「収穫逓減の法則」

 一定の土地から得られる収穫は、投下された労働量、資本量に比例してある程度までは増加するのですが、ある一定の限度を超えると次第に減っていく、というのが「収穫逓減の法則」(しゅうかくていげんのほうそく)です。元は農業の生産性から派生した法則なのですが、ごく簡単に言うと、生産量を増大させようとすると、生産効率が落ちるというものです。作物に肥料を与えることで、収穫量は増えていきますが、その増収率は次第に減っていき、一定の量を超えると、今度は減収に転じてしまうという現象を表しています。つまり、所定のインプット量から、一定のアウトプット量につながっていたのが、インプット量を増やし続けると、アウトプット量が追いつかなくなってしまうということで、このことは、農業以外の分野にも当てはまる法則として知られています。

 最近の分かりやすい例で言えば、ペッパーフードサービス「いきなり!ステーキ」を挙げることができるでしょう。美味しいステーキを立ち食い形式で提供する、新しいビジネスモデルを展開して、糖質制限ブームもあって大人気を博しました。飛ぶ鳥を落とす勢いでどんどん全国に出店拡大をしていきましたが、近年は急激に失速してしまいました。島根県でも出雲市・松江市に出店(イオン)した際にはすごい大行列ができて超人気でしたが、アッという間に閉店してしまいましたね(⇒私の松江店訪問記はコチラ)。「世界の亀山モデル」で一世を風靡したシャープの液晶テレビもいい例です。さらなる成長を目指してどんどん工場の規模を拡大していったものの、企業の存続が危ぶまれる状態にまで業績を悪化させて買収されてしまいました。1つの事業に頼って大きくし過ぎた結果、苦しくなってしまった好例だと思います。

 最近、グループ内での不適切会計疑惑が持ち上がり連鎖的に拡大し、内部管理体制などの改善計画の策定方針を表明したモーターの世界的大手・ニデック(旧日本電産)も、大きくし過ぎたあまり綻びが出た好例です。私の尊敬する創業者の永守重信(ながもりしげのぶ)グローバルグループ代表(最近、疑惑の解明に関して何の説明もなしに代表を辞任されました。「ニデックの経営は岸田社長にすべて委ねる。これでニデックは、しっかり再生できると信じている」とのコメントを残したのみで、少し失望しました)が、一代で世界的企業に育て上げた会社でしたが、急成長のひずみはなかったのでしょうか?同社は疑惑の解明とともに、経営や業務の在り方の見直しを迫られています。「短期的な収益を重視しすぎる企業風土の弊害は明らかだ。(現場に)プレッシャーがあったことも否めない」と、疑惑について同社の岸田光哉社長は記者会見でそう断言しました。そんな言い訳は通用しません。ニデックM&A(企業の合併・買収)によって事業をどんどん拡大してきました。その数は国内外で75社(2025年7月時点)に上ります。永守氏は「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」永守イズムによって、傘下となった企業の業績を次々と好転させてきました。しかし、今回の問題によって結果をあまりにも追い求める企業風土に落とし穴はなかったのか、との疑念が生まれています。「目標必達」を重視する永守氏のプレッシャーが、今回の問題につながった可能性はあるでしょう。

 同じことをずっと続けていると、効果が下がってくるのです。これは勉強でも同じことが言えます。朝から晩まで一日、今日は数学だけ、あるいは国語だけと集中学習をすることもできるにはできるのですけれども、どんな酔狂な学校でも、そんなことを考えたりは絶対にしません。飽きてしまって能率が上がらないのは目に見えているからです。実際にかつて、東京の超有名進学校で(どこか分かりますか?)、時間割改革を試みたことがありました。英語をやって休み、数学をしてまた休み、社会を勉強して休み。これではコマ切れで効率もよくない。長時間制にして、例えば今日は朝から晩まで数学、次の日は朝から晩までぶっ続けで英語を勉強する、というカリキュラムを実施しました。そうすれば忘れるヒマもないから、学力がつくに違いない、と先生たちは考えたようですが、すぐに廃止となりました。生徒の学力が大きく下がったのです。これでは生徒の集中力は持たないことは明らかです。一日のうちに、いくつもの学科を勉強する、数学、英語、理科、音楽、国語といった時間割の方が明らかに優れています。問題は一つの学科を勉強した後、次の時間への切り換えです。数学の頭のままで英語の時間へ入って行っては、英語がよく呑み込めないかもしれません。教室の黒板を消さないで、そのまま、次の時間の授業を始める先生はいないでしょう。10分間の休み時間は頭の黒板をふき消すための時間です。教室のことを忘れてはね回り、騒ぎ回って、頭をきれいさっぱりさせる。そして次の時間に臨む。教室でずっと本など見ていてはいけないのです。学校の勉強がうまくできるもできないも、この「頭の切り換え」にかかっていると言ってもよいでしょう。忘れる時間、一服の休憩は、勉強の効果を高めます。「よく学び、よく遊べ」ということです。ただ校庭で騒ぐだけでもスイッチの切り換えの効き目はありますが、たとえば、水で顔を洗うというようなことをすれば、さらに頭がきれいになるでしょう。

 私の体験談です。退屈な講演を聞いていると、30分くらいまではいいのですけれども、その後、だんだん疲れてきます。この「収穫逓減の法則」が働き出しているのです。さらにもっと疲れてくるとコックリコックリを始めます。「もうとても聞いてはいられない…」と、体が反応していることになります。場なれた講師なら、聴衆が少し疲れ出したと思われる頃合いを見はからって、ここら辺で面白い話をはさんで笑わせます。笑いというのが、学校の放課、休み時間に相当する働きをするのです。笑うたびに「頭の黒板」がきれいになりますから、倦怠感を覚えません。笑っているうちにおしまい、となって、時の経つのを忘れたと言いながら帰って行きます。笑いは頭をよくする。休み時間は頭をさっぱりさせる。切り換えのうまい人がいい仕事をするのです。♥♥♥

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