「パンティストッキング」は女性用の素足の上から履き、つま先から腰まで一体型の薄手のストッキングのことです。『読売新聞』2015年5月29日付けの記事、五十嵐 文「とらべる英会話」の中に次のような記述がありました。「日本で主流の、腰までつながったタイプはpanty stockings ではなく、pantyhoseと呼ばれることが多い。」 この記述をみなさんはどう読み解きますか?
参考書や辞典類の中には「panty stockingは和製英語」と安易に決めつけているものもあります。例えば『ウィズダム英和辞典』(第3版、2013年)では、「×panty stockingsとしない」と出ています。私たちの『ライトハウス英和』(第3版、1996年)においては、私は「panty stocking とは普通はいわない」という語法注記を入れました。その後、「日英比較 英語では「パンティーストッキング」とはあまり言わない」と引き継がれました(現在はスペース節約のために削除されています)。この両者の記述のニュアンスの差はいったいどういうことなのでしょうか。
結論的に言うと、panty stockingは決して「和製英語」ではありません。OED New Supplementにも出ているれっきとした正真正銘の正しい英語です。古くは、メリアム・ウェブスター社の12,000 Words(1986)にも見出し語として堂々と登場しています。和製英語のすぐれた研究書である『和製英語事典』(丸善出版、2014年)は、さすがに(この事典オススメします)、△「通じる場合もある」として「一体型のパンストのことだと分かる人もいるでしょう」と述べています。しかしながら、たとえOEDに記載があったとしても、「英語として存在したことがある≠今自然に使われる」なのです。20世紀中頃stockings→pantyhoseへ移行する途中で説明的に使われた複合語で、特に広告文・技術的説明・ファッション史・辞書的文脈で見られました。
私の調査の概要をお伝えしましょう。私たちの編集顧問の故・ボリンジャー博士に確認をとったところ、わざわざデパートの下着売り場(Neiman-MarcusとEmporium Capwell)に電話して担当者に尋ねてくださり、「誰も聞いたことのない表現」ということでした。しかしその後「広告では使われる可能性がある」というある先生の指摘を受けて、アメリカのメリアム・ウェブスター社(Merriam Webster)へ問い合わせたところ、同社の1400万枚の用例ファイルにあたっていただき「panty stockingsと常に複数形で広告などに使われることがある」とのことでした(1989年9月7日私信)。そこで再度、ボリンジャー博士のお手を煩わせて調べていただきました。デパートの下着売り場、下着専門店、新聞記者等にあたっていただいた結果、やはり普通に聞かれる英語ではないことが判明しました。イギリスのイルソン博士も聞いたことがないとの回答でした。私の尋ねた多くのALTも「聞いたこともなければ使ったこともない」という反応でした。ChatGPTによれば、「古い」「説明っぽい」「カタカナ英語」「不自然」「違和感が高い」に感じるといいます。やはりpantyhose/ tightsが普通で、自然に通じる英語です。
イギリスの大言語学者であったR.Quirkも”No one in UK knows or would use panty stocking(s).”、文法学者M.Swanも”I’ve never heard it.”、辞書編集者J.Whitcutは、”I have never heard of PANTY STOCKINGS, and the word is not shown in any of my dictionaries; but our secretary says it means ‘tights with a reinforced top’, so the word is used in Britain. We say tights, but I believe Americans prefer pantyhose or panty hose.”(以上『現代英語教育』1984年3月号の土屋裕樹氏の調査)
女性の足元のおしゃれ事情は、時代とともに移り変わってきており、時に「オフィスで生足はOKか」「ストッキングをはくのがマナー」といった議論が起きます。時代によって変わるとはいえ、それでも職場ではパンストをはく女性は多いようです。この「パンスト」は、英語の“panty stocking”の略語だと思っている人がほとんどだと思いますが、アメリカなどを旅行中、ドレスアップしてディナーを楽しもうと衣料品店に入り「“panty stocking”をください」と言っても、おそらく店員には通じないでしょう。“stocking”は,ストッキングや長靴下を表しますが、これは“panty”とは合体しない言葉なのです。pantyとstockingsは別々の概念なので、英語ではこの2語を組み合わせて使う慣習はないのです。「パンテイストッキング」にあたる言葉は別にあり、“pantyhose”です。“hose”もまた、長靴下やストッキングという意味があります。なんだかまぎらわしくて、混乱するのも無理はありませんね。一方のイギリス英語ではシンプルに“tights”です。日本では冬にはく厚手のものをタイツ、薄手はストッキングと言いますが、そんな区別をせずに「タイツ」でOKです。以上は、『読み出したら止まらない!英語 おもしろ雑学』(知的生きかた文庫、2019年)からの引用です。
まとめておきましょう。
pantyhose 日本語の「パンスト」に一番近い腰まで一体型の薄手のストッキング:
She's wearing pantyhose.
stockings 太ももまでで止まるタイプで、ガーターで留めることが多い:She
bought a pair of stockings.
tights パンストより厚手で秋冬用・ファッション用:Black tights are
popular in winter.
以上のことから、「和製英語ではないけれど、普通に使われる英語ではない」というのが現代英語の実態ということになるでしょう。『ライトハウス英和』(研究社)の注記は、このような調査を踏まえて書かれたものなんです。何気ない記述の背後には、膨大な調査が控えているということがお分かりいただけたことと思います。♥♥♥
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