「目標は高く」

 若い頃、故・渡部昇一先生から、「鉄砲撃ちの名人」というとても興味深いお話を伺いました。鉄砲撃ちの名人に、ある人が「地面にいる鳥と、高い枝に止まっている鳥、どちらのほうが撃つのが難しいですか?」と尋ねました。すると、名人は、こう答えたと言います。「地面にいる鳥も、高い枝に止まっている鳥も、どちらとも撃つには同じくらいの集中力と技術がいる」 素人考えで見ると、地面にいる鳥の方が楽に撃てそうですが、実際に要する集中力と労力・技量は同じだと言うのです。つまり、一見難しそうな目標であっても、そこへ到達するのに必要な努力は、一見容易そうな目標とさして変わらないということです。逆に言うならば、一見たやすそうに見える目標も、難しそうな目標を達するくらいの努力が必要だということです。要するに、目標が高かろうが、低かろうが、必要な努力は同じだということなのです。ならば、高い目標を掲げたほうが得策ですね。人は、理想や目標を掲げ、それを目指して生きていこうとします。しかし、目標が高すぎて失敗するのではないか、という不安にかられたり、紆余曲折の中で目標を見失ったりしがちです。そんな時には、この「鉄砲撃ちの名人」の話を思い出すことにしましょう。一見難しそうな目標を持っても、実はそこへの到達はそれほど困難というわけではなく、逆に、簡単そうな道も楽々行けるわけではないということです。目標が高かろうが、低かろうが、必要な努力は同じだと思えば、一見難しそうな目標に対して、くじけることもなくなるでしょう。

 あのソフトバンクの孫正義(そんまさよし)さんは、1981年に今のソフトバンクの前身の中古ソフトを扱う会社を立ち上げました。創業初日、さんはミカン箱の上に立って二人のアルバイトを前にして、途方もない夢を語り出します。「諸君、わが社は売り上げが5年後に100億円、10年後に500億円になります。そして30年後には、豆腐屋のように、売り上げを一丁(一兆円)、二丁(二兆円)と数えるような会社にします」聞いていた二人のアルバイトは、ぽかんと口を開けて、「何を言ってんだよ、この人は」というような顔をして、2日後には二人とも辞めていったそうです。さんの方が無茶な話と見るのが普通で、アルバイトの方がいたってまともと言わねばなりません。しかし、結果はさんの言うとおりになりました。創業から30年後、2011年度のソフトバンクグループの決算を見ると、なんと、売り上げが3兆2,000億円、営業利益が6700億円です。一丁、二丁ではなく三丁です。大きな豆腐屋さんになったものです〔笑〕(ただし最近のさんはあまりにも貪欲な投資屋になってしまい赤字が続いています)。若者たちにさんは語ります。「これまでの会社経営で一番学んだことといえば、やはりまず志を大きく持つこと。それを非常に強く真剣に思って、なおかつそれに向かってどりょくしていけば、方法論や道はおのずと開けてくると実感しています。思いの大きさ、強さ、方向性、それが一番大切です」

 京セラを世界一の企業に成長させた故・稲盛和夫(いなもりかずお)さんは、木造の倉庫を間借りして何とかセラミックスの操業を始めたという、できたばかりの零細企業、従業員はわずか数十人の時に、「いまはちっぽけな町工場でしかないが、この会社をまずは町内一番、つまり原町で一番の会社にしよう。原町一になったら中京区一を目指そう。中京区一になったら京都一を目指そう。京都一になったら日本一を目指そう。日本一になったら世界一を目指そう」とビジョンや目標を高く掲げ、夢を語り続けました。壮大なビジョンを心に抱き、誰にも負けない努力と絶え間ない創意工夫を重ねながら、仕事を一つ、また一つと懸命にこなしていきました。結果、京セラは一代でファインセラミックスの分野では世界一と言われる企業にまでなり、売り上げが1兆数千億円の企業にまで成長したのです。さらには、「電話代を安くしたい」との念願から、52歳の時に創業した第二電電KDDIとなり、現在5兆円を超すマンモス企業になりました。それだけではありません。2兆5千億円の負債を抱えて倒産した日本航空の再建を託され、大義を持って会長に就任したのは78歳の時です。就任1年目に1800億円の利益を出し、2年目には2,000億円の黒字を計上、就任後2年8ヶ月で日本航空の再上場を果たしました。稲盛さんは、夢についてこう語っています。「夢を持つことはとても大切なことです。まず、夢がないことには、人間は人生を漂流してしまいます。ちょっとした困難にもたちどまってしまいます。」

 今日のお話は、私が教室で生徒たちによく語る「夢は大きく、目標は高く」ということでした。♥♥♥

夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし。(吉田松陰)

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