in factは「実は」か?

 英語で「分かってないなあ~」と思う事項が山のようにあるのですが、その中でも最もひどいのが、長文に頻出する成句in factの使い方です。模試でも長文問題集でも、その多くが、in factを、何でもかんでも「実は」とか、「実際(は)」と訳してごまかして終わりです。教員の中にも、「実は」と片付けて、何の問題意識も持たない人が多くいます。模試や問題集にもよく出てくる頻出表現ですが、模試の「解答・解説」を見ると、決まって「実は」「実際(は)」でごまかしています。最近受験した「進研マーク模試」「進駿記述模試」の読解問題にも、何度もin factが出てきましたが、どちらもごまかしていました。先日の「全統マーク模試」だけは、「いやそれどころか」と正しく文脈を捉えており、見直しました。 困ったことには、「実は」「実際」と訳しても何となく通じてしまうように思え、それ以上考えることをしなくなることでしょう。前の文と次の文とのつながりは完全に無視されてしまいます。実にひどい熟語集になると、次のような用例を出して終わりです。これでは、高校現場で、生徒たちが何でもかんでも、「実は、実際」と片付けてしまうのも無理はありませんね。

In fact, my parents are against my part-time job. 実は、両親は私のアルバイトに反対している。  ―木村達哉『新ユメジュク』(アルク)

 実は(?)〔笑〕、私も高校時代に、英語の先生からそのように習ったのですが、大学時代にありとあらゆる新聞・雑誌・小説をむさぼり読む中で、これはちょっとオカシイぞ、と気づきました。以来、ずっと用例を集める中で(八幡の用例キャビネットには数百枚のin factの用例の証拠があります)、明らかに間違っている、という認識を抱くようになりました。上の用例のどこがまずいかと言うと、(1)in factがどのような文脈で使われるかが全く分からないこと、(2)前文とのつながり(文脈)を考えると、「実は」はあり得ないこと、の二点です。ところが、日本語の「実は」でも、一応意味は通じてしまうところが、この問題を根深いものにしています。しかし、二つの文のつながりは、見事に見落とされてしまっているのです。日本語の「実は」の意味は、「めんどうな説明を省いて内情(事実)を端的に言うならば」(『新明解国語辞典』第8版)ということです。英語学習辞典では、この句の意味を、(a) used when you are adding something, especially something surprising, to emphasize what you have just said    (b) used to emphasize that the truth about a situation is the opposite of what has been mentioned [LDOCE]と説明しています。

 二つの文章のつながりを、次の英米の学習辞典の用例で確認しておきましょう。

I thought the work would be difficult. In actual fact, it’s very easy. [OALD]→(b)

I know the mayor really well. In fact, I had dinner with her last week. [LDOCE] →(a)

They told me it would be cheap, but in fact it cost me nearly $500. [LDOCE]→ (b)

I don’t work. In fact, I’ve never had a job. [CALD] →(b)

I haven’t seen him for years. In fact I can’t even remember what he looks like. [MED] →(a)

I know her really well. In fact, I had dinner with her last week. [LAED]→ (a)

That sounds rather simple, but in fact it’s very difficult. [CAAED] →(b)

They know each other; in fact they’re close friends. [MWALED] →(a)

 前の文と後ろの文がどのような関係でつながっているのかを考えれば、「実は」では説明できないことが、一目瞭然お分かりいただけるでしょう。最近では、学習英和辞典でもこのことに注目して、正確な訳語を与えているものもあります。私は現場での注意喚起をするために、最新の『直前演習2023共通テスト 英語(リーディング)』(ラーンズ)別冊付録「攻略BOOK―Score Up & Check―」に、このin factのコラム記事を書き、解説しておきましたのでお読み下さい(写真下)。「もっとはっきり言えば」「いやそれどころか」「ところが実際には」といった訳語が指導されないといけません(「実は」という意味になるのはどういうときか?に加えて)。ここで取り上げたもう一つのafter allも、現場で広く誤解されている表現です(何でもかんでも「結局」としてしまいます)。⇒私の解説「after allは「結局」ではない!」コチラです

 このような、高校現場で見逃されてしまっている大きな誤りを一つ一つ取り上げて、私なりの解説を加えたものが、『高校通信東書英語』No.124~No.134(東京書籍、1983~1984年)に連載した八幡成人「英和辞典のウソ(1)~(9)」と、『現代英語教育』4月号~3 月号(研究社、1990~1991年)に連載した「ボリンジャー博士の語法診断(1)~(12)」でした。ここに取り上げた事項は今でも十分に通用します。懐かしい思い出です!♥♥♥

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