run in the family

 2009年のセンター本試験の筆記の第2問Aの問10に、次のような選択問題が出題されました。正答率は滅茶苦茶低く、先生方の中にもご存じない方も結構おられました。

問10  “You never seem to gain weight! How do you stay so slim?”
“Just lucky, I guess. It (     ) in the family.”
comes   ② goes   ③ runs   ④ works

(訳)「あなたは全然太らないようですね。どうやってそんなにほっそりした体型を維持しているのですか?」―「たぶん、運がいいだけでしょう。家系がそうなんです」

 私は学生時代にアメリカの“Ann Landers”の悩み相談コラムを毎日読んでいて、しょっちゅうこの表現を見ていました。もちろん、③のrunsが正解です。run in the family は、文字どおりには「家族の中を走る」ですが、ここでの run は「走る」ではなく、「(特徴・性質などが)ある範囲に広がっている、代々続いている」という意味です。「家族の中を走る」→「家族に共通している」という風に考えると分かりやすいでしょう。たとえば、Diabetes runs in my family.(糖尿病は私の家系にあります)という言い方をします。ここで run は、血液や水などが「流れる」というイメージに近いものです。

Water runs through the pipe.→ 水がパイプの中を流れる

A river runs through the valley.→ 川が谷を流れている

This trait runs in the family.→ この特徴が家族の中に受け継がれている

つまり、ある性質が家系の中を「流れるように」代々伝わっているというイメージです。

 重要なのは、run in the family は必ずしも「遺伝する」という意味だけではないことです。たとえば、Musical talent runs in the family.(音楽の才能はその家系に受け継がれている)。これは遺伝的な才能とも考えられますが、親が音楽好きで子供も音楽を習う、という環境による継承の場合にも使えます。同様に、

A bad temper runs in the family.→短気なのはあの家系の特徴だ。

などとも言えます。したがって、日本語では文脈に応じて、次のように訳し分けるのが自然です。

run in the family
→「家系に代々見られる」
→「家族に共通している」
→「家系的に受け継がれている」
→「遺伝する」

 英語では昔から、血・性質・特徴などが人から人へ「流れる」という発想があります。そのため、It runs in his blood.それは彼の血に流れている)という表現もあります。また、It runs in the family.なら、

「それは家族の中を流れている」
→「その家系に代々見られる」
→「遺伝的に受け継がれている」

という意味になった、と考えると非常に分かりやすいでしょう。ちなみに run in the family は現在でもごく普通に使われる表現です。古臭いイディオムではありません。

 なお、run in the familybe hereditary(遺伝性である)には微妙な違いがあるので、そこも比較すると英語の感覚がよく分かります。run in the family は、基本的に「家族・家系の何人かに同じ特徴が見られる」という表現です。必ずしも「遺伝子によって受け継がれた」という意味ではありません。例えば、Musical talent runs in my family.(私の家系は音楽の才能に恵まれている)これは「音楽の才能が遺伝している」とも考えられますが、親が音楽好きで、子供も音楽を習っているという可能性もあります。つまり、

run in the family = 家系に共通して見られる という、かなり幅の広い表現です。

 一方、hereditary はもっと科学的・医学的な言葉です。

a hereditary disease(遺伝性疾患)

The condition is hereditary.(その病気は遺伝性です)

ここでは「遺伝によって受け継がれる」という意味が中心です。したがって、

Diabetes runs in my family.

なら、「私の家系には糖尿病になる人が多い」という意味で、必ずしも「糖尿病が遺伝する」と断定しているわけではありません。これに対して、

It is a hereditary disease.

なら、「それは遺伝性の病気だ」と、遺伝的な性質をはっきり述べていることになります。

run in the family の面白いところは、医学的な遺伝だけでなく、性格や癖にも使えることです。たとえば、

A good sense of humor runs in the family.(ユーモアのセンスは家系に共通している)

Being stubborn runs in the family.(頑固なのは家系の特徴だ)

He has a temper. It runs in the family.(彼は短気なんだ。家系的にそうなんだよ)

この場合、「頑固さ」や「短気」が遺伝子によって遺伝する、と科学的に主張しているわけではありません。「親もそうだし、子供もそうだ。どうもこの家系はそういう傾向がある」という、ややくだけた言い方なのです。

ここでの run は、英語の非常に面白い用法です。

 「run = 走る」だけではありません。

Blood runs through his veins.
血が彼の血管を流れている。

The river runs through the town.
川が町を流れている。

A tradition runs in the family.
ある伝統がその家系に受け継がれている。

Diabetes runs in the family.
糖尿病がその家系に多く見られる。

つまり、「あるものが一つの場所から別の場所へ流れていく」→「ある特徴が人から人へ受け継がれていく」という意味の広がりです。このため run in the family は、直訳的な「家族の中を走る」から考えるより、「家系の中を流れている」とイメージすると非常に覚えやすい表現です。

  辞典を見ると、runには数多くの意味が見られます。「走る」よりも「流れる・動き続ける」と捉えるといいと思います。そうすると、

run の用法 共通するイメージ
run fast 速く走る 人が動き続ける
water runs 水が流れる 水が流れ続ける
engine runs エンジンが動く 機械が動き続ける
time runs 時間が進む 時間が進み続ける
road runs along the coast 道路が海岸沿いに延びる 道路が伸び続ける
run a business 経営する 事業を動かし続ける
run a program プログラムを実行する プログラムを動かす
run for president 大統領選に出馬する 選挙という競争に参加する
meeting runs for two hours 会議が2時間続く 会議が続く
run out of money お金を使い果たす お金が流れ出てなくなる

というように、かなり多くの用法が一つにつながってきます。そしてもう一つの重要な感覚で、run には、「ある状態・場所から別の状態・場所へ、連続的に移っていく」という感覚もあります。そのため、

run → 流れる → 広がる → 続く → 運営する → 実行する

という意味のネットワークが形成されています。「run=走る」「run=経営する」「run=流れる」と別々の単語として覚える必要はない、というのが多義語のポイントです。バラバラに暗記するのではなく、共通するコアを押さえることで理解が深まるのです。またrunには「(ストッキングの)伝線」という意味もあるのですが、このことも説明がつきますね。❤❤❤

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