social distance?

 コロナ禍でよく耳にするsocial distanceという言葉の使い方には、注意しておく必要があります。そもそもsocial distance(社会的距離)は、社会学において、「社会的に距離を置くこと」で、特定の人や信条などを排除するイメージです。人が社会の中で、人種や性別、階級などの異なるグループの人たちに対して距離を感じることを言う言葉です。

 それに対して、他人とある程度一定の距離を保ちましょう、という意味でのsocial distance「動詞であり、「物理的な距離をおく」ことです(2m?)。これを「名詞」で使う場合にはingをつけて動名詞にしてsocial distancingと言わなければいけません。WHOでは、より明確に「物理的な距離を置くだけだよ」と示すために、physical distancingと表現していますね。⇒両者の微妙な差に関してはコチラの記事を参考にしてください。小池都知事を始め、マスメディアではごちゃまぜにしてしまっていますが、social distancesocial distancingは、明確に区別しなければいけません。

social distance差別や偏見などにより、特定の人物やグループを排除すること。
また、社会的・心理的に、その人たちとの接触を回避すること。

social distancing疫病の感染拡大を防ぐために、意図的に人との物理的距離を保つこと。

social distanceは社会学で使われる用語で、どちらかというと『心の距離』のニュアンスが大きくなります。social distancingは公衆衛生戦略で使われる言葉で、いわゆる「●メートル離れる」という物理的な距離のお話です。つまり、感染対策を表すワードは、正しくは「ソーシャルディスタンス」ではなく「ソーシャル・ディスタンシング」の方だったんですね。次のように使います。

Social distancing is one of the measures to avoid spreading illness.
(ソーシャルディスタンスは病気の感染拡大を避けるための方法の一つである)

Social distancing is deliberately increasing the physical space between people.
(ソーシャルディスタンスは故意に他人との間の物理的距離を広くすることである)

Social distancing is important because coronavirus spreads when an infected person coughs small droplets into the air.
(ソーシャルディスタンスは重要である、なぜなら感染者が咳をして飛沫を空気中に振りまくことで感染が広がるためだから)

 「フィジカル・ディスタンシング」という言葉は、WHO 世界保健機関 の公式サイトにおいて、「physical distancing」というワードを使っています。

Physical distancing helps limit the spread of COVID-19 – this means we keep a distance of at least 1m from each other and avoid spending time in crowded places or in groups. 身体的な距離は、COVID-19の蔓延を防止するのに役立ちます。つまり、互いに少なくとも1メートルの距離を保ち、混雑した場所やグループで過ごすことを避ける。

 どうしてsocialphysicalになったのか?それは、socialという言葉に「社会的な」という意味があるためです。social distanceというと社会的関係において距離を置く、というふうにも捉えることができるのですね。人間関係そのものを断ち切ってしまうような感じがあります。でも、実際にはそういうことを推奨しているわけではありません。あくまでも感染予防対策として、物理的に人との距離を開けましょうということなので、social distanceに代わって使用されるようになったのがphysical distanceというわけです。そのジレンマからか、「social and physical distancing」という表現をする人もいます。

    ディスタンスには、みなさんご存知の通り「距離」という意味がありますね。

distance:(名詞)距離、隔たり  (動詞)距離をとる

一方、ディスタンシングは「distance」に「ing」がつくことで動名詞になっています。

distancing:(動名詞)距離をとること

日常生活の中で、人との身体的距離をとるということは、自分から距離をとる、あるいはお互いに離れるということですよね。なので、表現に「動作」のニュアンスが必要になります。意味的には、動詞のdistance(距離をとる)なのですが、これを名詞としてつかうために「ing」をつけて動名詞にしているということです。distanceを名詞としてそのまま使うと、動きのニュアンスが出ないので、social distance=社会的な隔たり という意味合いになってしまうんです。そうはいっても、physical distance(物理的距離)だと、「他人との間に数メートルの距離を開ける」という狭義の意味としてとらえがちです。social distanceに含まれるアイデアそのものは、単に物理的距離を置くだけでなく、たとえば以下のような行為も、social distancingのうちに含まれるのです。

・avoid crowded places and gatherings(人込みや集会を避ける)

・greet with a wave instead of a handshake, a kiss or a hug(キスやハグ、握手の代わりに手を振ってあいさつする)

・stay at home as much as possible(できるだけ家に留まる)

・grocery shop only once per week(食料品の買い物は週に一回とする)

・avoid non-essential use of public transport(不必要に公共交通機関を使わない)

・take public transportation during off-peak hours when necessary(必要な場合はピーク時を避けて公共交通機関を利用する)

・cancel or postpone conferences and large meetings(会議や大きな集まりをキャンセル、あるいは延期する)

・conduct virtual meetings(バーチャルミーティングを行う)

・use technology to keep in touch with friends and family(友人や家族との連絡はテクノロジーを使って行う=ネット上で行う)

・use food delivery services or online shopping(食料品の配達を含めオンラインショッピングを利用する)

・exercise at home or outside(自宅あるいは戸外でエクササイズを行う)

・work from home instead of at the office(オフィスではなく自宅から仕事をする)

 ここまで述べてきたら、下のような「Keep Social Distance」という英語表示がまずい、ということがお分かりいただけるかと思います。♥♥♥ 

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