Cool head, warm heart

nurse,avatar 今からもう10年以上も前のことになります。勤務していた学校の受験面接指導で、進路部長として面接練習にあたっていたときの話です。看護系大学志望の女生徒が「どんな看護師になりたいですか?」という私の質問に対して、およそ次のようなことを答えました。

「ハイ、本で読んだのですが、私はWarm heart, cool head.な看護師を目指したいと思います。患者さんの痛みや苦しみに常に寄り添い、患者さんの気持ちになって考え、温かく包み込んであげられる包容力を持ち、患者さんに信頼される優しさのある温かい心。そしてどんな時にも冷静沈着で、落ち着いて対処できる技術を持った看護師。そのためにも貴学で最新の技術を学びたいと考えます」

 見事でした。他の質問にもすべて、こんなふうに分かりやすく、それでいて勉強ぶりが窺える回答をしてくれ、強い印象を残しました。受験する前から、私は合格を確信していましたね。当時、面接の練習は、担任⇒進路部長⇒校長・教頭というシステムを確立して、三人の違う観点からそれぞれの指導を入れて、さらに良いものにしていくという体制で臨んでいました。大人数を面倒を見なければならず大変だったのを覚えていますが、合格者数が飛躍的に伸びたのは「組織」で挑んだからだと思っています。生徒も一生懸命で、市役所に出かけて行って、担当者に高齢者の実態を伺ってそれを模造紙で資料にまとめ、私の指さし棒を借りに来て、それを持って本番当日プレゼンをやった生徒もいました。小さい頃からお父さんの環境調査に同行して、具体的な問題点を肌で感じていた生徒は、その体験を活かした見事な小論文で慶應大学SFCに合格しました。最近の生徒では、このような心を揺さぶる受け答えに出会っていないのが残念です。「どんな医者になりたいですか?」「ハイ、患者さんの役に立つ医者になりたいです」「……」

 最近、上阪 徹『成功者3000人の言葉』(飛鳥新社, 2013年)を読んでいて、上の女生徒の引用した言葉が、経済学者ケインズの師匠アルフレッド・マーシャルCool Head,but Warm Heart. (冷静な頭脳を持つ一方で、暖かい心を持とう)が出典であることを知りました。マーシャルは、ロンドンの貧民街にケンブリッジの学生たちを連れて行き、こう言ったそうです「経済学を学ぶには、理論的に物事を解明する冷静な頭脳を必要とする一方、階級社会の底辺に位置する人々の生活を何とかしたいという温かい心が必要だ。」学問を究めるにしても、仕事を極めるにしても、冷静な頭脳は欠かせません。でもそれ以上に大切なものが人間性です。特にリーダーの立場の人間には、より一層の常識、正義感、道徳、そして温かい心が備わっていなければなりません。どちらか片一方ではない、この両方を備えることが大切なんですね。アルフレッド・マーシャルは、1885年のケンブリッジ大学経済学教授就任講演「経済学の現状」でこの言葉を述べます。マーシャルの愛弟子で、やがて師と袂を分かち「ケインズ経済学」を打ち立てたジョン・メイナード・ケインズが、後年、著した『人物評伝』のマーシャルの章で、この言葉を紹介したため、広く知られることとなりました。マーシャルは、その講演を「cool head(冷静な頭)とwarm heart(温かい心)を持ち、最高の能力を以て社会的課題に立ち向かい、力の限り努力を惜しまない経済学の徒を、一人でも多く育てることが私の念願」と結んだそうです。女生徒の昔の印象深い言葉で、思わぬ勉強をさせてもらいました。

▲島根県立大学モニュメント

▲島根県立大学モニュメント

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