直島銭湯「I ♥湯」

 アートの聖地・直島(なおしま)の玄関口・宮浦港からわずか徒歩2分、港前の通りから小さな路地を一本入った所に、アーティスト・大竹伸朗(おおたけしんろう)さんが手掛けた“入浴できる美術施設”直島銭湯「I♥湯」があります。ここはぜひ行って見たいと計画していました。タクシーの運転手さんに教えてもらわなかったら、一人ではとうていたどり着けないような狭い場所にありました。外観・内装はもちろん、浴槽、風呂絵、モザイク画、トレイの陶器までアートが散りばめられており、細部にまで大竹さんのこだわりが感じられる施設でした。地元の人々や旅行者、子どもや大人、日本人や外国人、様々な人々が集います。裸になり、他人と同じ風呂に入り、大竹さんの作品に浸かる、旅行者同士あるいは島民との交流の場としての銭湯です。大竹さんが直島で展示した「シップヤード・ワークス」「落合商店」「はいしゃ」に続き制作され、2009年7月に営業を開始しました。訪れる人は、旅の疲れを癒やしつつ、裸で大竹ワールドを堪能することができます。

 ここ直島では過疎化や高齢化が進み、「自宅でお風呂を沸かすのが大変だ」という島のおじいちゃんやおばあちゃんの声があったこと、観光客からもどこか汗を流せる場所があると嬉しいといった要望があったこと、などが直島銭湯「I♥湯」の制作背景にありました。今では島の活力となり、直島で生活する島民と、国内・国外を問わず直島を訪れる観光客の方が交流できる場として、多くの人々に愛されています。

 直島銭湯「I♥湯」は、福武總一郎(当時のベネッセアートサイト直島代表)さんが、大竹伸朗さんに「銭湯に興味はある?」と電話したことから始まったそうです。はじめは銭湯によくある富士山の絵のようなものを描く依頼か、と大竹さんは思ったそうですが、銭湯をはじめから作るという発想でした。「シップヤード・ワークス」「落合商店」「はいしゃ」など直島でのアート作品の制作活動を行っていた縁もあり、後に「I♥湯」と名付けられる銭湯の制作を引き受けました。女性の形をした看板、「ゆ」のネオンサイン、ヤシの木、船底など、建物はさまざまなオブジェが組み合わされています(写真上)。大竹さんは、現代アートに興味がない人でも楽しめる「飽きさせない」アイデアを至るところに盛り込んでいます。

 建物に入ってすぐの番台で、入浴中のお客さんがおられなければ写真を撮っても構わないと許可をいただき、撮影をさせてもらいました。男湯と女湯を隔てる壁の上でひときわ目立ち存在感を放っている浴室中央にある大きな象。この象は北海道定山渓秘宝館が所有していたもので、定山渓の「定」を取り“定子(さだこ)”と名付けられています。かつて大竹さんが北海道を旅している時に出逢い、その当時からこの小象が欲しいと考えていたそうです。定山渓秘宝館の閉館後に子象を手に入れた大竹さんは、これを直島に運び、クレーンで吊り上げて銭湯の天井部を通って設置しました。島民や来島者が銭湯に親しみを持てるような、誰にでも分かりやすいものが必要である、という大竹さんの強い想いがありました。

 浴室の天井には色鮮やかな絵画が描かれていますが、これは、直島銭湯「I♥︎湯」制作前の構想段階では予定していなかったそうです。夜になると、ガラスが鏡面のように隣の浴室を映してしまう問題が発覚したために、天井にも絵を描くこととなりました。経年劣化に伴い、2018年には天井画の再制作も行われています。湯船の底や一つ一つデザインの異なるカランや絵付けタイルなど、大竹さんの世界観が広がります。私の前にいらした観光客の方が「見学だけはできません」と番台で断られておられたように、銭湯に入らないとアートを見ることはできないのです。タオルは持参しなくても販売されていて、10色もあり記念に買って帰りました。

 「I♥湯」は環境に負荷を与えないことも一つのコンセプトとして注力されています。おがくずを原料とするペレットボイラーが採用がされており、この燃料は燃焼効率が良く、灰や煙が少ないことが特徴の一つです。「I♥湯」の受付では、定番のTシャツやタオルの他に、ナップサックや缶バッジなど多数の記念グッズを販売していました。また、屋外には「I♥湯」「はいしゃ」「シップヤード・ワークス」などの作品を含む大竹伸朗のガチャガチャマシンも設置されています。独創的な芸術空間で「アートな入浴」を楽しみましたよ。♥♥♥

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