I envy you再考

 「うらやましいな、あなたほっそりで」を英語に直した文、“I envy you. You’re so smart.”の問題点を、デビッド・セイン先生『ニッポン人のヘンな英語』(日本文芸社、2005年)の中で取り上げられておられました。英語のsmartが「あなたのそのズル賢さ、うらやましい」と取られかねないので、slenderに変える必要がある、というのが解説でした。私はここで、この前半部分のI envy you.という表現を取り上げたいと思います。「いいなあ~」「うらやましいなあ!」という意味で、日本人がよく使う表現に“I envy you!”があります。辞書や参考書にも堂々と載っている表現です。もちろん文法的には何ら問題はありません。

I envy you. あなたがうらやましい [ライトハウス英和、コンパスローズ英
和]
I envy you. うらやましい、いいなあ《素直にうらやましい気持ちを表現》[ア
クシスジーニアス英和]
I envy you. うらやましいよ、いいなあ《素直にうらやましい気持ちを表現;
相手に不快感を与える言葉ではない》[ジーニアス英和]

 日本の英語教育では「うらやましい=envy」と覚えがちですが、ネイティブスピーカーの感覚からすると、この言葉は少し「重い」響き(嫉妬・羨望・悔しい気持ち)を持っています。ネイティブは、この表現をほとんど使いません。ちょっと重い不自然な感じがして良くないし、人によっては引いてしまうかもしれないからでしょう。

 ‘envy’ というのは、他の誰かのものを欲しい、うらやましい、というだけでなく、その対象となる人に悪意すら持っている、というもともとのネガティブなニュアンスがあります。日本語でいう「ねたむ・そねむ」に近いと思います。「正直ちょっと悔しい」「自分もそれが欲しい」、場合によっては「ずるいなあ」という含みのように受け取られることもあります。単なる「いいなあ」ではなく、「あなたが持っていて私が持っていないことが)恨めしい、許せない」というドロドロとした独占欲や敗北感が背後に見え隠れします。初対面やビジネスの場で使うと、「この人は自分の成功を快く思っていないのではないか?」という警戒心を与えてしまう可能性があります。現代ではネイティブスピーカーもここまで細かく意識はしませんが、それでも “I envy you!” は使わないほうがいい表現です。私たちが日常会話で使う「うらやましいな」という気軽なニュアンスとはかけ離れているからです。髙橋基治『学校では教えてくれない英語の使い方がひと目でわかる本』(コスモピア、2018年)pp.152-153には、「日本語の「いいなー」はI envy you.じゃない」と題して、「envyには相手の持っているものや状況を「ねたむ」というネガティブな感覚が含まれています。そのため日本語で軽い気持ちで言う「うらやましいなー、いいなー」とはちょっと違います」「実際ネイティブはあまりこのフレーズを口にしません」とあります。

 他に「うらやましい」を辞書で引くと、出てくる英単語に ‘jealous’ があります。英語ネイティブには、 “I envy you!” よりも “I’m jealous.” という表現のほうが一般的です。 副詞‘so’ を付けて “I’m so jealous!” と表現することが多いようです。soをあえて強調して言うことで、カジュアルなニュアンスが伝わりやすくなります。面と向かって “I envy you!” と言うネイティブはほとんどいません。この表現を使ってはダメだということもないのですが、ネイティブは “I’m jealous” と言うので、それに倣うほうが無難だと思います。「いいな〜」「うらやましい」を英語で表すには“jealous”を使うのが最もナチュラルな言い方です。辞書や学校の教材などでは「jealous」=「嫉妬深い・焼きもち・妬ましい」など、ネガティブな表現で解説されることが多いかと思います。人の性格を表す時や状況・使い方によってはそれらを意味しますが、一般的に日常会話では、相手に良いことがあった時に言う「I’m (so) jealous」はネガティブな意味合いは全くありません。相手の良いニュースに対して使う「jealous」「いいな、うらやましい」とポジティブな意味を持ちます。“You’re cool/ awesome/ great.”なども使えるでしょう。尊敬する竹岡広信先生の最新刊『LEAP Basic必携英単語』(改訂版、2025年)では、envy「~を羨ましく思う ▲「自分も欲しいと思う」 [注意]会話では「あなたが羨ましい」は“Lucky you!”と表現するのが自然」という正確な記述が見られます。サスガです。

 高橋基治・阿部 一『ビッグデータ英会話』(西東社、2021年7月)では、「I envy you.は、嫉妬に聞こえるので要注意!」として、アメリカ人の日常会話300万語のコーパスデータでの使用率を挙げておられました。それによれば次の通りです: That’s nice.(64.9%)/ I’m jealous.(18.1%)/ Lucky you.(8.5%)/ You’re so lucky.(6.4%)/ I envy you.(2.1%)  上で述べたことが裏付けられていますね。この本、とても勉強になります。

 「うらやましい」をI envy you.と覚えている人もいるでしょう。でも実はこれ、ニュアンスは「嫉妬しちゃう、悔しい」ということで。場合によっては相手のもっているものを欲しがるという意味にもとられることがあるので要注意。気心の知れた親しい相手同士で、冗談ぽく使われることはありますが、面識のない相手には避けたほうがいいかもしれません。(p.32)

 特に初対面やフォーマルな場面では、That sounds wonderful!(それは素敵ですね)、That’s amazing!(すごいね)、I’m happy for you!(よかったね)、I wish I could do that too!(私もそうできたらなあ)のように言い換えたほうが自然で安全です。 

 友達や同僚の嬉しいニュースには、一緒に喜んであげる方が自然だということです。尊敬する山岸勝榮先生『スーパーアンカー英和辞典』(学研)が、「注意 日本語の「うらやましい」はしばしば他人をほめる社交辞令に用いられるが、英語のenvy, enviousはしっとの感情を含むことが多いので、その使用には注意が必要」と書いておられたのはさすがと思いました。ネイティブの意見を下に挙げておきます。

 This phrase is by no means a mistake; in fact, the meaning of ‘envy’ is correct in this kind of context. It’s not the phrase that native speakers use, however, and the actual phrase we prefer has interesting origins.

 The reason why “I envy you” is used by Japanese people is perhaps not so strange. There are two words that share a similar meaning – “envy” and “jealousy”. The interesting thing is that the perception and understanding of ‘jealousy’ has been warped over time by native speakers. So what do these words mean? “Envy” is felt when someone else has something that you don’t have, like when your friend is going off on holiday to Barbados. “Jealousy”, however, originally means the fear of losing something or someone to someone else, e.g. a man who feels threatened that his girlfriend might be stolen by another man.

 このように注意が必要なI envy you.ですが、『ジーニアス英和辞典』(第6版)には、「I envy you. うらやましいよ、いいなあ《♦素直にうらやましい気持ちを表現;相手に不快感を伝える言葉ではない》」と語法注記にあります。最新の『英語教育』6月号の「クエスチョンボックス欄」で、中邑光男教授「I envy you.は不快な表現?」と題して、この注記に関する解説をしておられました。この表現には「祝福・賞賛」の含みがある場合と、「妬み・嫉み」の含みがある場合があることを解説し、『ジーニアス』の記述はやや強すぎたとして、次のような改案を提示しておられます。

♦相手がもつ境遇・能力・幸運などを、自分も欲しいと思う気持ちを表す言い方;必ずしも否定的な感情を伴わず、しばしば賞賛・共感・行為を含む。

しかしこれでは、「使用に注意するように」という実態を注意喚起したことにはなりません。この改案では不十分だというのが私の実感です。

 言語の裏にある感情の温度差を捉える必要があります。単語レベルの直訳と実際の使用場面のニュアンスは、別物の場合があるということです。最近では、トランプ―高市会談における茂木外相“So-so.”という言葉でそれを感じました(この問題は後日改めて取り上げようと思っています)。♥♥♥

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