水戸岡鋭治~逆転の発想術

 私は九州のJR特急列車に乗るのが大好きです。こちらの地方の特急とは雲泥の差で、デIMG (6)ザインも素敵だし、何よりも乗り心地がいい。その中でも一番のお気に入りが、博多駅と長崎駅を2時間で結んでいる特急「かもめ」(885系)です。通勤電車としても利用されているこの電車は、効率だけではない鉄道の楽しさや、快適さをいかに追求できるかをコンセプトに、デザイナー水戸岡鋭治さんが作り上げた特急列車です。そう、今話題のあの豪華列車「ななつ星」をデザインした方です。水戸岡さんのデザイン哲学については、以前コチラで取り上げました。「ななつ星」は、私も退職したら、絶対に乗ってみたいクルーズ・トレインです。

 初めて「かもめ」に乗ったときには、まず、まばゆいくらいの白のボディに引きつけられました。水戸岡さんの『電車をデザインする仕事』(日本能率協会マネジメントセンター、2013年)によれば、セラミック形ハイブリッド塗料の「N9.5レベル」という、塗料の中でも最高レベルのこれ以上ないほどの「純白」を採用しているそうです。一般の新幹線がN8.5~9.0ですから、その純白度は際立っていますね。しかし綺麗な反面、そのメンテナンスは大変です。通常の車体であれば、二日に一度洗浄するところを、「かもめ」は毎日洗浄しなければいけません。当然、現場からは反対されたそうです。「車両の白さを維持することが、JR九州のスタッフの誇りとなる。そしてそんな会社にお客様は夢や企業努力を感じてくれる。さらにメンテナンスのレベルアップにもつながる。私はそう伝え、現場に納得してもらってきました。」(THE 21』6月号インタビュー(PHP)) 白は国鉄時代からタブー色とされてきました。蒸気機関車が走っていた時代に、石炭の「すす」で車体が黒く汚れてしまうために、車両デザインで明るい色合いが用いられることはなかったからです。その影響でJRでも長い間「白」を使うことを極端に嫌っていました。水戸岡さんはそのタブーをあえて逆手にとって、挑戦をしました。「そして実際、お客様からは『白い車体がきれいだね』という言葉を多くいただいたそうです。そう言われたらもう、きれいにし続けるしかないですよね。このように、高いハ-ドルがあるからこそ、人は一層努力できるのです。」と水戸岡さん。

かもめギャラリー 乗降口のドアの横に配された、ピンクやブルーのライトに迎えられ、心地よく第一歩を踏み入れました。またデッキには自然で心地の良い木材を壁や床に使用して「おもてなし」の応接スタイルを取り入れています。これを演出しているのが墨書」を楽しめるギャラリースペースです。初めて乗ってこれを見た時の驚きと感動は忘れることができません。島原の子守歌や名産、祭り、歴史的な言葉など、豪快でいてかつ趣のある作品を車内に見ることができます。思わず写真に撮ったものです。後にこれが、四宮佑次氏の書であることを知ります。

 かもめまた、全席に採用された、牛の本革張りの座席シートにもたまげました。グリーン車でもないのに上質な本革シートと天然木の肘掛けやテーブルが、まるで社長席にでも座っているような気分に浸らせてくれます。ドイツの高級椅子メーかもめグリーン車カーから着想を得た、と聞きました。そのゆったり感が通勤客だけでなく、私たち旅人を満足させてくれます。「どうして、そんなに贅沢をするのか。」と言う人も多いようですが、実はこれまでの車両の製造費とそんなに差はないそうです。牛の革は一頭単位で取引されています。買った革を何パーセント使うかで値段は変わってきます。傷のないところだけ使おうとすると、一頭の半分は捨てることになります。「かもめ」の座席では、傷もOK。少しくらい傷がついていてもいいではないか、捨てずになるべく端まで使ったそうです。多少の不揃いがあるのはそんなわけです。このDSCN3915ことは、水戸岡さんが最近子ども向けに書かれた『ぼくは「つばめ」のデザイナー』(講談社青い鳥文庫、2014年)で知りました。こんな高級な座席を「心ない乗客に傷つけられたらどうしよう」という心配をする人もいました。デザインが一定以上のレベルに達すると、乗っている人にも一種の心地よい緊張感が生まれるのです。逆に、車両がしっかりしていないと、乗客のモラルも低下する、と水戸岡さんは考えます。全くの杞憂でした。

 上の写真からも分かると思いますが、荷物棚は飛行機のような美しさで、車内のすっきりと広々とした印象に貢献しています。

 どうです、乗ってみたくなったでしょ。

 

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