前刀禎明(さきとうよしあき)さんは、ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー、AOLなどを経て、ライブドアを創業。スティーブ・ジョブズ氏に日本市場を託され、アップル米国本社副社長 兼 日本法人代表取締役に就任。独自のマーケティング手法で「iPod mini」を大ヒットに導き、危機的であったアップルを復活させました。現在はリアルディア代表取締役社長で、ラーニングプラットフォームの開発、コンサルティングなどを手がけておられます。私の尊敬する企業人です。
話は今からちょうど12年前にさかのぼります。2013年1月末のことです。松江北高の図書館に放課後、山陰合同銀行から電話がかかってきました。ちょうどベネッセの担当者が二人ほど職員室にお見えになっており、お話をしている最中のことでした。山陰合同銀行で前刀禎明(さきとうよ
しあき、(株)リアルディア社長)さんを講演にお招きした際に、私への色紙をことずけてくれと預かっている、というお電話でした。当時、前刀さんは、「めざましテレビ」(フジテレビ系)に「さきつぶ」というコーナーをお持ちで、毎朝楽しみに見てから学校へ登校していたのです。そのコメントは他の評論家とはひと味もふた味も違う明確かつ深いもので、いっぺんに好きになりました。前年には『僕は、だれの真似もしない』(アスコム、2012年)という著書を出版され、私もこのブログで取り上げさせていただいたばかりでした。前刀さんはその記事を読んでいてくださって、松江にいらした際に、私に色紙をことずけてくださっていたんです。憧れの方から私に色紙が、と考えただけで、電話口で奇声を上げて喜んだのを、今でも覚えています。当時部屋にいらしたベネッセの営業の人たちもびっくりしたことでしょう。その講演会の企画担当をなさった方のお嬢さんが、松江北高に通っているということで、ことずけてくださったのです。それが写真下の私のお宝の色紙です。「自分らしくあれ」とありますね。その時は喜びのあまり、「八幡は八幡らしくありなさい」という意味のことかな、程度にしか考えていなかったんです。

2016年に、前刀さんが『5年先のことなど考えるな』(PHPビジネス新書)という新刊書を出されました。私は前刀さんの熱狂的なファンですから、ご著書は全部読んでいます。その本を読んでいて、以前にいただいた色紙の「自分らしくあれ」という言葉の真意がようやく分かりました。
僕の中で、「せねばならぬ」や「世間の常識」に囚われない人の究極の姿がいくつかありあります。
『浮浪雲(はぐれぐも)』というジョージ秋山さんの漫画をご存知でしょうか。この漫画の主人公の生き方は、文字通り大空にぽっかり浮かんで悠然と漂う雲のように自由で、将軍様からも認められた”公式の自由人”という設定です。彼は何にも束縛されず、他人に何を言われようと気にしません。あれこそ、僕が理想とする姿です。
また、アップルを率いたスティーブは「Think different.(人と違ったことを考えろ)」というコピーを残しました。でも、スティーブ自身が自分のことを変だと思っていたかというとそんなことはなくて、本人は自然に振舞っていたんです。ただそれが大多数の普通の人の目に、変に見えていたというだけ。スティーブが本当にいいたかったのは「人と違うことを気にするな」ということなのだと思います。
「前刀さんなら、Think different.をどう訳しますか?」と尋ねられたとき、だから僕は「自分らしくあれ」と訳しました。我ながらいい意訳だと思っています。自分らしくある、ということは、人の意見を気にしない、ということでもあります。言葉を選ばずにいえば、少なくとも僕は、人の意見なんてどうでもいい。だから世の中のいろんなものに興味がない。人がいいといっているからよく思える、というのが僕という人間にはありません。 (pp.126-127)
「自分らしくあれ」―そういう意味だったんですね。前刀さんはご講演に使われるプレゼンのスライド1枚1枚にも、ものすごいこだわりを持っておられることも書いてありました。0.1秒単位でテロップをコントーロールすることも苦にならないそうです。まさに職人技ですね。どの
くらいのスピードで文字を表示していくと臨場感が出るのか徹底的に研究して、音楽をどこで流せば効果的か、ベストの表示方法とスピードを探っておられるとか。講演用のスライドづくりには、講演時間の優に10倍の時間を割いておられるのも分かりますね。これらすべてが「自分らしくある」ための真摯な追求であることがよく分かります。そういえば、3年前にお電話をくださった山陰合同銀行の講演の企画担当の女性が、「今までに見たことのない講演だった。あのプレゼン資料のすごさには感動した」とおっしゃっておられたのを思い出します。普通の人は利用できるデータを分析して、そこまでで止まってしまいます。前刀さんは、そこから“So what?”(それでどうした、それが何なんだ)と自問します。そこからが勝負だというのです。「これは自分にしか言えないことか?」「自分らしい視点が入っているか?」と自分に問いかけながらカメラの前に立つとおっしゃいます。「見る」「視る」「観る」「俯瞰してみる」を使い分けることが大切だと力説されます。これが前刀流のプレゼンの極意なんでしょう。一度ぜひ私も、前刀さんの講演を聞いてみたいと思っています。最近のインタビュー記事でこんなことを語っておられました。なるほど。
“模索”っていうと、探している答えが必ずどこかあるというニュアンスですが、僕はこういうとき、正解は“創るもの”だと思っているんです。だからビジネスにおいても、“未来予測”ではなくて“未来創造”だと思っています。平成から令和に変わるときに、街頭インタビューでメディアがこぞってしていたのは『あなたは令和がどんな時代になってほしいと思いますか?』という質問でした。あたかも令和という時代が天から降ってくるかのように、時代は与えられるものであるかのように。そうじゃなくて、本当は『あなたは令和をどう生きたいと思いますか?』とか『令和をどんな時代にしたいですか?』と聞かなきゃいけない。一人一人が主人公で、当事者意識を持って動いていく結果が、時代の未来。未来は創っていくものだという感覚が僕にはあるんです。未来は自分次第。自分の人生を自分でコントロールできないなんてつまらないじゃないですか。
私が早朝楽しみにしていた「めざましテレビ」のコーナー「さきつぶ」の最終回ににおいて、前刀さんはクリエイティブに生きるため、そしてセルフイノベーションを起こすために、3つのシンプルな原則をお話しになりました。(1)「~もんだ」をやめる。(2)子供になる。(3)自分を信じる。「○○はこういうもんだ」という常識や前例にとらわれることなく、理屈も損得勘定もない純粋な子供のように好奇心の赴くままにチャレンジする、そして自分を信じ、自分の考えに自信を持つことの大切さを喚起されたのです。アップルの日本社長時代に「アイポッドミニ」を日本で爆発的ヒットを成し遂げた途端、スパっと辞職され、自分のやりたい夢の追求に邁進された方です。このように、前刀さんの生き方には勉強させられるところがいっぱいあります。詳しくは次のご著書を読んでみてください。きっとハッとさせられると思いますよ。改めてお宝の色紙をいただいたことを、前刀さんにお礼申し上げます。❤❤❤
前刀禎明『僕は、だれの真似もしない』(アスコム、2012年) 前刀禎明『人を感動させる仕事 僕がソニー、ディズニー、アップルで学んだこと』 (大和書房、2013年) 前刀禎明『心が動く伝え方』(KADOKAWA、2015年) 前刀禎明『5年先のことなど考えるな』(PHPビジネス新書、2016年) 前刀禎明『とらわれない発想法 あなたの中に眠っているアイデアが目を覚ます』 (日本実業出版社、2017年) 前刀禎明『アップルは終わったのか?』(ゴマブックス、2017年) 前刀禎明『学び続ける知性 ワンダーラーニングでいこう』(日経BP、2021年)


