月刊『致知』とさだまさし

 3月4日(月)の『朝日新聞』月刊誌『致知』の全面広告が載り、その表紙が大好きなさだまさしさんでビックリしました。翌3月5日(火)の『読売新聞』『産経新聞』にも同じ広告が掲載されました。そしてその日のうちに雑誌の現物4月号が届けられました。

 1978(昭和53)年、人間学を学ぶ月刊誌『致知』は呱々の声をあげました。高度成長からバブル経済へと、経済大国への道をひた走る当時の日本にあって、人間の生き方を問う硬派な『致知』の内容は、「こんな堅い雑誌を読む人はいない」と創刊当初から酷評されていました。しかしそうした中にあって、編集部が変わらず信じてきた一つの想いがありました。それは「いつの時代にも、仕事にも、人生にも、真剣に生きている人はいる。そういう人たちの心の糧になる雑誌を創ろう――」というものでした。創刊理念に掲げたその想いに呼応するかのように、『致知』は心ある読者に支えられ、10年、20年、30年、40年と号を重ねてきました。そして創刊46周年。今では、雑誌の到着を心待ちにしている読者が全国に11万人を数えます。この雑誌は書店では求めることはできず、年間購読のみです。私は20年以上購読してきました。

 『致知』が追究するのは、いつの時代にも問われる「人間の生き方」です。諸々の世界において、強く生きた人、深く生きた人、やさしく生きた人、そういう人たちの生き方、そこから学ぶ「人間学」を追究してきました。そして今月4月号では、昨年デビュー50周年を迎えた日本を代表するシンガー・ソングライターさだまさしさんの特集「運命をひらくもの」のトップ対談で、10頁にわたる読み応えのある記事でした。「精霊流し」「無縁坂」「秋桜」「案山子」「関白宣言」「道化師のソネット」「風に立つライオン」「いのちの理由」など幾多のヒット曲を生み出し、これまでに積み重ねてきたソロコンサートは通算4,623回(対談当時)と、前人未到の日本記録を塗り替え続けておられます。小説家としても数々のベストセラーを手掛け、そのほとんどが映画化される他、被災地支援のチャリティーコンサートなど社会貢献活動にも力を注いでいます。

 さださんはいかにして自身の運命をひらいてきたのでしょうか?さださんと親交の深い大和証券グループ本社名誉顧問鈴木茂晴んがその核心に迫ります。さださんと鈴木さんはゴルフ仲間で親交があるものの、対談の機会は初めてです。遡ること今から7年前、日本経済界の重鎮として知られるウシオ電機創業者の牛尾治朗さんが『人生と経営のヒント』(致知出版)を上梓され、親しい経営者仲間と共に出版のお祝い会を開いた時の会食の席で、ふと鈴木さんがさださんのことを話題に取り上げられ、素晴らしい方だとおっしゃっていました。いつかそのお二人に『致知』で対談していただきたい――。その思いで企画をずっと温めてきたものが今回実現したのです。

 2時間に及ぶ白熱の対談は、デビュー50周年を迎えての感慨に始まり、国語教育への警鐘、さだ家の家庭環境と音楽との出逢い、挫折と苦悶の日々からデビューに至る経緯、誹謗中傷や借金生活を支えたもの、4,600回超のソロコンサートを成し遂げられた要因、日本の未来を開く若者たちに伝えたいメッセージ、運命をよくする秘訣~運命を開く人と開けない人の差など、さださんの人生観・仕事観に迫る人間学談義に興味は尽きませんでした(誌面10ページ、約13,000字の記事)。対談の主な小見出しは下記の通りです。

◎チャリティーコンサートは恩返しのため
◎50周年の節目を迎えて いま心に抱く思い
◎「国とは国語なり」国語こそ教育の要
◎人生で一番惨めだった20歳の挫折体験
◎故郷へ逃げ帰って 僅か1年後にデビュー
◎17歳でノイローゼに  その自分への返事を書く
◎常に明るく愚痴を言わず 信じてくれ母の存在
◎映画制作で多額の借金30年かけて完済
◎「偉大な人は批判者の数で高さを測ることができる」
◎スピードとポジティブマインド

 その中から特に面白いと思ったポイントを、ここでは二つほど取り上げます。さださんは20代の時に「あいうえお理論」というのを思いつきました。まず「あ」「案」、アイデアでしょう。「い」「因」、きっかけですよね。「う」はそれを救う「運」「え」はそれを広げてくれる「縁」「お」はそのことに対して「恩」を感じてお返しする。よし、これからの人生、「案、因、運、縁、恩」で行こうと決意しました。それ以降は神社に行ってもお願い事をしなくなりました。「ありがとうございます」しか言わないと。これがさださんの運命を開いた一つの要因です。24歳の時に会社をつくり、今まで何十人という社員がいて、その家族も含めて皆を食べさせてきました。これは運がないとできません。映画『長江』の制作で、28歳の時に28億円の借金を背負い込んで、潰れることなく30年掛けて利子も合わせて35億円を完済できたのも満員のお客さんがコンサートに足を運んでくれたから、と感謝の念を忘れません(ピーク時には年間186本のコンサートをやっています)。挫折や苦難をいかに乗り越えていくか。出逢いやご縁をいかに育んでいくか。運命をいかにひらいていくか。私たちの仕事や人生を発展させていくためのヒントが満載でした。

 二つ目。さださんがソロデビューして出す曲すべてがヒットしていた時に、マスコミからさんざん袋だたきにあったことは有名です。妬みもあって悪口轟々でした(⇒例えば私の記事のコチラをお読み下さい)。「あいつは計算ずくだ」「あんな歌を聴くやつがいるのか」とか毎日言われ続けました。大きなプロダクションに所属していれば会社が守ってくれますが、さださんは個人事務所でしたから言われ放題です。さすがに凹みました。そんな時、中国に撮影に行く時に通訳を務めてくださった年輩の女性にこの話をしたところ、「あなたに伝えたい中国の格言があります」と言って、こんな言葉を教えてくれたそうです。「高い塔はその影の長さで、偉大な人はその批判者の数で、高さを測ることができる」批判者が多いということは必ず賛同する人もたくさんいる。そう信じなさいということです。この言葉はとても胸に残って嬉しかったと回想します。肝に銘じておきたい名言ですね。挫折や苦難を乗り越え、運を開いていくためのヒント満載の、実に勉強になる対談記事でした。みなさんにお薦めしておきます。♥♥♥

 僕はこれまで4,623回のコンサートを重ねてきて、手抜きをしたことは一度たりともありません。きょうできることはきょうしかできない。明日もできる保証はありません。ですから、僕は「惜しむな、惜しむな」って自分に言い聞かせながら、すべてのステージは一回しかないという思いで立っています。特に70歳を過ぎてからは体力の衰えも感じますし、身近な人が亡くなる経験もしていますので、このコンサートが俺の最後のコンサートかもしれない。恥ずかしくないように、出し惜しみせず一所懸命やろうと心懸けてきました。これからもその姿勢を貫いていきたいと考えています。  ―さだまさし 

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