直接の努力と間接の努力

 幸田露伴(こうだろはん、1867―1947)は、小説『五重塔』などで知られる明治時代の文豪です。私は故・渡部昇一先生が薦められる『努力論』を、若い時に読んで非常に勉強になりました。彼の『努力論』には、人生の明暗、幸・不幸をいろんな角度から検討し、どうやったら明るく生きられるかが論じられていて、現代でも参考になることが数多く書かれていました。運命や幸福に対する知的かつ実践的な姿勢を学びました。

 露伴の家は、もとは徳川幕府のお茶坊主を務めた家系でした。旧制の東京府立中学東京英学校などに学びましたが、どちらも家庭の事情で中退しています。当時の出世コースとは全く別なる道を歩んだ人物でした。同年代の夏目漱石と比較すると、漱石東京大学を卒業してイギリスに留学するなどエリートコースを順調に歩んだのに対して、露伴は旧制中学に一年いた後に漢学塾に学び、やがて電信技術学校を経て北海道の電信分局に勤めました。しかし、作家への強い志を抱いていた露伴は、その思いを断つことができず、職を辞して東京へ帰ることにしました。お金がなかったので、北海道から東京まで歩いて帰りました。その苦難の旅の途中の二本松で詠んだ句、里遠し いざ露と寝ん 草まくら」に由来するのが、「露伴」というペンネームの由来です。北海道から東京に戻ってからは勤め先もなく、失意の青春時代を送ったのでした。このように努力に努力を重ねて作家への道を切り開いていった露伴の書いたものは、小説に限らず、随筆や史伝にも見るべきものが数多く見られます。

 紆余曲折を経て22歳で小説家としてデビューした露伴は、生涯にわたって人生に対して観察と反省と努力を怠らない人でした。高踏的ではなく人情味のある人生論をまとめたものが『努力論』でした。その中で彼はこんなことを言っています:

「努力している、また努力しようとしている、という意識を忘れて、そして自分がやっていることが『自然な努力』であってほしい。これこそが努力の真髄であり、醍醐味なのである」

「『努力して努力する』―これは真によいものとはいえない。『努力を忘れて努力する』―これこそが真によいものである。」

「努力には『直接』と『間接』の二種類がある。『直接の努力』は当面さしあたっての努力、その時その時に力を尽くすこと。『間接の努力』は日頃の準備の努力、基礎をつくる努力である。ある願望を達成しようとして努力しても成果があがらないのは、『直接の努力』ばかりでふだんから『間接の努力』をしていないからだ」

 「直接の努力」「間接の努力」か。実にいいことを言っています。私が幸田露伴を高く評価するのは、こういったさりげない人生観が一杯詰まっているところです。このところマスメディアやドラマなどで、「努力は報われる」と安易に思い込ませようとする風潮が見られますが、二つの点で注意が必要です。やみくもにいくら努力してもいい結果は生まれないことは、私が毎年悪銭苦闘している受験の世界では日常茶飯事のことです。努力すれば必ず結果が出る、などと安易な思い込みで受験生活を送ってみても、思うような結果が得られない人は山のように見てきました。この言葉には但し書きが必要なので「正しい努力をコツコツと積み重ねれば努力は必ず報われる」としなければいけません。間違った努力をいくら続けても、効果はありません。努力は必ず報われる」などと、安易な言葉で総括して欲しくはないのです。努力逆転の法則」(「エミール・クーエの法則」)というのもあるくらいですから。⇒私の紹介記事はコチラです   これは、簡単に言うと、頑張れば頑張るほど、その努力とは反対の結果になってしまうという法則です。「あがらないように、あがらないように」と思うと余計にあがってしまう、好きな人の前で普通にふるまおうとすればするほど動作や態度がぎこちなくなる、平均台で落ちないようにしようとすればするほどふらついてしまう、翌日に重要なイベントを控えた緊張で眠れない時に、無理に寝ようとすればするほど目がさえて余計に眠れなくなる、などがこの法則に当てはまりますね。長い間教員をやっていますと、これだけ頑張っているのに結果が出なくて悩んでいます、という相談をよく受けます。努力にこだわりすぎると、それが結果に反映されないどころか、逆効果さえ生んでしまうこともあるんです。これはなぜでしょうか?実は「自己暗示」の結果なんです。「自己暗示」には「意思と想像が争った時、常に勝利を収めるのは想像」という法則があるのです(エミール・クーエの法則」)。「あがってはいけない」(意思)より「あがるだろうな」(想像)の方が強いということです。こういう時は発想を大転換して、意思を「あがってもいいや」と思うことで、心が落ち着きますよ。いずれにしても正しい努力を積み重ねることが大切です。受験勉強においても、模試を沢山受検しては受けっぱなし、問題集・参考書に次から次から手を出してはいずれも途中で放り出す、点さえ取れればそれでいいという安易な姿勢、定期考査・課題テスト・対外模試・毎日の小テストを「やりっ放し」にする、読解の予習はうわべを訳して終わり、問題集をたくさんやれば力がつくのだという誤った考え、模試の成績票は志望校の判定(A~D)を見て終わり、こんなことをいくら続けても成果にはつながりません。こういった生徒を毎年山のように見てきました。

 二つ目の注意事項です。努力には即効性はない」という点です。頑張っても結果が出ないと言って、すぐに諦めて放り出してしまう。こうしたことは、受験生にもたくさん見られます。すぐに結果が出るはずもありません。受験勉強では、最低でも3ヶ月は頑張り続けないと結果は現れ始めません。プラス「間接の努力」ですね。毎日新聞を読んだり、読書を続ける。疑問に思うことはとことん調べてみる。内容のあるテレビ番組を見る。興味のある講演会やコンサートに足を運ぶ。自己採点をきちんとやる。こうした一見受験の成績とは関係のないようなことにも、日頃から全力を尽くすのです。こうしたことをよく理解して、根気強く努力を続けることが大切です。成功の秘訣は成功するまでやること」と喝破したのは、尊敬する松下幸之助さんでした。♥♥♥

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