時間がない!?

 カール・ヒルティはその『幸福論』の中で「仕事の上手な仕方」について、とってもいいことを言っておられました(下線は八幡)。

 まず何よりも肝心なのは、思い切ってやり始めることである。仕事の机に座って、心を仕事に向けるという決心が、結局は一番むずかしいことなのだ。一度ペンを取って最初の一線を引くか、あるいは鍬を握って一打ちするかすれば、それでもう事柄はずっと容易になっているのである。ところが、ある人たちは、始めるのにいつも何かが足りなくて、ただ準備ばかりして(そのうしろには彼らの怠惰が隠れているのだが)、なかなか仕事に取りかからない。そして、いよいよ必要に迫られると、今度は時間の不足から焦燥感に陥り、精神的だけでなく、時には肉体的にさえ発熱して、それがまた仕事の妨げになるのである。

 つまり、多くの人がよく口にする、便利な「言い訳」としての「時間がない!」というのは、結局は、仕事逃れの口実でしかないということです。人は嫌な仕事、やっても愉快ではない仕事は、ついつい後に先延ばししてしまいがちです。ヒルティ自身は「一番の時間の浪費は先延ばしにある」とまで言い切っています。「時間がない」「忙しい」としょっちゅうこぼしていた人が後に残るような仕事を何一つしていないことが多いのも事実です。彼らにとってやっかいで嫌な仕事がイコール重要な仕事なのでしょう。だから、優先順位からすれば下位の仕事にばかりとらわれて、その結果「時間がない」「忙しい」と、重要な仕事を後回しにしてしまいます。逆に大きな仕事に素早く取り組む人は、細かい仕事など残り時間で瞬時に片付けてしまいます。こうした人は、本当に多忙であるにもかかわらず、「時間がない」などのグチをこぼさず、質的にも量的にもレベルの高い仕事をするのです。現場では、「急ぎの仕事は、忙しい人に頼め」という言葉をよく聞きますが、多忙に慣れた人は、仕事に取り組むのが早いからなのですね。

 最近、 「本を読みたいけど、時間がない」という言葉をよく聞きますね。私に言わせると、これも「言い訳」にすぎません。私は週に3回、JR山陰線・境線を行き・帰りに利用していますが、車内は右を見ても左を見ても、スマホをいじる人ばかりです。若い人も年配の人も例外はありません。よくもまあこれだけ同じ姿に、と驚かされます。一体他にすることはないのでしょうか?電車の中で、みんな下を向いてケータイやスマホを操作しているような異常さに早く気がついて、ケータイの電源を切ればいいだけの話です。別にケータイが悪いわけではなく、たかがツールに飛びついて離そうとしない人間の側に問題があるのです。私は本を読んだり、原稿をチェック・校正したり、ブログの手直し、パケット・マジックの練習などを、もっぱら電車の中でやっています。故・竹内 均(たけうちひとし)先生(東京大学名誉教授)に教えてもらった「すきま時間」の活用法ですね。結構なことがこの時間の中でできていますよ。

 例えば、NHK放送文化研究所が2021年に実施した、スマホの利用時間に関する調査によると、「スマートフォン・携帯電話」の利用時間は、世代全体で1日当たり平均1時間18分だということでした。20代は男女とも3時間半近く使っています。30代以上では、年層が上がるほど、利用時間が短くなっていきますが。男女30代で2時間以上、男女50代でも1時間以上利用しています。全体の1時間18分のうち、自宅外での利用時間が27分なのに対し、自宅内での利用時間が51分と、自宅内での利用時間の方が長いという結果も明らかになりました。特に20代の男女は、いずれも自宅外での利用が1時間13分ですが、自宅内での利用時間は、男性2時間13分、女性2時間15分と、自宅外での利用時間よりも1時間以上も多くなっていました。これらの結果から、若年層に限らず、さまざまな年代の人が、スマホを主に自宅で利用していることが分かります。そのスマホを1日の中で一定時間触れない時間を決めたり、目の見えない場所に置いたりしておけば、本を読む時間を作ることなど実に簡単なことです。

 文化庁では「読書離れ」が進んだ要因を、「スマートフォンやタブレットは2018年度の調査時点ですでに普及していたが、利用できるアプリやサービスが多様化して利用頻度が高まり、読書の時間に取って代わっているため」と推測。「読書は情報収集ツールとして効果的であり、思考力を深めて人格形成をする上でも利点がある。国語力を養う活動の一つでもあり、本に触れる機会を確保するのは重要だ」としています。 今から30年以上前は、スマホはおろか、ガラケーやパソコンも一般家庭には普及していませんでした。ただ、そんな時代でも、不自由さなどは少しも感じませんでした。私たちは、これらのツールの普及とともに、便利な時代にはなりましたが、その分無駄な時間を割り当てるようになりました。これからは、スマホの代わりに「読書の時間」を割り当てればいいのです。ところが…。

 さて、最近衝撃的なニュースが飛び込んできました。一ヶ月に1冊も本を読まない人が初めて6割を超えたことが、文化庁の2023年度の「国語に関する世論調査」で判明したのです(62.6%、9月17日発表)。全世代で急速な「読書離れ」が進んでいます。全国で本屋さんが4,700店閉店し、1/4の市町村に書店がないのもうなずけます。全国の書店総店舗数は2003年の約2万1千店から、2023年には1万918店と、約半数に落ち込んでいます。この10年間でも3割減っています。街の書店現象は人々の本に触れる機会を奪い、本の売れ行きを低迷させる悪循環へとつながっていきます。街の書店の主力商品だった文庫本の推定販売金額は、出版科学研究所調べで1,293億円から741億円へと四割以上落ち込んでいます。SNSの普及などで「活字離れ」が深刻になっており、各地の図書館に新刊やベストセラーが過度に納入されている点や、ネット書店の隆盛も地域の書店の経営を圧迫しているのです。スマートフォンやネット交流サービス(SNS)の普及が原因とみられ、文化庁の担当者は「読書離れを顕著に示しており、国語力の養成に影響が出かねない」と危機感を示しています。「ショート動画や画像を投稿するSNSが爆発的に流行したことで、私たちはスマホで文脈のない短文や動画・画像の情報を得ることに慣れてしまった。その結果、日本人全体が『長文離れ』を起こしているのではないか」との識者の声も聴かれます。本を読むときに、私たちの精神は活発に動き出します。私に言わせれば、本を読むことは、「自分の中に井戸を掘る」行為なんです。孤独で静かな時間を確保する読書によって、自分の内面を深く掘り下げることができるんです。さらに教養や見識を横にも広げて、比較する能力も深耕する能力も身につけてくれるのです。♥♥♥

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