練習は嘘をつかない?

 以前に「努力は必ず報われる」という言葉の注意点を述べたことがあります。二つの点で注意が必要です。やみくもにいくら努力してもいい結果は生まれないことは、私が毎年悪銭苦闘している受験の世界でも日常茶飯事のことです。努力すれば必ず結果が出る、などと安易な思い込みで受験生活を送ってみても、思うような結果が得られない人は今まで山のように見てきました。まず第一に、この言葉には但し書きが必要で「正しい努力をコツコツと積み重ねれば努力は必ず報われる」としなければいけません。間違った努力をいくら続けても、効果はありません。努力逆転の法則」(エミール・クーエの法則)というのもあるくらいですから(⇒私の解説はコチラです)。これは、簡単に言うと、頑張れば頑張るほど、その努力とは正反対の結果になってしまうという法則です。「あがらないように、あがらないように」と思うと余計にあがってしまう、好きな人の前で普通にふるまおうとすればするほど動作や態度がぎこちなくなる、テスト翌日への緊張感でどうしても眠れない時に、無理に寝ようとすればするほど目がさえて余計に眠れなくなる、などがこの法則に当てはまりますね。長い間教員をやっていますと、これだけ頑張っているのに結果が出なくて悩んでいます、という相談をよく受けます。努力にこだわりすぎると、それが結果に反映されないどころか、逆効果さえ生んでしまうこともあるのです。これは「自己暗示」の結果です。自己暗示には「意思と想像が争った時、常に勝利を収めるのは想像」という法則があるのです(エミール・クーエの法則)。「あがってはいけない」(意思)より「あがるだろうな」(想像)の方が強いということです。こういう時には発想を転換して、意思を「あがってもいい」と思うことで、心が落ち着きますよ。いずれにしても正しい努力をコツコツと積み重ねることが大切です。受験勉強でも、模試を沢山受けては受けっぱなし、問題集・参考書に次から次から手を出してはいずれも途中で放り出す、点さえ取れればそれでいいという姿勢、定期考査・課題テスト・対外模試・毎日の小テストを「やりっ放し」にする、読解の予習は訳して終わり、問題集をたくさんやれば力がつくのだ、こうした練習をいくら続けても成果にはつながりません。こういった生徒を毎年山のように見てきました。

 巨人の二軍監督を電撃退団して、オイシックスのCBOに就任した桑田真澄さん(57歳)が(阿部監督の指導方針とは合わなかったのだと私は見ています)、「練習練習練習はうまくならない」として、「練習して、栄養を取って、睡眠、休養ですよね。寝てる時に筋肉が再生し、強くなり、練習した技術を脳や神経が覚えていく」と語り、育成ワードは「サイエンス」「バランス」「リスペクト」の3つだとしました。センター試験時代から私が言い続けていることですが、問題を数多く解くだけでは力はつきません。各大問の狙いをよく理解し、解くための戦略を自分なりに身につけ、時間配分にも配慮する、こういったことを大切にしなければなりません。

 そして二つ目の注意事項です。努力には即効性はない」という点です。頑張っても結果が出ないとすぐに諦めて放り出してしまう。受験生にもたくさん見られます。すぐに結果が出るはずはないのです。受験勉強では、最低でも3ヶ月は頑張り続けないと結果は現れ始めません。このことをよく理解して、根気強く努力を続けることが大切です。成功の秘訣は成功するまでやること」と喝破したのは、尊敬する松下幸之助さんでした。

 日々の努力を続けられないのは、どこかで努力の効果がすぐ表れると期待しているからだ。今日、素振りをしたからといって、明日打てるわけがない。地道な努力を続けるうちに、じわじわとその効果は表れるものだ。(野村克也『言葉一つで、人は変わる』(詩想社新書、2016年))

 「努力」を辞書で調べると「ある目的のために力を尽くして励むこと」とあります。あのイチロー選手「努力」について語っていたことがあります。「これまでに、これだけは絶対誰にも負けていないと胸を張って言える努力って何ですか?」と質問されたイチロー選手は、次のように答えました。「高校の時に寮に入っていた3年間、僕は寝る前の10分間素振りをしていました。そしてそれを1年365日、3年間欠かさず続けました。それが僕の誰にも負けないと思える努力です」この言葉を聞いたイチロー選手の高校時代の先輩は、「10分間の素振りね、あれは最低10分だからね。やり続けると1時間でも2時間でもやっていましたよ」イチロー選手が考える努力とは、「自分が決めたことをやりぬくこと・やり切ること」でした。「やれることはすべてやったし、手を抜いたことはありません。常にやれることをやろうとした自分がいたこと、それに対して準備ができた自分がいたことを、誇りに思っています」(2002年シーズン終了後にシーズンを振り返って語った言葉)。いくら努力をしたと自分では思っていたとしても、たいていその努力は裏切られます。努力をすることで、自分の夢が簡単にかなうほど世の中は甘くありません。いやそれどころか、いくら努力を重ねても、かえって前に進めなくなることの方がはるかに多いのです。努力というのは、本来自分を磨くことなのです。努力は結果を保証しません。だからこそ、「努力の質」が求められるのです。

 またSNSで、ダルビッシュ有投手があの二刀流・大谷翔平選手を表してこう語っていました。

「ホームランがすごい。ピッチャーもできてすごい。もちろんそう。でも、僕が見てるのはそこじゃない。その裏でやっていること。その裏でどんなトレーニングをやっているか。どんな栄養をとっているのか。トレーニングの組み方、栄養の取り方、そういうところを見ている。それを知っているから大谷くんがすごいホームランを打っても驚かない。だってそのための努力をしているから。」(ダルビッシュ有)

 ダルビッシュ選手の考える努力とは、「成果を出すための行動の積み重ね」であり、「すぐに結果が出ないことへの行動の積み重ね」と言えるのではないでしょうか。イチロー選手ダルビッシュ投手「努力」の考え方を併せると、「努力」とは「すぐに結果が出ないことに対してでも、自分が決めたことをコツコツとやり抜き、行動を積み重ねること」と言えそうです。「努力は裏切らないのか?」に関して、ダルビッシュ投手は語っています。「練習は嘘をつかないって言葉があるけど、頭を使って練習しないと普通に嘘つくよ。」この発言、「練習」という言葉を「努力」と置き換えても良いのではないかと思います。「努力」の方向性が間違っていては、無駄になることもあると解釈できるでしょう。尊敬する経営コンサルタントの小宮一慶(こみやかずよし)さんはこのように述べておられます。

 「サッカー選手が野球の練習の努力をしてもサッカーはうまくならない。サッカー選手は、サッカーの練習をする努力が必要。経営も一緒。営業がうまくなる努力をしても、経理がうまくなる努力をしても、経営はうまくならない。経営という独立した仕事があり、経営とは何かを理解して、そのための努力を積み重ねなければ、経営はうまくならない。」(小宮一慶『経営者の教科書(改訂版)』(ダイヤモンド社、2025年))

 大リーグのヤンキースで活躍した松井秀喜(まついひでき)選手が、あるテレビ番組の中で次のようなコメントを残しておられ、とても印象に残りました。

「自分ががんばっていると思っていなくても、他人がすごくがんばっていると思う状態。これが良い状態だと思います。」

 この松井秀喜選手の言葉から、「努力は周りが決めること」であり、いくら自分が努力していますと言っても、周りからすごいと思われなければ努力のうちには入らないのだということです。努力していると自分で思っているうちは、なかなか成果にはつながらないものなのかもしれません。努力をしている本人は、おそらく努力をしているというような感覚を持ってはおらず、そこに悲壮感はなく、現状を良くしよう・状況を良くしようという方向にひたすら行動しているだけ。でも周りはその姿を見て、すごい努力をしていると感じるということではないかと思います。♥♥♥

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