「ランチェスターの法則」

 今日取り上げるのは、「ランチェスターの法則」というものです。「ランチェスターの法則」とは、簡単に説明すると「強者」と「弱者」がそれぞれ取るべき戦略を示した考え方で、第一次世界大戦時での軍事作戦をもとにして生まれたビジネス戦略です。別名を「戦力二乗の法則」といいます。二つの法則があります。

「第一法則」は、またの名を「一騎打ちの法則」といいます。1対1で戦う一騎打ちをイメージした法則で、同じ性能の武器を使用している場合には、兵士の数が多い方が勝ち、兵士の数が同じ場合には武器性能が高い方が勝つ、というものです。

「第二法則」は、またの名を「集中効果の法則」といいます。これは、1対1の一騎打ちではなく、1人で複数の相手を同時に攻撃できる、またはある集団が同時に複数の相手に攻撃できる場合のもので、広範囲で戦う広域戦と遠方から戦う遠隔戦をイメージしています。計算式で表すと、「戦闘力= 武器効率(質)×兵力数の2乗」となり、兵士の数が多いほうが圧倒的に有利です。

 兵力と火力の積の小さいほど、戦闘をするたびに加速度的に損害が大きくなり、結局は敗けるというものです。例えば、戦闘機100機と50機が戦うと、二乗の法則が働き、50機の方は全滅し、100機の方はわずか14機の損害ですむというのです。戦力を分散させずに、ここぞというポイントに集中させた方が勝つというのは、誰にでも分かる戦術ですね。この法則をビジネス界にあてはめてみると、ライバル会社に勝つには特定の分野に資本も労力も集中させた方が良いということです。しかもこの法則に従えば、たとえ小企業とはいえ、特定の分野や地域に全戦力を集中させれば、限定つきとはいえ、大企業にも勝ち得るということになります。現実に、経営者の中にはこの一点集中法で成功をおさめた人が多いのです。これが「ランチェスターの法則」です。

 例を挙げてみましょう。スポーツ用品業界で躍進著しいアシックスは、そもそもはバスケットシューズで売り出した会社でした。というより、業界の最も弱い部分をバスケットシューズと見抜いた鬼塚喜八郎(おにつかきはちろう)社長は、全社をあげてそれを集中的にセールスしました。大企業の盲点を突いたのです。そしてとうとう、バスケットシューズ市場で全国制覇を成し遂げます。鬼塚社長は自らのこの商法を「錐もみ商法」(きりもみしょうほう)と名付けました。どんなに分厚い板でも錐を使って一点に集中すれば、必ず穴が開くという意味です。こうして一つの点を制覇して、線、面へと業容を拡大していったのです。

 「錐もみ商法」とは、鬼塚会長の考え方を端的に表したもので、「経営資源が分散しないように一点集中で事を進めていく」ことを指します。 例えて言えば「経営資源とは面積で表すことができ、同じ力(面積)であっても横に広げるよりも縦に伸ばすほうが対象に刺さりやすい」ことを表しています。「オニツカタイガー」はその後、世界的ブランドへと成長していきます。その第1号は、今から50年以上も前に、実際の競技者の声をつぶさに聞きながら開発されました。文字通り、鬼塚会長が、顧客に張り付いて開発したものです。当然のことながら、出来上がったシューズは、バスケットボール競技者にとって、とても満足度の高いものでした。ところが「すばらしい商品」ができたからといって、すぐに売上げが立つほど、流通の世界は甘いものではありません。無名企業が商品を持ち込んでも、大阪の問屋は、ほとんど相手にしてくれなかったと言います。新しい問屋や小売店のバイヤーに商品を持ち込んでも、最初はてんで相手にしてくれませんでした。そりゃそうですよね。生産力も配送体制も経営姿勢も分からない企業の商品を安直に仕入れる訳にはいかないでしょう。後で聞くと、バイヤーたちは、取引のある会社(オニツカにとってはライバル企業)に「この商品どう思う?」と、感想を聞いたりしていたらしいです。無理もない話です。そこで、鬼塚会長がとった手段。それは、またもや「最終顧客に密着」することでした。最終顧客とは、バスケットボール競技者のことです。鬼塚会長は、各県の強豪バスケットボール部を訪ね歩き、「オニツカタイガー」をPRしてまわりました。また、国体、インターハイ、全国大学選手権などに積極的に出向いて、PR活動を行い、有力選手には、商品を無償提供していきました。監督やコーチは、使ってみてその良さが分かると、地元の運動具店を斡旋してくれました。そうなると運動具店も「オニツカ」を置かないわけにはいきません。すると、当然、問屋も、鬼塚(株)に注文を出さざるを得ません。競技者→運動具店→問屋→メーカー、という強力な逆流通をたどったわけです。

 バスケットボールの一流選手が「オニツカタイガー」を履いているとなると、口コミですぐに広がるのが、競技者の世界です。鬼塚会長が標的としたのは、競技者層の上層部でした。つまり、一流選手および一流を目指す選手の層です。この層を攻略することで、後は、自然に浸透していきます。結果として、競技人口の50%のシェアを獲得するに至りました。これが「錐もみ商法」です。一つの狭い市場をさらに細分化して、コツコツコツコツと攻略を目指す。あえて難しい課題に挑むことで、社内のモチベーションと技術力を高め、40%以上のシェアを獲得するまでは、その一点に集中し続ける。これが、ランチェスター「弱者の戦略」です。

 その後、鬼塚(株)は、バレーボール、テニス、登山、ハイキング、マラソン、体操、レスリングと、扱う商品を増やしていきました。もちろん、一気に品揃えを広げたわけではありません。一つ一つに「キリモミ」で穴を開けていったのです。鬼塚会長自身も病気で二度も死地をさまよいながら、懸命の経営を続けた結果でありました。お気づきかも知れませんが、この「錐もみ商法」は、鬼塚会長のオリジナルです。実は、後に、ランチェスター戦略の話を聞いて「自分のやってきたことがランチェスター戦略なんだ」と得心したということです。

 後に、(株)オニツカ、(株)ジィティオ、ジェレンク(株)とが、合併により(株)アシックスになりました。その頃には、「弱者の戦略」と共に「強者の戦略」を使う局面が出てきました。その際に、ランチェスター戦略の教えは、非常に役立ったと仰っていました。今や、アシックスは、世界的な企業です。アテネオリンピックで、マラソンの野口みずきさんが、優勝した際、靴にキスをしたのは有名な話ですね。あれは、アシックスの靴でした。一流のオリンピック選手の困難な要望に見事応えて、最高の靴を提供し、オンリーワンブランドとなりました。

 「我々は、技術ありき、生産ありき、販売ありきのビジネスをしてきた。しかし、彼らは、工場に投資する代わりにマーケットに投資している。今後、我々が飛躍するためには、見習うべきところは見習わないといけない」のだと。ランチェスター戦略では、起業にとって最も大切なことは、ナンバーワンになることで、そのためには市場を細分化して、狭い範囲にー点集中しなければならないことを説いて来ました。スポーツシューズメーカーのオニツカもまた、戦後の焼け野原の神戸でバスケットボールシューズに一点集中して起業しました。一点集中こそ、弱者がナンバーワンになる道です。では「起業は弱者の戦略で」に従って、狭い範囲でも一番になったら、その後はどうすべきでしょうか?1位の地位に安心せず、2位に対して圧倒的な差をつけたダントツの1位(ナンバーワンと呼ぶ)になるまで、脇目もふらずに攻め続けます。ランチェスター戦略では局地戦の場合は3倍、総合戦の場合は3年で√3(約1.7)倍の差、5年で√1.7(約1.3倍)をつけなさいと、しています。なぜならば、1位であっても2位との差がわずかであれば、いつ逆転されるかわかりませんから不安定な立場です。ダントツの存在になれば、無駄な競争は終わり、収益性がグッと高 まり、その地位は安定するのです。バスケットボールシューズで1位になったオニツカは、その地位をナンバーワンにするために、トップアスリート用、一般アスリート用、ジュニア用などの様々なタイプ、デザイン、サイズなど、他社がつけいる隙がないように、バッシューなら何でも揃うフルアイテム化し、不動のナンバーワンの座を獲得したのでした。その次に、バレーボールシューズに参入。同じようにナンバーワンになるまでやったら、その次はマラソンへと各個撃破で市場を制覇していったのです。このやり方をオニツカ鬼塚喜八郎さんは「オニツカ錐もみ商法」と呼びました。

 こうしてオニツカは競技用スポーツシューズなら何でも揃うフルライン化して、業界全体でナンバーワンとなりました。こうなると戦いの局面は変わり、ライバルはアディダスなど世界のメーカーです。鬼塚さんは決断します。オニツカは国内スポーツウェアメーカー2社と合併し、アシックスとなるのです。今日、アシックスはスポーツシューズメーカーとしては国内ナンバーワンで世界でも4大メーカーの一角です。総合スポーツ用品メーカーとしても、ミズノとならぶ国内2大メーカーの一つです。1位になったら、ナンバーワンを目指す。そして次の分野でナンバーワンを作る。実は、この考え方は「強者の戦略」です。1位であれば零細企業であっても強者の戦い方、すなわちライバルにつけいる隙を与えない戦い方をしなくてはならないのです。「起業は弱者の戦略でナンバーワンを目指す。1位になったら強者の戦略へ切り替えよ」です。今日は「ランチェスターの法則」のお話でした。♥♥♥

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