toolbox talks?

    事前知識もなしにいきなりtoolbox talksを日本語に訳せ、と言われれば、たとえ(同時)通訳者であっても「工具箱の話」と訳すでしょう。 toolboxは「工具箱」、talksは「話」ですから。いくら通訳者でも人の子です。初めて体験する分野では、しかるべき情報がなければそういう訳出くらいしかできないでしょう。松下佳世さんの『同時通訳者が「訳せなかった」英語フレーズ』(イカロス出版、2020年の中で、この句に関する経験(失敗)談が紹介されています。

 とある作業現場で、現場を取り仕切る棟梁が「じゃあtoolbox talkをしに行くから通訳よろしくね~」と一言。「なぬ?toolbox talk? そうかそうか、作業前に工具についても話しておかないといけない、というわけね」と、松下さんは思い切り勘違いをしたまま通訳を始めることになりました。ただ、通訳者の第六感か、なんとなく「工具箱の話」と訳すことに違和感を覚えたので、無難にそのまま「ツールボックストーク」とカタカナにしておこう、と心に決めて通訳に臨みました。ところが、話の内容が「クレーン作業時の注意」やら「熱中症の防止」やら、もはや工具箱とはかけ離れた内容に変わっていくにつれて、頭の中で「??」の数が増えてきました。

 これは全米安全評議会が1940年代半ばに発行した専門誌の中で、労働者に対して行う毎週の「安全ミーティング」を、寸劇という新しい切り口で行うという取り組みが紹介された際に、その寸劇のタイトルが“Fairyland Weekly Toolbox Meeting”であったことから始まっているとされています。今では職場での安全衛生教育を目的として定期的に行われる、「業務前の短い安全講話」を意味する用語となり、日本語では「安全講話」「安全朝礼」「作業前ミーティング」が相当します。

    Toolbox talks =(朝礼などで行われる)安全講話

 toolbox talksとは、主に建設現場や工場などの職場で行われる作業開始前や、作業の合間に行う短時間の「安全ミーティング」のことです。昔、アメリカの職人たちは、作業を始める前に、作業に使う道具箱(toolbox)を中心に自然と集まり、その日の作業手順や危険箇所をサッと確認し合ったことから、このミーティングが“toolbox meeting”“toolbox talk”と呼ばれるようになりました。会議室に座って受ける「Training(研修)」とは異なり、現場で道具を手にしながら行う「実用的で短時間の話し合い」というニュアンスが込められています。従来の「安全ミーティング」「堅い」「長い」「上からの一方通行」になりがちだったので、「5~10分程度」「現場で」「対話形式」というニュアンスを出すためにmeetingではなくtalk が使われるようになりました。作業開始前に行う短時間の安全ミーティングを指し、ほぼ毎日実施されることが多く(5分~10分)、現場責任者(職長・監督)が主導します。現在では建設現場・製造業・鉄道・インフラなどで、作業前の安全確認ミーティングを指す一般的な現場[業界]用語となっています。「道具箱を囲んで話す」という言葉の裏には、現場の安全は現場の人間が守るという、プロフェッショナルな自覚が反映されています。主な内容としては、当日の作業内容、危険箇所(高所作業、重機、足場の濡れ具合など)、天候や周囲環境の注意事項、保護具(ヘルメット・安全帯)の確認で、安全対策を共有することが目的です。(例)「今日は気温が35度を越える予報だ。こまめに水分を補給をして、気分が悪くなったらすぐに報告するように」「昨日からの雨で床が滑りやすくなっている。資材の置き場所を整理して、通路を確保しよう」「今日は高所作業がある。ヘルメットと安全帯の点検を各自もう一度行うこと」。英和辞典には未収録の表現です。用例を見ておきましょう。♥♥♥

We have a toolbox talk every morning before starting work. (私たちは毎朝、作業を始める前に安全ミーティングを行います)

Today’s toolbox talk is about working at heights. (今日の安全講話は高所作業についてです)

Let’s have a quick toolbox talk to review safety procedures. (安全手順を確認するために、短い安全ミーティングをしましょう)

Alright everyone, let’s have a quick toolbox talk before we start.(よしみんな、始める前に手短に安全講話をやろう)

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