「宝島事件」?

 この秋に、私たちの『ライトハウス英和辞典』(研究社)の第7版が発売されます。「共通テスト」対策で揺れる受験生たちに最良の手助けとなる学習辞典を目指しました。かつては5年ごとに改訂していましたが、今回は2012年の第6版から11年もかかりました。

▲私の詳細な検討でオカシナ記述に付箋だらけになった忌まわしい本

 さて、私には忘れることのできない苦い思い出があります。1989年10月『朝日新聞』朝刊の広告に、とてもショッキングな写真が掲載されたんです。私の母はこの広告を見て卒倒しました。私たちの『ライトハウス英和辞典』(研究社)『英和中辞典』(研究社)の表紙と中身がズタズタに破られ引き裂かれた衝撃的なものでした(写真上)。宝島社副島隆彦『欠陥英和辞典の研究』(別冊宝島102)という本の広告です。私たちの辞典の内容を日本でいちばん売れている辞書はダメ辞書だ!」「欠陥だらけのダメ辞書とこきおろし、恥も外聞もないマヌケ集団と罵倒し、沢山のマスコミがこれに便乗して、面白おかしく報道しました。業界でいわゆる「宝島事件」と呼ばれるものです。

▲これも過激極まりない表紙 品性を疑う!

   研究社は、著者の副島隆彦(そえじまたかひこ、当時、代々木ゼミナール講師)氏と宝島社を名誉毀損で告訴しました。「タダの予備校講師・副島隆彦が「天下の研究社」をノックアウト!」として、続編の『英語辞書大論争』(宝島)なる本まで登場し、副題で「『欠陥英和辞典の研究』の批判に耐えきれず、研究社は卑怯にも裁判所へ駆け込んだ。あれからいったいどうなった?と思っていたあなたへ」と茶化しました。今回も悪口雑言だらけのお行儀の悪い本です。私は、このような無責任な批判に徹底的に反論するために、裁判用の資料を作成したものです。面白おかしく報じるマスコミにあおられて、英語教育界が大揺れし、一大論争の末に、1996年2月28日東京地方裁判所は、宝島社に賠償支払いを命じたのでした。宝島側は控訴しましたが、東京高等裁判所は、宝島社の控訴を全面棄却し、損害賠償を命じる一審より厳しい判決が下されました。これがその判決文です。

 「学術上の論争と言えども相当の節度及び公正さが要求されることは論を待たない。(中略)特に辞書においては本両辞典(ライトハウス英和と英和中辞典の2冊を指す)を含めて、通常の場合相当の業績を有する学者が編者となり、多数の執筆者及び校閲者が関与し、何万語の見出し語とそれに対する語義、用法指示、例文など、他の辞書や文献等を参照しながら選別記述した学術的労作である。このような対象を批判するにあたってはその表現方法や表現内容についてもそれなりの節度を要求してしかるべきである。以上のような諸事情を総合考慮すると、編集方針など批判する右部分における本主張の記載は、権威の批判の挑戦として許される過激さ、誇張の域をはるかに超え、前提として指摘する事実の一部に真実であると認められるものはあっても、全体として公正な論評としての域を逸脱するものであると言わざるを得ない。」

 事件に便乗して、あれだけ面白おかしくデタラメ記事を捏造した新聞・週刊誌などは、この裁判結果を一切伝えることはありませんでした。マスコミというものの本質が見えてきますね。当時の切り抜きを読み返してみるに、マスコミのいい加減さと無責任さを、身に染みて実感する貴重な体験でした。最近では、この事件そのものを、また裁判結果をご存じない若い先生方も多くいらっしゃいます。事の顛末はこういうことでした。今その副島なる人物は政治学者に転じています。♥♥♥

カテゴリー: 日々の日記 パーマリンク

コメントを残す