『思考の整理学』大学キャンペーン

 2025年10月に、尊敬する「知の巨人」故・外山滋比古(とやましげひこ、1923~2020)先生の学術エッセイ『思考の整理学』が、累計発行部数300万部を突破しました。これはとんでもない数字です。2025年10月15日の文庫版累計133刷となる重版によって300万部を突破したのです(累計発行部数=305万6,100部)。この快挙を祝して、版元の筑摩書房では47都道府県ごとのオリジナル帯版が販売されていることが、各新聞の広告欄で、大きな話題を呼んでいます。

 東大・京大で最も読まれたというベストセラー、刊行以来40年以上読み継がれる「知のバイブル」です。私はこの本を読んで以来、外山先生の大ファンになって、全ての著作を読むようになりました。歴代の東大生・京大生に根強く支持されてきた『思考の整理学』。年間文庫ランキング1位を初めて獲得した2008年から2024年までの17年間で東大生協本郷書籍部では7度、京大生協では9度第1位となっています。私もこの本の冒頭に出てくるグライダー人間」「飛行機人間」の比喩は 、講演のネタにもよく使わせて頂いています。学校教育が得意とするのは、先生や教科書という牽引機に引っ張ってもらって飛ぶ「グライダー人間」の育成です。しかし、一度社会に出ると求められるのは、自力でエンジンを動かし、風を読んで自由に空を飛ぶ「飛行機人間」の能力です。「知識を詰め込むだけでは考える力は養われない」という洞察は、受験競争全盛時代の知識偏重教育への警鐘を鳴らしておられたのです。優等生だったはずなのに社会に出てから伸び悩む人と、独自の発想で活躍する人の違いはどこにあるのか?コンピュータもまた優秀なグライダーであると説く著者の指摘は、AI時代において人間がどうあるべきかを鋭く問いかけてきます。この比喩は、多くの読者に「自分は自力で飛べているだろうか?」と内省を促し、自律的な思考への第一歩を踏み出させてくれます。先生は、他にも「忘れる勇気」を奨励しておられます。インターネットのおかげで、私たちは膨大な情報に瞬時にアクセスできるようになりました。しかし、爆速で膨大な情報が飛び交う現在、外山先生「入ってくる情報をすべて頭に詰め込んでいては、創造的な思考はできない」と警鐘を鳴らします。工場に例えるなら、倉庫が満杯では作業スペースがなくなってしまうのと同じですね。重要なのは、覚えることよりも「忘れること」。頭の中の代謝を良くし、不要な情報を整理してじっくりと一呼吸しながら自分を見つめ直してこそ、新しい思考が生まれるスペースが確保できます。情報をいかに選別し、いかに大胆に捨てるかという「忘却の美学」は、日々情報洪水の中にいる私たちにとって、思考のパンクを防ぐ大きな救いとなることでしょう。

 何よりも文章に味があって、こんな文章が書きたいものだ、と常日頃感じています。日本で一番エッセイが上手い人は、外山先生だ、と私は思っているくらいです。私が外山先生の名前を初めて聞いたのは、かつて「日本エッセイスト大賞」を受賞された愛読書、木村治美(きむらはるみ)先生の『黄昏のロンドンから』という本が、ロンドンから恩師の外山先生に宛てた書簡であったと聞いた時です。若い頃、木村先生の美しい文章を書き写しては、一生懸命真似る練習をしていたことがあります。以前、研究社から出ていた英語専門雑誌『英語青年』(廃刊)の編集を一人でなさっていたのも外山先生でした。

 そもそもこの本が発売されたのは、1983年のことでした。当初は「ちくまセミナー」シリーズの一冊として、ビジネスマンの教養書として刊行されましたが、1986年に文庫化されると読者層が一気に拡大したのです。知識を詰め込むのではなく、自分の頭で考え、自力で飛翔するための思考術を語った「知のバイブル」として、じわじわと売れていきました。ヒットの起爆剤となったのは、2006年当時、岩手県盛岡市さわや書店に勤務しておられた松本大介さんの1枚の手書きのポップでした。「“もっと若い時に読んでいれば…”そう思わずにはいられませんでした。何かを産み出すことに、近道はありませんが、最短距離を行く指針となり得る本です。」このポップを付けたところ、3ヵ月で約100冊も売れることになったのです。版元の筑摩書房では、大々的なフェアを開催したわけでもないのに、これほど売れ行きが伸びたことに驚きました。そこで松本さんにお願いし、都内の書店でもこのPOPを使わせていただいたところ、面白いように数字が伸びる結果になりました。さらに帯にもこの文言を入れたところ販売部数が一気に跳ね上がりました(松本大介『本屋という「物語」を終わらせるわけにはいかない』)。東大・京大生協の2008年書籍販売ランキングで『思考の整理学』が第1位を獲得したと知り、軽い気持ちで『東大・京大で1番読まれた本』という帯をつけたところ、予想を超える反響があり、2009年には累計発行部数100万部に到達しました。以降は、春になると新入生や新社会人が手に取る定番の一冊になっていきました。鳥取県立米子東高等学校でも、新入生の春休みの課題図書と指定されていました。2016年には200万部に達し、現在に至るまで年間平均約10万部の重版が続いており、まさに時代を超えた不朽の名著となっています。2024年には外山先生「東大特別講義」を新たに収録し文字を大きく読みやすくした新版も登場し、さらに部数を伸ばしていきました。

 今回実施中の47都道府県オリジナル帯キャンペーンも、全国各地の書店を巻き込んだ企画です。東大・京大以外の大学での売れ行きも調査するため、大学生協事業連合に、2022年8月から2025年7月までの大学生協における文庫累計販売冊数を集計したところ、『思考の整理学』が1位であること、しかも全国44の大学で第1位を獲得していることが分かりました(写真上)。そこで、47都道府県それぞれの地元大学名・集計結果を書いたオリジナル帯をつけて販売する取り組みが始まったのです。

 「この本が春に売れるのは、新生活を迎えて新しいことに取り組みたい、思考のモードを変えたいというニーズがあるから。そして、本書からヒントを得た人が、次の世代に勧めてくれたからこそ、これだけのロングセラーになっているのだと思います。これからも『思考の整理学』ならではの手法で、長く売りつないでいきたいですね」(筑摩書房)

 『思考の整理学』は、仕事や勉強で何かに行き詰まった時や、情報過多で混乱した自分の頭の中をすっきり整理したい時に、ふと立ち返れる原点のような一冊です。まだ読んでいない方は、ぜひこの機会に本書を手に取り、自由に空を飛ぶための「思考の翼」を手に入れてみてください。♥♥♥

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