自分に厳しく

 あの坪内逍遙(つぼうちしょうよう)早稲田中学の校長であった時の話です。中学といっても旧制中学のことですから、最上級の五年生が今の高二にあたります。生徒の中にタバコを吸うものがいたので、呼びつけて説諭すると「やめます」と誓うのですが、なかなかそれを実行することができないでいます。再三お説教をすると、「先生たちだって、やめることができないじゃないか!」これを聞いた校長の逍遥、自らその生徒を呼び、「ぼくもやめるから、きみもやめろ」 長年の愛煙家が急にやめたものですから、いわゆる禁断症状が生じて、食欲は減る、頭はボンヤリする、夜は寝つきが悪くなり、執筆の仕事もはかどらなくなりました。先生たちの中には、「健康を害してまで、無理をなさる必要はないでしょう」と心配する者もいましたが、「生徒にだけ厳格で、自分に寛大では、生きた教育はできない」と語り、とうとう禁煙を全うしたそうです。その生徒がこれにならったことは、言うまでもありません。まさに「自分に厳しく」を実践した人物でした。

 教育者であり、宗教家(キリスト教)でもあった新島 襄(にいじまじょう)が、京都同志社英学校を設立したのは明治7年のことで、これが今の同志社大学の前身です。この新島が、一友人と一緒に船に乗ったことがありました。友人がしきりに酒を勧めるのを、「幾百人の生徒に禁酒を説きながら、自らこれを破ることは、私にはできません」――「そうカタイこと言わないで。ここは船の中、誰も知るものはいません」――「人は知らなくとも、私の良心が知っています」と、ついに一滴も口にしなかったといいます。これも「自分に厳しく」あった人です。

 服部金太郎(はっとりきんたろう)服部時計店」を開いたのは、明治14年のことでした。これが今日の「SEIKO」ブランドの出発点です。その服部時計店に、仕事は非常によくできるのですが、お酒にだらしのない店員がいました。「惜しいなあ!」金太郎は思いました。そういう彼自身は、若い時からタバコが非常に好きで、キセルを手から放している時の方が、少ないぐらいでした。もちろん、ニコチン中毒の状態になっていたに違いありません。ある日、金太郎、そのアル中の若い店員を呼び、「君どうだ?酒はどうしてもやめられないかネ」――「は、どうも」と、恐縮はするのですが、禁酒の意志がありそうには見えません。「どうだろう?今日限り、私はタバコをやめるから、君は酒をやめてくれないか?」――「は……?」青年はびっくりして立ちすくみましたが、結局禁酒にふみきり、これをやり遂げました。服部金太郎もそれ以来、生涯タバコとの縁を切ったそうでです。

 「自分に厳しく」を実践した偉人のエピソードを3つほどご紹介しました。ここで私のつたない経験談です。松江北高に帰ってきた時に、「1時間を大切に!」という学校方針に感銘を受けました。1時間1時間の授業を大切にして、少しずつ前に進んでいこうという教えでした。生徒たちにもそのことをうるさく訴えたものですが、それは自分自身に対しても課したことでした。体調不良などで授業に穴をあけていては、私の言葉も説得力がありません。体調管理をしっかりとして、絶対に休まないことを実行しました。赴任2年目に入院して心臓の手術で休んだことを除いては、1日たりとも休みませんでした。長い教員生活でいつも休む先生も数多く見てきましたが、長年これだけは自分に厳しく課して、今「勝田ケ丘志学館」でも実践しています。総じて休まない生徒たちは目標を達成して巣立っていくように感じています。

 模擬試験を受検した後に「やりっ放し」にしている多くの北高生たちを間近に見て、これではいけないと痛感しました。「やっておけよ!」「見ておけよ!」「忙しい」と称してそういう先生が多いのも事実です。ひどい場合には自分で解くこともありません)では生徒は絶対にやらないのです。そこで、自分でも模擬試験(記述・マーク)を生徒たちと一緒に解いて、そのフィードバックを「見直しプリント」(2枚~4枚)という形で翌日に配付してもう一度「見直し」てもらうことにしました。これは効果があったように感じています。今でもこの「見直しプリント」は続けていますが、作成・入力に結構時間がかかりそれをわずか1日でやるのは決して楽ではありません。それでもやり続けているのは、これを実践してくれた生徒たちの力がかなり伸びていくことを肌で実感しているからです。

▲11月全統プレテスト「見直しプリント」

 大田高校で新米進路部長をしていた頃、生徒たちが大学・短大・専門学校のことをあまりにも知らないもので、情報提供のために進路指導部通信「あむ-る」毎週発行しました。担任時代から毎週続けていたことなんですが、これにより進学成績が飛躍的に伸びました。津和野高校松江北高校でもこれは続けました。今ではさすがに月に一回程度となりましたが、毎月大学情報を先輩卒業生たちにお願いして編集しています(最新12月号は大阪大学・人間科学部特集)。「自分に厳しく!」♥♥♥

▲「あむーる」12月最新号

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