3年生「7月進研模試」の英作文問題に「私には尊敬している祖父がいる。かつて銀行に勤めていた祖父は、今、地元で活躍している。…」という出題がありました。進研の「解答解説」には、「「地元の活動に進んで参加する」と読み替えて、be willing to take part in local activitiesなどと表現できる。」と解説しています。どうやら解説者はbe willing to~を「喜んで~する、進んで~する」と理解しておられるようです。不適切です。
このbe willing to Vという成句の誤解については、私は各所で何度も述べてきました。決して、私が高校時代に習ったような「喜んで~する」という意味ではありません。この成句は、「やってもいい、異存はない、いとわない」程度の意味で、積極性は含まれず「本当はやりたくないけれど…」という気持ちを暗に示しています。尊敬するデイビッド・セイン先生は、be willing to …ifと、後ろにifの条件文がついていると考えるとよい、と的確なアドバイスをしておられました。そのことは、OALD(第10版)の定義“not objecting to doing something; having no reason for not doing something”(あることをするのに反対しない。あることをしない理由はない)からも明らかです。
ただ残念ながら、まだこの成句を「喜んで~する」意味だと誤解しておられる現場の先生方がたくさんおられます。自分が高校時代に習ったことを、何の疑問も抱かずにそのまま生徒に伝えてしまっています。ちょっと気をつけて英文を読めば、間違いに気がつくはずなのですが…。このような誤解はまだかなり現場に蔓延しているように感じています。In fact(実は), be familiar with~(~をよく知っている), After all(結局) などはその代表選手です。
実は、今年の「共通テスト本試験」リスニングの第1問問1にこの成句が取り上げられました(44.3%と正答率がとても低く、第1問の最初からこんな難しい問題かよ、と話題になりました)。英語を聞き、それぞれの内容に最もよく合っているものを、四つの選択肢(①~④)のうちから一つずつ選びなさい、という問題です。
(読み上げられた問題文)Fred loves dancing, so he never hesitates to
perform for his classmates.
① Fred dislikes dancing for his classmates.
② Fred is willing to dance for his classmates.
③ Fred's classmates never see him performing.
④ Fred's classmates often perform for him.
正解はもちろん②ですが、読み上げられた英文と選択肢②の間にはニュアンスの差が見られます。問題文は、「フレッドは踊るのが大好きだから、クラスメイトの前で踊るのをためらうことがない」→“ためらわない”という積極性・即行動のニュアンスが強く感じられます。大好きだからこそ、躊躇なく「ノリノリで」「速攻で」行動に移すという、積極的で肯定的な行動を表しています。一方選択肢の②は、「フレッドはクラスメイトのために踊るのをいとわない」→“やる気はある”という受け入れの姿勢を示しますが、積極的に自分から進んでやるということではありません。「(嫌がらずに)~する気がある」「(頼まれれば)~しても構わない」という消極的肯定(「嫌ではない」レベル)のニュアンスです。つまりnever hesitatesは「積極的にやる」「ためらいゼロ」、is willing to~は「やる気はある(少なくとも拒まない)」という差があるのです。しかしこの問題を論理的に考えると、「躊躇なくノリノリでやる(never hesitate)」人は、当然「やる気がある/嫌がらずにやる(willing)」という範囲の中にすっぽり含まれます。「大好きなんだから、嫌がるわけがない(=willingである)」という包含関係が成り立つため、矛盾しない選択肢となります。この同意文問題は意味の核心が一致しているかどうか(情報内容の一致)が基準であり、積極性の度合いまでは問いません。本文より少し控えめな表現に言い換えられるのは共通テストリスニングでよく用いられるテクニックです(perform→dance)。要旨を把握して適切な言い換えを選ぶ力という観点では、正解として妥当な組み合わせと言えるでしょう。しかし英語学の観点で同義かと問われれば、完全な同義ではありません。完全に同じ意味ではないが、「共通テスト」の同意文としては十分同じ内容と判断できる、というのが私の評価です。
私が読書の際に集めた数々の用例からも感じられることですが、ネイティブ・スピーカーたちがこの表現にどのような感じを抱いているかは、次の証言からも明らかでしょう。
I’m willing to help. willingも多くの日本人に誤解されている言葉です。辞書にもwillingの項には“喜んで、快く~する」という意味だけが掲載されていることが多いのですが、これでは説明不足というしかありません。be willing to…というフレーズが出てきたら、be willing to…ifと、後ろにifの条件文がついていると考えてください。例えば、I’m willing to help.の場合には、I’m willing to help if you let me use your car.(自動車を貸してくれるのなら、喜んで手伝いますよ)といった何らかの条件をネイティブは想定しながら話をしているのです。 ―デイビッド・セイン『ネイティブに嫌われる英語』(アスコム)
辞書や参考書の中には、”be willing to do”は「喜んで~する」と書いてあるものがありますが、この表現にはそうした能動的な積極性はなく、「~するのは苦ではない」というニュアンスで用いられるのがふつうです。古い日本語に「~するのもやぶさかではない」という表現がありますが、それにぴったりなのが”be willing to do”なのです。 ―キャサリン・クラフト『先生、その英語使いません!』(DHC)
従来be willing toは「喜んで…する」という意味を表すと考えられてきましたが、これは正しくありません。というのは、この表現はbe glad [happy] toほど積極的な意味ではなく、「…しても構わない」というやや消極的な意味を表すからです。―柏野健次『英語教師のための語法ガイド』(大修館、2025年)
私は、『ライトハウス英和辞典』(研究社)の編集作業の中で、M.アルトハウス先生(津田塾大学)の指摘で、このことに改めて気づかされました。そこで私は、『ライトハウス英和辞典』に、「語法 be ready to…ほど積極的な気持ちはない:If you’d like me to go with you, I’m quite willing. (もしいっしょに行ってほしいのならお供してもいいですよ)/We were disappointed by the outcome of the election, but we’re willing to accept it.(我々は選挙の結果に失望したがそれを受け入れる気だ)」のような記述を残しました。他にも「be ready toなどと違い、自分から積極的にしたいというのではなく、特に反対する理由もないので同調の態度をとる時に用いる。ただし、willingが名詞を修飾する場合、また副詞形のwillinglyやwillingnessは、「喜んで」という積極的な意味を持つ」(『ジーニアス英和辞典』第6版)中でも最も丁寧な記述は、尊敬する山岸勝榮先生の『スーパーアンカー英和辞典』(学研)に見られます。「(1)be willing to doは通例必要なこと・頼まれたことなどを他人の希望に添うようにするときに「してもかまわない」という意味合いで用い、積極的な気持ちは希薄。(2)be ready to doはそのような場合にも、自発的に快くやる場合にも用いる」という語法記事だけでなく、コラム「英作の落とし穴 喜んで…します」として「喜んでお手伝いします」を(×)I’m willing to help you.という人がいる。willing は積極的な気持ちは表さず、手を貸すのが務めだから手伝う、くらいのニュアンスになる。ほんとうに「喜んで」という気持ちであれば、I’d be glad to help you.とする。」と懇切丁寧な注記が添えられています。
さて、意味に関してはそれぐらいにしておいて、赤野一郎先生古希記念論文集編集委員会(編)による『言語分析のフロンティア』(金星堂、2019年)という論文集があります。英語学、語法研究、辞書学、コーパス言語学など、学会を多岐にわたり牽引してこられた赤野一郎(あかのいちろう)先生の古希をお祝いするために編まれた論文集です。巻頭には、赤野先生の英語研究の歴史が「私の英語への旅路」というエッセイ(実は論文!)にまとめておられ、面白く読みました。私も赤野先生の論文には若い頃からお世話になって、勉強させていただいております。その論文集の中に、衛藤圭一先生の「Be willing toに関する意味論的・語用論的一考察」という実に面白い論文が掲載されています。みなさんにもぜひご一読をお薦めします。willとの意味的差異がwillingnessにあることを提示した上で、話し手の意思に積極性が見られないことを示しておられます。この成句の意味論を論じたものは幾つかありますが、「語用論」にまで踏み込んだ考察というところが、この論文の優れた点です。(1)交渉を有利に進める条件はif節と共起して表す、(2)全面的に納得できない要因はbut節と共起して表す、(3)疑問文の場合、控えめな依頼の意味はWould you be willing toという形式を通じて表す、という語法上の特徴が3点観察された、と結論づけておられました。これで、意味だけでなく、実際の場面での使われ方が明らかとなりました。
ついでですが、willinglyと副詞になると、「喜んで」という意味になることには注意しておきたいと思います。英語は一筋縄ではいかない、実に奥が深い!!♥♥♥
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