将棋が好きでよくやっていました。将棋解説書をむさぼり読んでは、相手を見つけては対局して、当時流行りだしたコンピューターの将棋ソフトものぼせてやっていました。学園祭の将棋大会に出場したり、定期考査の期間中には、好きな先生方が集まってトーナメント大会をしょっちゅう開催していました。けれども、いくら好きだと言っても、3日も4日もぶっ続けでやっているとさすがに飽きてしまいます。また、40代以降はマジックにのぼせて、作品を大量にアメリカから直接取り寄せては各種会合で演じていました。英語の説明書や解説動画と悪戦苦闘しながら手順を覚えていくのは、何よりも楽しい経験でした。でもいくら面白いからと言って、それを1週間もぶっ続けでやれるかというと、ちょっと無理ですね。つまり、私にとっては、「将棋」も「マジック」も「趣味」以外の何物でもなかったということなんです。

 ところがこれに対して、英語のほうはどうかというと、二ヶ月でも三ヶ月でも、三年でも五年でも、あるいは私のように四十年以上も平気でやってこれました。辞書一つ引くだけでも、その奥深さに感動したものです。そしてやっているうちにどんどん面白くなっていって、さらに勉強しようという意欲が湧いてきました。故・竹林 滋先生(東京外国語大学名誉教授)のお導きで、若い頃から学習英和辞典の編集にも携わらせてもらい、英語への興味・関心はますます深いものになっていきました。英語を勉強しない人には絶対に分からないであろう独特の楽しみ、言うに言われぬ喜びを味わうようになっていきました。最近では、その成果をさまざまな形で、全国の先生方や若い先生方に提供して、ご恩返しをする毎日です。これこそが、ヒルティの言う「仕事」なんです。自分が「仕事」とすることと、あくまで「遊び」とすることを、きちんと分けて考える必要があるでしょう。

 ある事に一所懸命になって自分を沈潜させてみたり、身も心もくたくたになるくらいに全力投球をすることで、面白さが出てくるもの、それが「仕事」なんです。本当の「仕事」と言えるようなものを持ったことがない人は、このような面白さ・喜びは味わったことがないはずです。職業を次々と変えながら転々とする人がいますが、彼らは何かをやってはすぐに飽きて面白くなくなり、また次のことをやり、また飽きて次へということを繰り返していきます。これでは「仕事」をしているとは言えない、とヒルティは言っているのです。

 「仕事」を楽しみとして感じることができるのは、精一杯仕事をやっているからこそです。嫌な思いをしたからと言ってすぐに辞めてしまうようでは、決してこれら無上の楽しみは味わうことができないでしょう。辞めてしまうのは、その人が「趣味」としてしかそのことに関わっていないということです。「石の上にも三年」という古い諺がありますが、それくらい辛抱しなければ何事も報われることはありません。努力を積まなければ成就できないくらいのシビアさがあるからこそ、仕事というものは続ける価値があるのです。

 その道のプロはこうも言います。「努力は夢中に勝てない。努力している時点で向いてないってことなんだ」「でも大事なことは、嫌いにならないところまで、とりあえずやってみること。どんなことでもはじめは難しいものなんだ。何が面白いのか理解して、それでもつまらないと思ったら、そのときはやめればいい」

 私は高校入門期の生徒たちに、こんな不等式を提示します。今後3年間の勉強の「指針」を表すものです。

     夢中▶好き▶努力▶義務

 いやいやながら「義務感」でやっているうちは伸びることはありません。「努力」と捉えている様では、まだ「好き」な人には叶いません。「好き」と捉えている様では、「夢中」な人には叶いません。早く夢中になれることを見つけられた者勝ちですね。また、最初は夢中になれなくても、その事柄に意識的に長く接し、努力し、好きになり、夢中になっていく可能性は、十分にあると言えます。私が日頃取り組んでいる英語の勉強でも、このことが言えると思います。「受験のためにいやいや嫌いな英語を勉強している」人は、「○○大学に入るために努力している/○○の職業に就くために一生懸命に努力している」人には叶いません。でもその人たちも「英語が好きで勉強している」人には叶いません。しかし、その人も「英語が楽しくて楽しくて時間の経つのも忘れてしまうくらい」の人には及ばないでしょう。そういう夢中な生徒をたくさん育てたい、というのが私の目標なんです。♥♥♥

▲岡山県立笠岡高等学校にて

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