give upできるもの、できないもの

 先日『LEAP Basic改訂版』(数研出版)の書評をした際に私は、この単語集が語の正確なニュアンスの記述に優れているということを述べました。その例の一つとして、次のように書きました:

 基本熟語のgive ~upも「~をあきらめる ▲(今までやってきたこと)を途中であきらめる。「〔注意〕「(将来)~することをあきらめる」はgive up (on) the idea of doingと表現する」という記述で、高校生がよく間違える×My mother was ill, so I gave up going to the movies.(母の具合が悪かったので私は映画に行くのをあきらめた)がなぜまずいのかがよく分かります。これは意外な盲点です。

 これについてもう少し補足しておきましょう。高校生は「give up=あきらめる」と丸暗記していて何でもかんでもgive upと書いてしまうのです。しかし実はこの句は、「(今までやってきたことを)あきらめる」ことを意味しています。つまり、まだやっていないことに対しては使うことはできないのです。これが意外な盲点ですよ、と書いたのです。

give up doingは「すでにしていることをやめる」の意。これから先のことについてはgive up the idea[all hope] of doingあるいはgive up trying to doという。[ジーニアス英和]

 「彼は留学をあきらめた」を英作文にする際に高校生がよく書くのは、“He gave up studying abroad.” です。これは英語としては間違っていませんが、その意味は「既にアメリカかどこかに留学していて、何かしらの事情でその留学を中止した」ということになります。しかし、「まだ日本にいて、留学の計画を練っていたけれどあきらめた」と言いたいのなら、この文章では不適切です。“give up” はまだやっていないことには使えないのですから。正しくは、“He gave up the idea of studying abroad.”といった言い方をしなければなりません。“give up” の本来の意味は、単純に「あきらめる」という日本語訳を覚えているだけでは、つかめません。中心の意味を理解することがいかに肝心かが分かります。かつてこのことを、著者の竹岡広信先生『竹岡広信の英語の頭に変わる勉強法』(中経出版、2009年)で述べておられました。この本は高校生が誤りやすい盲点・姿勢を数多く取り上げておられとても勉強になるので、出版当時に図書館にも入れてもらって、松江北高の生徒たちにも勧めたものでした。

▲この本みなさんにオススメです

 高校生がよく英作文問題に書く次の英文も誤りです。

毋の具合が悪かったので、私は映画に行くのをやめた。
×My mother was ill, so I gave up going to the movies.

give upが使えるのは「自分がすでにやっていること/持っているもの」に対してのみです。つまり、「まだ映画に行っていない」状況でgive upを使うのは誤りとなるのです。give up は、少なくとも「やめる」「あきらめる」の訳としては、英語を学ぶ日本人に非常によく知られている句動詞ですが、実はよく間違った使い方をされているのです。

 まず最初に、以下の2つの文を見てください。
①I gave up going to the movies. [○]
②I gave up going to see the movie. [×]
いつの話をしているのか文脈から明らかであると仮定すれば、①の文は英語として成り立ちますが、②は概念的に不可能です。①は確かに文としては成り立ちますが、その意味するところは、おそらく高校生が即座に考えるような意味ではありませんし、最初に掲げた日本語の英訳としては明らかに不適切です。

 もう一つ、非常に一般的な例を挙げて考えてみましょう。“I have given up smoking.” と言えば、「ある特定の場面で1本のタバコを吸わないことにした」という意味ではありません。「タバコは二度と吸わない(=禁煙する)つもりだ」という意味です。同じように例文①は「映画を二度と観に行かないと決心したことを示しているのです。また、いつ決心したかを言いたいのでなければ、I have given up going to the movies. と、現在完了時制でこの考えを表す方がずっと自然でしょう。

 要するに、give up できるのは、すでにやっていること、あるいはすでに持っているものだけなのです。もし、すでに映画館の中で座っている場合なら、もちろんgive up watching the movie (映画を観るのをやめる)ができます(退屈だから)。Going to the movies (映画に行くこと)や、smoking (喫煙)、teaching (教えること)、jogging(ジョギング)などが、習慣的に、もしくは職業としてやっている行為である場合も、やはりgive up することができます。仕事をすでに持っていると仮定すればgive up your job (仕事を辞める)ができるのと、まったく同じ理由です。それに対して、「今晩映画でも観に行こうかと家の中で考えている」だけでは、give up going することはできません。しかし、the idea of going to the movies (映画に行くという思いつき)は、give up することができます。思いつきは、あなたがすでに持っているものだからです。例えば、誰かとの結婚を考えていたけれども、彼/彼女が実際にはふさわしい相手ではない、と判断した場合は、I have given up marrying him/her.ではなく、I have given up the idea of marrying him/her.と言うべきです。やろうと考えてきた行動を進めないことにすると言いたい場合、the idea of ~ing(~をするという考え・思いつき)は、おそらくgive up と共起して最も広く使われるパターンでしょう。これで「give up=あきらめる」といった一対一対応の丸暗記がいかに危険なものかがお分かりいただけたでしょう。♥♥♥

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