3分、3日、3年

 東日本大震災のとき、各社がテレビCMを自粛していたときに、いち早く「ショウ~シュウ~リキ~」と、ミゲル君が歌い上げるCMを流したエステーという会社が印象に残っています。啓発広告のお知らせばかりが流れるなか、少しは空気を明るくしようと、社長の鈴木 喬(たかし)さんが独断で放送を決めたそうです。みなさんはあのCMの撮影が、リスボンで行われたことをご存じですか?リスボンはかつて大地震に伴う大津波に襲われたことがあって、市民の3分の1が亡くなる大惨事を経験した町です。でも見事な復興を遂げました。このリスボンから、地震で亡くなった方々へ鎮魂歌を送り、日本人みんなにエールを送ろうとしたのが、あのCMでした。「商売のことは忘れろ。いいな、とにかく心を込めるんだ」と、鈴木社長が指示を出したそうです。

 日本生命の営業マンから、兄が社長のエステー化学工業(現エステー)に移籍したのが51歳のとき。移った会社の居心地は最悪。思ったことは何でもズケズケと言ってしまう性分もあって、まわりからすっかり浮き上がってしまう。冷や飯食いの境遇から12年後の1998年社長になることが決まったときは、会社の誰も信じなかったと言います。会社の業績が悪化して火だるま状態だったために、社長のイスが回ってきたのです。「当時は、ウチだけじゃなく、ほとんどの人が、バブルの再来を信じていました。もう少し待てばまた景気はよくなるってね。でもボクは違う空気を感じていた。このまま同じやり方を続けていれば、奈落の底へ転落してしまう。だが、回りは全員が敵。ボクは最初からケンカを売ることにしました」 社長就任演説は社員を驚かせ、あきれさせ、恐怖を感じさせました。役員の半減、商品・工場の削減(860あった商品を280に、5つあった工場を3つに)、不良資産の売却など大リストラ案をぶち上げた揚げ句、「オレの目にかなわないヤツはたたき殺してやる!」とタンカを切ったのです。

 ボクは昔から口ゲンカには負けたことがない。『まわりが全部敵』の状況では、相手に考えたり、団結するスキを与えず、先手必勝で最初にガツンとやることが大事です。『3分』で言いたいことを全部言い、『3日』ですべて着手する。そして『3年』で全部仕上げるんですよ。

 幸いこのばくちは当たり、「消臭ポット」が売れに売れ、ヒット商品を連発して、DSCN2300会社は立ち直ります。「社長は高く旗を掲げろ」「社長はバカになって本気を伝えろ」「経営は歴史に学べ」「運と勘と度胸を磨け」「社長は綺麗事を言うな」「まず、怖れられろ。慕われるのは、その後だ」「数字から現実をつかみ出せ」「社長は群れるな、逆を行け」「変わり続けなければ、生き残れない」など、名言の数々が見られます。詳しくは新著鈴木 喬『社長は少しバカがいい。』(WAVE出版)をお読み下さい。

 大震災の際にはエステーは「エアーカウンター」という放射線の線量計を廉価で発売しています。社内でも大反対、実際に発売したものの大赤字。でも鈴木社長は「日本のためだ、文句があるか?」と反論します。いいですね、この社長さん。

 確かに、エアカウンターを売り出すというのは、経営者としてはバカかもしれん。しかし、僕はヘマなどは打ってはいない。日本の一大事に算盤玉カチャカチャやっててどうする。僕は経営者である前に、日本人だ。社員だってそうだ。日本の皆さんが困っているときに、お役に立とうとするのが当たり前だ。ちょっと損をしたくらいで俯くことはない。「ハハハ」と笑って、上を向いて歩けばいい。

 最近、八幡家の玄関先には、エステーの「ソラフラワー」というバラの花形・濃密アロマの芳香剤が飾られていて、いい匂いをさせています。

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