「洋書ビブロス」

 今日は、かつて東京・高田馬場にあった書店「洋書ビブロス(BIBLOS)」を取り上げます。昭和から平成にかけて(1970~80年代)、学生、研究者、そして洋書好きやサブカルチャー層から熱狂的に支持されていた伝説的な洋書専門店です。インターネットが普及する前、洋書のペーパーバックや海外の雑誌をリアルタイムで手に入れるのが難しかった時代に、圧倒的な存在感を放っていました。高田馬場駅早稲田口を出てすぐ目の前にある、ロータリーに面した「F.I.ビル(エフアイビル)」の4階にありました。駅前の一等地でありながら、エレベーターや階段を上がって店内に入ると、駅前の喧騒とは打って変わって、まるで海外の書店に迷い込んだかのような独特の知的で静かな空間が広がっていました。「株式会社スクール・ブック・サービス(SBS)」という企業が運営する店売部(実店舗)という位置づけでした。

 英米の小説(ペーパーバック)はもちろん、フランスのガリマール社の書籍など、欧州の文学作品も棚に豊富に揃っていました。アメリカやイギリスの最新ファッション誌、音楽誌、ライフスタイル誌、さらには当時の尖ったサブカルチャー誌がいち早く並んでいました。洋書のアダルト雑誌まで多く扱っており、ビニール包装がされていなかったために「立ち読みスポット」にもなっていたようです〔笑〕。早稲田大学をはじめとする周辺の学生や教授陣の需要に応えるため、言語学のテキスト、学術書、辞書、ペーパーバックの定番(ペンギン・ブックスなど)も網羅されていました。

 当時は、Amazonなどのネット通販はもちろんありませんし、大型書店でも洋書コーナーは限られていた時代です。そんな中、「洋書ビブロス」「ここに行けば、今の海外のリアルな空気(カルチャー)に触れられる」という貴重な窓口でした。また、現地とそこまで変わらない現実的な価格(あるいは学生でもギリギリ手が届く価格)でペーパーバックを販売していたため、周辺の大学生(早稲田、学習院、日本女子大など)がこぞって通い、英語やフランス語の原書をここで買い求めては、ボロボロになるまで読むのが一種のステータスでもありました。独特のブックカバーや、洋書特有の「紙の匂い」に、えも言われぬ憧れを抱いた方も多かったようです。

 残念ながら時代の変化とともに閉店してしまいましたが、当時の高田馬場を知る人々にとっては、「早稲田松竹」「名曲喫茶らんぶる」などと並び、「カルチャーの街・高田馬場」を象徴する忘れられない名店の一つとして、今でも色褪せない思い出とともに語り継がれています。公式な閉店理由は分かりませんが、恐らくは以下の要因があったのでしょう。

(1)1990年代以降の洋書需要の減少・・・洋書を扱う店がどんどん少なくなったのは、研究者・学生がそれだけ本を買わなくなってしまったという証左です。今では大型書店でさえも洋書の取り扱いから撤退する所も見られます。扱っている大型書店でも、洋書コーナーはめっきりと縮小し、寂しい限りです。

(2)大型書店(紀伊國屋書店など)やネット通販の台頭・・・大手には勝てません。それに現在ではアマゾンなどのネット書店がすぐに家まで届けてくれます。

(3)FIビルの改装に伴うテナントの入れ替え・・・実際FIビルは全面改装され、ビブロスの痕跡は消えています。

 私は若い頃、一度だけお店にお邪魔したことがありますが、もっぱら通信販売でお世話になっていました。当時、松江市・今井書店では、洋書は注文しても1ヶ月くらいかかって「入手できません」と返事がくることが多かった時代です。とても親切で迅速なサービスをしていただけるので、新刊のペーパーバックはいつもここから手に入れていました。Ed McBain, Danielle Steel, Robin Cook, Harold Robins, Carolyn Keeneなど、お気に入りの作家の新作はここから送ってもらっていました。若かりし頃の懐かしい思い出です。♥♥♥

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