「先んずれば人を制す」

 かつて日本電産」(現・ニデック)の入社試験で、当日試験会場に早く着いた順番に採用するというユニークな選考をしたことがありました。これは当時の永守重信(ながもりしげのぶ)社長「先んずれば人を制す」という心がけこそが大切である、という信念に基づくものでしたが、起こりうるリスクを回避するためにも重要なことでした。「私は夜二時間遅く仕事をしている人よりも、朝三十分早く会社に来る人を信用する」という話を、永守さんはよくされました。出社時間ぎりぎりに会社に飛び込んでくるようでは、心に余裕を持つことなどできません。もし何か不測の事態があったときに、それでは対応ができないのです。私がいつも約束の時間より早めに行くのも、大きな仕事のときには、前日入りして備えるのも、これと同じ理由からです(かつて名古屋で講演を頼まれていた時に、始発(午前5時)の特急「やくも」が前日の大雨で新見を過ぎたあたりからノロノロ運転を始め、新幹線に間に合わず肝を冷やしました。幸いギリギリ間に合いましたが)。

 永守さんはこんな問答をなさいます。京都から大阪へ電車で行くことを想定します。すぐにやって来るのは各駅に停車する普通電車です。その5分後に、急行が到着します。途中駅で急行が普通電車を追い抜くので、大阪にはこの急行の方が早く着きます。さて、あなたはどちらの電車に乗りますか?おそらくほとんどの人は5分後に到着する急行電車の方に乗ることでしょう。しかし永守さんは先に来る普通電車に乗ります。そして、途中駅で急行に乗り換えます。わざわざ乗り換えるのなら、5分待って急行に乗ればいいではないかと思うでしょう。しかしそうではない、と永守さんは言います。そこに不測の事態に備えるという「リスク回避」の視点が必要となってくるのです。世の中一寸先は闇で、どんな突発的な事故が起こるかもしれません。乗るはずだった急行が時間通りに来るとは限らないし、地震や事故で遅れるかもしれません。たとえ定刻通りに来たとしても、満員で乗車できないこともあるかもしれません。だからこそ目的地に少しでも近づいておくことが大切なのだとおっしゃいます。

 不測の事態に備えること、自分だけは大丈夫だと思わずに、常に「まさか」を想定して手を打っておくことが大切だということを、永守さんは教えておられるのです。以前、経営が傾いてM&Aで日本電産の傘下に入った会社の幹部に、こんな話をされたこともありました。♥♥♥

 ホテルの客室のドアは、最近はほとんどが自動ロックになっているけれども、そのメーカーの人に聞いた話によれば、自動ロックも人が作ったものだから、何百回、何千回に一度くらいの割合でロックがかからないことがあるという。そういう話を聞いて、わずかな確率だから大丈夫だと思って気に留めないような人が一人でもいるなら、この会社は再度倒産するだろう。それならば、これからは必ず気をつけて確認しようと全員が思うなら、必ず再生できるはずだ。

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