箸よく盤水を回す

 「箸よく盤水を回す」(はしよくばんすいをまわす)という言葉があります。「盤水」というのは、盤(丸い皿、たらい)の中に入った水のことです。例えば、たらいや桶いっぱいに水を汲みます。そのたらいの水の中心を、小さく小さく円を描くように箸一本でくるくると回してみます。しかし、最初のうちは水を切るばかりで箸しか回りません。ただ虚しく水を切るばかりです。ところが、その箸をあきらめずに根気強く回し続けていくと、少しずつ周囲の水が回るようになってきます。さらにあきらめずに回し続けていると、一段と輪が広がり最後は大きな渦となり、その渦に乗りながら、ほとんど力を入れなくても回るようになっていきます。これが、「箸よく盤水を回す」という言葉の意味です。つまり、小さな努力でも根気強くたゆまずに続けると、やがて大きな力になりうる、決してあきらめてはいけない、という喩えですね。

 これは、何かを始めるときや、仕事、会社経営、人間関係、お金、運動、勉強、いろいろな事にも言えることではないでしょうか?最初は誰も振り向いてくれないかもしれません。それでも一生懸命回し続けていると、少しずつ周りに協力者・理解者や仲間が増えていきます。少しずつ、結果も出てきます。さらに一生懸命続けて行くと、大きな渦となり、ずいぶんと大きなことを達成できるほどになります。そうなると、さほど力を入れなくても回るようになるかもしれません。が、箸を抜いた瞬間、渦の勢いは無くなっていき、最後は元に戻ってしまいます。終わらせたくないのであれば、箸を抜いてはいけません。次に箸を回す人がいなければ、絶対に箸を抜いてはいけません。手を抜いてはならない、という教訓です。

 ところで、「盤水を箸で回す」際には、一つだけコツがあるようです。それは最初から盤水全体を大きく回そうとしないことです。始めは箸を盤水の真ん中に立てて、小さな円を描き、徐々にその円を大きくしていかなければ、盤水全体を回すことはかないません(永守重信『運をつかむ』(幻冬舎、2023年))。

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 これまで68社ものM&A(企業の合併買収)を行い、倒産しかかった多くの企業を見事に再生させてきた永守重信(ながもりしげのぶ)さんは(これまでに買収した会社の社員を一人も解雇したことはありません。自分が経営者になったからには、社員の面倒は絶対最後までみると決めておられます)、会社の再生も全く同じことだと言われます。社員以外の膿となっている部分に対しては、大胆で迅速な処方が必要な場合もありますが、再生事業は基本的に根気のいる地道な作業で、小さな努力の積み重ねが欠かせません。業績が落ちてダメになった最も大きな要因ともいえる、その会社の体質の核心部分に箸を立てて、まずは小さな円を描くことから始めるのだ、と言われます。なるほど。 

 「箸よく盤水を回す」、私の大好きな「積小為大」「凡事徹底」「継続は力なり」「小さなことからコツコツと」「微差は大差を生む」といった言葉と相通ずるものがある格言ですね。♥♥♥

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