今年の「勝田ケ丘志学館」

 大学進学を目指す浪人生を指導していた、鳥取県立倉吉東高校専攻科を前身に持つ予備校「倉吉鴨水館」(くらよしおうすいかん)が、今年の3月末で閉校しました。鳥取県の専攻科は、都市部に比べ大手予備校などがなく学習環境の不利な浪人生のために、1959~61年に倉吉東高、鳥取東高、米子東高に設けられました。ところが、予備校などから「経営を圧迫する」といった強い廃止要望があり、県議会の決議を受け、2008年度に鳥取東高、2012年度に倉吉東高米子東高が廃止になりました。その後、「大学進学に挑戦したい子の学びの場をなくしてはならない」と卒業生やPTA・同窓会の後押しで、倉吉東高の敷地内に「倉吉鴨水館」が開校します。倉吉鴨水館」は、県立倉吉東高校専攻科が廃止された2013年に、同窓会などによって設立されたNPO法人が予備校として運営し、12年間にわたって受験に挑む約500人の受験生を支えてきました。ところが少子化により生徒数が減少し、黒字化が見込めないことや、講師の高齢化などで存続が難しくなり閉館が決まりました。倉吉鴨水館」からは、これまでに347人が東京大学京都大学など、国公立大学へ進学しました。これで鳥取県には私の行く「勝田ケ丘志学館」だけが残りました。

▲米子東高校の同窓会館内にある「勝田ケ丘志学館」

 鳥取県立米子東高等学校には、1960年から「専攻科」という浪人生のクラスがあったのですが、「官から民へ」の流れの中で、2012年度末に廃止されていました。浪人者数は、横ばい状態であるにもかかわらず、同校では、県外の予備校や自宅浪人を選択する生徒が年々増加していたといいます。これらの生徒たちを支援し、保護者の経済的な負担を軽減し、高い学びへの志を持って大学進学へ立ち向かうことができる環境を整備しよう、という目的で準備・計画されたのが、NPO法人「勝田ケ丘志学館」(かんだがおかしがくかん)です。元米子東高校の校長・山根孝正(やまねたかまさ)館長のご尽力、さらには1,700人にものぼる米子東高OBの方々の温かい寄付金・協力を仰ぎながら、2019年に創立されたのでした。山根館長は設立当時、「日本海新聞」の取材に応えて、「高校と同じリズムで通え、地域の仲間と支え合いながら目標に向かって進める環境が整う。質の高い授業も提供できる」と、設立の主旨を話されました。私も設立当初からお手伝いをさせていただいています。設立時に山根館長が考えておられた目的は、次の通りです。

▲勝田ケ丘志学館・山根孝正館長

1.県外予備校に比較して授業料、生活費等が低額で、家計の経済的負担が減少する。

2.高校時代と同じリズムで生活、学習できるため、規則正しい生活を送り安心して学習に打ち込むことができる。

3.現役時代と同様に複数の模擬試験を受験することができる。

4.高校在学中に指導を受けた先生にも気軽に相談できやすい。(米子東校出身者)

5.鳥取県西部地区出身者同士が切磋琢磨することで、連帯感や地域への感謝の気持ちが育まれる。

6.現役時に、部活動や探究的な学習、ボランティア活動その他様々な活動に取り組むとともに、より高い目標に向けてのチャレンジが可能となりうる。

7.現役生が、受験に向けて真摯に取り組む補習科生の姿勢から多くを学ぶことができる。

8.自宅浪人生の模擬試験受験が補習科において可能となる。

9.単位制を活用しての授業の受講が可能であることから、在校生、補習科生ともに刺激し合うことができる。

10.高校教員が補習科で行われる高いレベルの講義を参観することができ、これにより教員の力量の向上が図られる。

11.鳥取県西部地区出身者が、浪人生活という人生の中で苦しい一時期を、仲間とともに支え合いながら苦楽を共にし、また切磋琢磨しながら、地域や同窓生、家族のもとで学ぶことにより、進学後ふるさとを離れても感謝の念を持ち続けてくれることが期待できる。

 かつて、代々木ゼミナールの小論文指導のカリスマ・藤井健志(ふじいたけし)先生が、2018年の鳥取大学の後期の小論文入試問題「現代社会では、経済的格差や社会的孤立の広がりの中で、様々な形で社会的に排除された人々が生み出されている。そこで、地域社会において実際に生じている社会的排除の事例をひとつ取り上げるとともに、その問題の克服に向けて求められる社会的包摂のあり方について論じなさい。(800字以内)」に対する「模範解答・解説」を、『代ゼミ新小論文ノート2020』(代々木ゼミナール、2019年7月)に書いておられます。その中でこの「勝田ケ丘志学館」を例として取り上げていただきました。

(中略) このような問題の克服のヒントになるのがこの春から鳥取県に開学した「校内予備校」だ。自分の財を原資にしてでもという情熱を持った元教員を中心に協力者や寄付金を募り、県立米子東高校敷地内の同窓会館を利用して、地域の高卒生ならば誰でも学べる、画期的な学びの場を創り出したという事例だ。隣県島根県の教員OBの方々も協力することになったらしい。一つの高校の同窓会やPTAが主体になりながらもその枠組みに縛られず、都道府県の境さえも越えて連帯するかたちは行政に押し付けられるのとは違う新しい公共の姿である。官・民といった区別を越えて地域の人間が共に主体となって考え、行動するところにこそ、特定の人間を排除することのない重層的で懐の深い社会的包摂が実現するのだと私は考える。

 地元紙でも大きく取り上げていただきました(写真下)。

▲「日本海新聞」2022年11月10日付

▲「山陰中央新報」2023年3月15日付

 今年の「勝田ケ丘志学館」は37人でスタートしています。出身校は、米子東28人、米子西4人、米子北1人、2人、米子松蔭2人です。高校時代と同じ生活リズムで受験生活が送れること、共に切磋琢磨しあう集団の力、学費が安いこと、自宅から通学できること、各教科の丁寧な指導、卒業生たちが続々と訪れ生の大学情報を聞くことができること、卒業生たちが数々の大学レポートを送ってくれ、生徒達を励ましてくれることなどが大きな魅力です。♥♥♥

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