near miss

 もうずいぶん前のことになりますが、1987年8月21日付けの『朝日新聞』の「ニュース三面鏡」に次のような記事が出たとき、私はビックリ仰天しました。

 ニアミスという言葉は、実は和製英語である。岩手県・雫石上空で46年7月、162人が犠牲になった全日空機と自衛隊機び空中衝突によって生まれたとされる。その大惨事以来、毎年、民間航空を相手に働く管制官を対象にニアミスやそれに類似した危険現象のアンケート調査を続けている全運輸省労組(天野和治委員長)は、その結果を踏まえて強調する。「軍用機パイロットの安全感覚のずれが事故やニアミスを多発させているといっても過言ではない」(下線部八幡)

 「ニアミス」和製英語だって?!そんなバカな!私は当時、USA TodayLos Angeles Timesをアメリカから直接購読していましたが(ものすごくお金がかかりました!)、よく見かける英語でした。この記事を目にしたのをきっかけに、近くの英米人にもチェックしましたが、全員がちゃんとした英語であるとの反応でした。たまたま勤務校に留学生として在籍していた女生徒(ミネソタ州出身)も同様の反応でした。ALT(オーストラリア大学教師)は「きちんとした英語であるが、near collisionのほうが自分としてはよく使われると思う」と述べました。手元の英語辞典にも出ていましたし、当時新刊だったCOBUILDにも見出し語として収録してあり、“Most aircraft accidents or near misses are caused by pilot error.”という用例がはっきりと載っておりました。故・ボリンジャー博士(Dwight Bolinger)にも確認してもらいましたが、“colloquial”な表現とのことでした。また実は、この記事の出るちょうど一週間ほど前に、カリフォルニア州サンタバーバラで、当時のレーガン大統領が乗ったヘリコプターが小型機と「ニアミス」事件を起こしていまして、その模様を伝えるのに、米国各紙がこぞって見出しに挙げていたのが、“REAGAN NEAR MISS ACCENTS CONCERN”  “51 Near-Misses of Aircraft Over L.A. in Year Set Mark” “ YEAR : Record 51 Near-Misses of Aircraft Over Basin Reported” “Near-Miss for Reagan in Copter”    ”Near Miss Over the Reagan Ranch”  “The Near Miss : Sequence of Events”  “Pilot in a Near Miss With Reagan Identified as AWOL Army Private”でした。米連邦航空局の定義では、「半径150m・高度差60m以内」の接近を言うようです。この事件を伝えるのに米紙が用いていた表現は、このnear missnear collisionでした:“Reagan copter in near collision

 当時面白かったのは、朝日新聞』が、しっかりと確認もせずに、あのようなデタラメ記事を書いておきながら、同系列の英字新聞Asahi Evening Newsは、このレーガン大統領の事件を伝える記事において、ちゃんと“White House Downplays Security Fears After Helicopter Near Miss”(8月15日付)と見出しに用いており、数日前の同紙にも、“ANA Plane, MSD Jet in Near Miss”(8月12日)、数日後も“Have Near Miss Over Hokkaido”(8月20日付)を使っており、不統一を見せたのでした。同じ社内でも足並みが完全に乱れを見せたのでした。セクションが違えば、意思統一ができなくなるというのは、こんな所にも垣間見ることができます。

 私は若い頃から、このようなマスコミのひどさをずいぶんと体験したので、一紙だけに頼るのではなく、同じ記事でも新聞を複数でチェックすることの大切さを学びました。私が多くの新聞を購読しているのは、そういう訳なんです。新聞のみならず、本や参考書・辞典に書いてあることでも、オカシナことはいっぱいあります。絶えずアンテナを張り巡らせながら、客観的に、批判的に物事を捉えることが重要です。私は今まで、そうやって仕事をしてきました。♠♠♠

【追記】 このような「和製英語」の判定にはやっかいなものも数多くあります。例えば、多くの文献が「パンティストッキング」(panty stocking)「和製英語」と断じていますが、私の詳細な調査によれば、決して「和製英語」ではありません。れっきとした英語です。詳細は⇒コチラをご覧ください     この問題に関しては一つの頼りになる正確な資料として、亀田尚己・青柳由紀江・J.M.クリスチャンセン『和製和製英語事典』(丸善、2014年、3990円)があります。この辞典は手元に置いて参照する価値のある労作ですよ。〇△×で各項目の判定が載っています。

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